掌編小説|メゾンリヴェール苫小牧
俺はサッカーのクラブチーム『メゾンリヴェール苫小牧』でプレイできることになった。
物心ついたときからサッカー一筋の俺は夢を叶えた喜びで胸が一杯だった。
ずっと応援してくれた彼女にそのことを報告したら、「マンション詐欺じゃない?」と言われた。
一瞬イラッとしてしまったが、よくよく話を聞いてみると、「メゾンリヴェール」はフランス語で「川沿いの家」みたいな意味になるらしい。しかも彼女曰く、「いかにもアパートの名前じゃん」ということだった。
そこで俺は、契約書類に書いてあった住所に行ってみることにした。
そこは樽前山の山中だった。
だから一応、存在する住所だ。
そこはきらきらと小川が流れ、美しい鳥の声が響き、木々の間から爽やかな風が吹く、素晴らしい土地だった。
そこに突然、メゾネットタイプのアパートが一軒ぽつんと建っていた。
確かにその建物の壁には『メゾンリヴェール苫小牧』と書かれた立派な金属プレートが掛かっていた。
俺は、試しに101号室のインターホンを押してみた。
すると中から、先日面接で会ったオーナーが出てきて「おー! 来てくれたんだ! 入って入って」と言われた。
中に入ってみると普通のアパートのように見えたが、リビングのど真ん中にエレベーターが鎮座していた。
「さ。乗って」
オーナーに言われるままエレベーターに乗ると、ボタンはB1からB10まであった。
オーナーはB10のボタンを押すと、エレベーターはぐんぐんと降下した。
ガラス張りのエレベーターから各階の様子が一瞬だけ見える。どの階も必死にサッカーをしている様子が見えた。
B10に着くと、オーナーに「ルーキーは全員B10からなんだけど、キミは大学までやっていたみたいだし、すぐに上がれると思うよ」と言われた。
扉が開くと、コーチらしき人が俺を手招きしていた。
エレベーターから出ると、すぐに扉は閉まり、オーナーは再び上昇していった。
もうその五分後には俺は着替えを終えて、試合
形式の練習に参加していた。
あれから一か月経った。
俺は今、B7まで来ているが、このレベルでもかなり厳しい。
地下はスマホの電波が来ていないので、自然とやることはサッカーだけとなった。
しばらく地上に上がれないのは確定しているので、ほぼ全員オシャレの意識を失い坊主にしていた。
聞くところによると、B1リーグで最優秀に選ばれたら、コンサドーレ札幌に入団できるかもしれない、ということだったが、今の所実績はないらしかった。
もしダメでも、メゾンリヴェールグループは全国どこにでもあるので、施設管理や不動産仲介などの仕事があり引退後も安心、とのことだった。
今は給料はもらっていないが、その代わり衣食住はタダで、しかも引退後のことも保証してくれるのであれば、悪くないと思った。
実はプロ野球ではこのシステムは一般的で、オリックスがこれを採用するようになってから160キロ超えのピッチャーが量産されるようになったらしく、それが引き金となって各球団に広まり、今では巨人と中日以外の球団は採用しているということだった。
それをサッカーでもやろうというのが、メゾンリヴェールグループなのだ。
彼女と連絡が取れていないのがやや気掛かりだったが、そのことを考えると最短でも二、三年後の話になるので、俺は必死に考えないようにしている。
(終わり)
