見出し画像

お金を貸すと決めた日(初回)

はいもうタイトルが不穏ですね。
全然まだまだプロローグdeath。

彼奴が転職を決めたところまで語りましたけれども。
もう大人だしさ、どこで働こうが好きにすればいいじゃない。
でも休みもまともに休めないような過酷な労働環境で、
なおかつ
時給換算したらコンビニで働く高校生より給料が低い、みたいな状況はいくら好きな仕事でも限界がある。
百歩譲って改善の見込みがあるならまだしも、その見通しは一切ない。
しかも彼奴の(唯一といってもいい)スキルの英語を活かせるわけでもない。
で、あれば。
私としては彼奴の転職に反対する理由は何もなかった。
むしろ背中を押したくらいだった。

今日退職について会社に言うわー、と宣言していた日。
夜になって彼奴から電話がかかってきた。
第一声は

「困ったことになった・・・・」

よくよく事情を聴いてみれば。
当時の彼奴の住まいは、その会社の援助により引っ越しおよび住居の初期費用を出してもらっていた。
ただこの援助というのは給付ではなく、貸与であったのだ。
彼奴はその費用の返済をすっかり失念していた。よく忘れられたな、とも思うけど。
その貸し分の返済を退職前に一気に行うと、当月分の給与がほぼほぼ相殺され、
手元にはほとんど残らないという。
まあ、そういうことならしょうがないよね。実際借りたんだし。
貯金でなんとか賄って、早々に転職決めるしかないんじゃない?と返した。

「ない」
「・・・ん?」
「ないんだよ」
「何が?」
「貯金」

絶句。絶句でしかない。
借りた分を忘れていた、というのも絶句だし
正社員の仕事をしている40代男性で貯金がないのも絶句だし、
全然退職できる経済状況じゃないのに転職を言い出したことにも絶句だった。

自分としては絶句しているつもりだったがすべて口に出していた。
彼奴は返す言葉もなく沈黙した。

「で?」
「え?」
「どうするの?」
「・・・」
「返済終わるまで退職撤回してもう少し働きますって言ってみれば?」
「・・・それは、無理」
「だって生活できないじゃん」
「もう撤回できないから、って社長に言われてしまった」

詰んだ。
詰んだって言葉がこれほど合う状況が過去にあっただろうか。
いや、ない。

お互いにしばらく沈黙した後、彼奴が言葉を絞り出すようにしてとある提案をしてきた。
「それで、本当に申し訳ないんだけど」
「・・・何?」
「お願いが、あって」

はい、この先の展開幼稚園児でもわかりますね。
オチがわかって退屈な方もいると思いますがもう少しお付き合いください。

「お金を貸してください」
「・・・」

私はすぐに返答せずに気になってたことを聞いた。
「ご両親は頼れないの?ご健在だよね?」
「父親がかなり厳しくて、そんなことになったら(両親が住んでる地方都市へ)連れ戻される。
借金するやつに一人暮らしなんかする資格ないって言われて」

親父さん至極まっとうだよ。その通りだよ。
権利の主張をする前に義務を果たせ。これですよ。
でもね、次の瞬間、恋をするものに効果てきめんな伝家の宝刀が抜き払われるわけです。

「でも俺はお前と離れたくない」

くああああああ、馬鹿か。馬鹿なのか。
きゅん、じゃねえのよ。もう一回言う、さてはおぬし馬鹿だな?
私が何とかしてやらなくていいんだってば!絶交推奨案件だよ!!
という現在の私の声など当時の私に届くわけもなく、

「・・・いくら?」

という流れになるわけです。
あーあ。
あーーーあ。
安心してください。
黒歴史は始まったばかりですよ。

この日貸すことを決めたのはおよそ30万円。
2か月分の家賃とか生活費とかね。
※再度言いますがこれはプロローグです

いいなと思ったら応援しよう!