見出し画像

毎週ショートショートnote|ほころびタンシチュー

行きつけの洋食屋のマスターはかなりの高齢で、ぶっきらぼうな感じだ。
使い込まれたコック服は薄汚れて、裾はボロボロとほころんでいる。

しかし、窓際にはいつも切り花が生けられていて、今日もかわいい蕾がほころんでいる。

「タンシチューひとつ」

無愛想だったマスターの顔がほころぶ。
タンシチューはもう何十年も続く看板メニューだ。

「はいよー」

いつも美味しいと思って食べていたが、どうも違和感を感じる。
俺はこの店のタンシチュー好きが高じて、あらゆるタンシチューを食べるようになった。
思い当たることがあった。

「マスター。もしかしてこのタンシチューってレトルト、じゃないですよね…?そんなことないですよね失礼しました」

「そりゃあんまりだよ。わしゃ何十年もこのタンシチュー作ってんだよ。駅前のスーパーで金曜日に安売りしてるレトルトの398円のヤツとはちがうのよ。ありゃ朝イチで並ばんと売り切れちまうのよ」

「…え?」

違和感が、ほころびになった。

408文字

毎週ショートショートnoteに参加しています。

いいなと思ったら応援しよう!