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毎週ショートショートnote|踏切オーディション

令和十年六月八日の朝、照井は職場へ向け自転車を漕いでいた。
薄緑の作業服が最初は嫌で、黒い上着を羽織っていたが、今は平気だ。
ズボンの裾がほつれてふらふらしている。
ペダルの回転とほつれた糸の関係は二重振り子のように変則的で、なおかつ物理法則の範疇だった。
照井は中学生の自転車を二台追い抜いた。彼らもヘルメットを被っていたが、照井のは『芳永建設(株) O型 てるい』と書かれたヘッドライト付の上位機種だった。
T字路を右折するとき、照井は手信号を使った。それをしたのは彼だけだった。
斜度四十五度の坂を滑り降り、V字型に登る。太腿の力をすべて出し切り、登った。
振り返るとそこに線路が走っていた。
「踏切。なくなっちゃった。」
踏切を模したキャラクタが彼の元にスポーンして呟いた。
「俺は踏切のままが良かったけど」
照井がそう言った瞬間、空間がぐにゃりと変形した。

気付いたら照井は、黒い上着を着て踏切待ちをしていた。
「また落選? 何でここだけセーブポイント二年間もないの?」と彼は独りごちた。

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