不条理掌編|リラックス 他2
1 リラックス
一点に集中する作業に俺はリラックスしている。工場内の騒音に俺はリラックスしている。ひよこの数。黄色いふわふわの毛を包み込むようにつかんでトレーの中に入れる。その中にはひよこではない似たようなものたち。例えば手巻き寿司とかダルマ画鋲とか。それでわからなくなっちゃってそういうものが出荷される。でも俺は構わず作業を続ける。包み込むように優しく。ひよこの工場内はひよことニワトリの間くらいのニンゲンが作業していて工場長は先進国から来たニワトリの成虫だ。工場長は「手巻き寿司と混ざっとるやないか」的な事を先進的な言語体系で言っているようだ。またトレーにウチダザリガニが混ざっている。本当は除去しなきゃいけないのだけれど時給が安いからサボっている。雄雌を見分けるわけでもないのに白熱電球が煌々と照り付け額から汗が滴り落ちる。トサカは気持ち悪い。先進国特有の形をしている。作業員の中でもニンゲンからニワトリの成虫になりかけている奴もいてそれを工場長は目ざとく見つけて幹部候補に抜擢している。知らない国が運営する工場の中で最初からニンゲンの俺はリラックスしている。
2 トーマ教
ゆうかりは笹の葉を集めて笹藪の中に隠れ住んでいる。ゆうかりは現在のシリアのアレッポあたりで産まれて今は現在の中央アジアのカザフスタンの何処かにいる。ここは砂漠の中に笹藪が一か所だけ茂っていてそこに雉がたくさん隠れ住んでいる。ゆうかりは雉じゃなくてニンゲンなんだけど雉のことも仲間だと思っている。先祖は現在のアフリカのボツワナ北部の広大な湿地帯で誕生した。つまりゆうかりは現在で言うグレートジャーニーの途中だ。旅人は旅の最中にその旅の名前など付けない。だからグレートジャーニー中であることも知らないんだけどゆうかりの仲間のきょぴたやはぱぽぼなんかは何となくそれを察して先を急いでいた。ゆうかりはこの笹藪とそこに隠れ住む雉を気に入ってしまいここに留まった。そしてゆうかりはここでトーマ教の始祖となった。雉はゆうかりからトーマ教の教えを受けたあと笹藪ごと砂漠に飲み込まれた。
3 So Keep Hold On Tight
高校一年の時、僕には恋人がいた。僕はとんでもない田舎の生まれだったから、高校に進学するタイミングで実家を出て下宿に入った。その日は土曜日で、午前中から恋人と映画を観て、コーヒーを飲んで、服や雑貨なんかを買って、ファミレスで夕飯を食べた。店を出たら辺りはすっかり暗くなっていた。だから何となくいい感じになって、僕は恋人を下宿に連れ込んだ。下宿はいろんな年代の一人暮らしの人が住んでいてトイレと風呂と調理スペースが共同だった。結構他の部屋の人も恋人を連れ込んでいたようだったから、特に僕の中で違和感はなかった。部屋で恋人と一緒にサブスクの映画を観た。アメリカのホラー映画や日本の漫画原作の映画を観た。手を繋ぎながら観ていると手が湿ってきたので、ときどき手を離して湿り気を拭いた。恋人は女の子にしては低くて掠れた声をしていた。だから僕の始めたばかりのギターがある程度弾けるようになった暁には椎名林檎を歌ってほしいと恋人に言った。恋人は「葛城なんちゃらのボヘミアンじゃないの」と僕の知らない曲名を言った。巫山戯た様な雰囲気になったので、そのまま身体を触った。それがいつの間にか無言の求め合いになって、そのまま布団の中に入った。深夜二時くらいだったと思う。気付いたら僕は眠っていた。
ここから先は、彼の隣の部屋に住んでいる私が説明します。
彼の恋人は、朝がた砕け散りました。その道連れで彼も死んでしまいました。なぜそれが私にわかるのかと言いますと、隣の部屋から「メガンテ」と言う低い女性の声が聴こえて来たからです。なんせベニヤ板で仕切っただけのものでしたので、音などは筒抜けです。その瞬間、彼の部屋と私の部屋は繋がりました。バリバリになったベニヤ板の間から彼の部屋を見るとベッドの上は血まみれで、部屋中血飛沫が飛び散っていました。私は警察に連絡しようと思ったのですが、メガンテと聴こえてきたから砕け散ったんだと思います、と証言したところで誰が信じるのだろうと思いました。ですから私はこの部屋をベギラマで一旦焼いてから、火事ということで通報しました。
(終わり)
