見出し画像

【毎週ショートショートnote】郷に入ったおしゃれ

 「拓哉ー。タバコ取ってー。」

 拓哉はもう、静香に魅力を感じていない。

 拓哉がまだ駆け出しだった頃、静香は絶対的なアイドルだった。茶色い髪を立ち上げ、紫の肩パット入りスーツで歌う姿に度肝を抜かれた。

 そんな静香に少しでも近づこうと、拓哉も髪を伸ばした。不思議なことに髪が伸びるに従い、拓哉の人気も不動のものになっていった。

 「拓哉ー。ワタシと結婚しないのー。」
 デコトラの運転席の様なラブホテルで静香は出しぬけに言った。
 拓哉はドギマギしてしまった。
 静香は先輩で、何か言える立場ではない。
 「ワタシと結婚しなよー。」
 拓哉は身震いした。
 今言える言葉は「はい」か「分かりました」か「畏まりました」か「承りました」の四種類しかない。
 拓哉は一番皮肉っぽい「承りました」を選択した。

 静香は今日も茶髪を立ち上げ、肩パット入りスーツで出掛けて行く。

 拓哉は、この世界にはこの世界のルールと言うものがあるのだ、と自分を納得させた。

(415文字)

↓毎日ショートショートnoteに参加しています。


いいなと思ったら応援しよう!