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#46-「いくらで会社を辞められるか」を先に決めろ——月20万円から逆算する副業設計

「いくらで会社を辞められるか」を先に決めろ——月20万円から逆算する副業設計

「月いくら稼げば、明日会社を辞めても困らないですか?」

この問いに、3秒で即答できますか。

副業の本を10冊読んでも、Voicyを毎朝聴いていても、ここに即答できる人はびっくりするほど少ないです。私もしばらく答えられませんでした。「月50万くらい?」と思いつつ、実は具体的に計算したことがなかった。

ところが、海外で「派手じゃないけど確実に稼ぐ」起業家たちの話を聴いていると、彼らほぼ全員が、商売を始める前にこの数字を確定していたんです。

今回は、米国Podcast「The Sweaty Startup」のホスト、ニック・ヒューバー(Nick Huber)の話を起点に、「目標額を先に決めてから副業を設計する」という、地味だけど勝率がぐっと上がる考え方を整理します。


「億万長者」を狙う人ほど、副業で消える

副業を始める人の多くは、頭の中の目標が、こんな感じになっています。

  • 「とりあえず月10万くらい稼げたら」

  • 「夢は月100万」

  • 「目標は特に決めてない。とにかく不安だから」

どれも気持ちは分かります。私も同じでした。でも、これがほぼすべての副業挫折の入り口です。

ヒューバーはPodcastでこう話しています。「あまりに多くの起業家が、ゴールを"10億ドルの会社を作る"とか"1億ドル稼ぐ"とか、あるいは何も決めずに走り出す」。

そうすると何が起きるか。

ゴールが大きすぎるか曖昧すぎるので、目の前の選択を「正しく」できなくなる。月3万円の小さな案件を断ってしまったり、月100万円の派手な案件に手を出して時間を溶かしたり。「自分は何のために、いくら稼ぎたいのか」が決まっていない人は、判断のたびにブレるんです。

これに対して、ヒューバーが選んだのは真逆の手順でした。

先に「自分が自由になる金額」を計算する。それから、その金額を作る確率がいちばん高い商売を選ぶ。

これが、地味だけど10年単位で勝つ人の思考の順番です。


コーネル大学のアパートが、商売になった日

ニック・ヒューバーは、米国の名門コーネル大学(Cornell University)出身です。普通なら投資銀行やコンサルに進むようなコースを蹴って、彼が始めたのは「学生の荷物預かりサービス」でした。

きっかけは、ものすごく小さな出来事です。

夏休み前、自分のアパートを夏の間だけ又貸しに出すために、ヒューバーはCraigslist(米国版ジモティーのような掲示板)に投稿しました。すると、別の学生の親から問い合わせが来ます。「うちの息子の荷物を、夏休みの間だけ預かってもらえないか?」

夏休み中、寮を出る大学生はたくさんいる。でも家具やベッド、自転車を実家まで持ち帰るのは大変。預けたいニーズは確実にあるのに、それに応える業者が街にいなかった。

ヒューバーはここに気づき、相棒のダン・ハグバーグ(Dan Hagberg)と一緒に「Storage Squad」を立ち上げます。仕組みはシンプルで、学生のアパートまで車で取りに行き、自分たちが借りた倉庫に保管し、夏明けにまた届ける。「バレットパーキング」の倉庫版です。

最初の倉庫は、自分たちで借りたただの空きスペース。スマホ1台と中古のトラック。それだけで始めました。

ヒューバーはこう振り返っています。「最初の頃は、利益もキャッシュフローもなかった。これがいかに厳しいかを学ぶいい経験になった。利益が出ていない会社を運営するのは、本当に難しい」。

ここから10年間、Storage Squadはアメリカの大学街を1つずつ攻略していきます。最終的には30近いキャンパス、9州に展開し、年商はおよそ200万ドル(約3億円)。2017年にはニューヨーク州イサカ(Ithaca)で自分たちの倉庫物件まで開発しました。

そして2021年1月、Storage Squadを「7桁ドル(数億円規模)」で売却します。Podcast内での発言を裏付けるかたちで、コーネル大学の公式報道(Cornell Chronicle, 2021年4月)でも、このセブンフィギュアでのExitが確認できる形で報じられています。換算すると、おおむね2億〜2.5億円のレンジ。

その後、ヒューバーが本格的に進めたのが、もっと「退屈」な商売です。自社で買い・建てる貸し倉庫業。現在は、米国11州に64拠点・約190万平方フィート(東京ドーム約3.8個分)の自社倉庫を持つまでになっています。


2012年、彼が決めた「月2万ドル」という数字

ここで一度、時計を巻き戻します。

ヒューバーが「月いくら欲しいか」を計算したのは、Storage Squadを始めて1年後、2012年のことでした。

その時、彼が出した数字は 月2万ドル(当時のレートで約160万円、現在の1ドル=150円換算で約300万円)

「数字だけ見るとデカいな」と思うかもしれません。でも、彼が大事にしているのは金額そのものより、その出し方です。

ヒューバーはこう話しています。「ボストンに住んでいて、家族のために安全な車に乗りたい。まともなアパートか家に住みたい。カントリークラブでゴルフをしたい。レストランで値段を見ずにメニューを注文できるようになりたい。そういう"自分の自由"を全部書き出して、足し算した。月2万ドルあれば、その全部が手に入ると分かった」。

これがすべての起点でした。

そこから彼は、こう自問します。「じゃあ、月2万ドルを作る確率がいちばん高い商売は何だ?」

選択肢は2つに大別されました。

A: ベンチャー型のムーンショット
新しいアプリ、新しいテック。当たれば10億ドル。ただし、ヒューバーいわく「99.999%は当たらない」。

B: 退屈な商売
すでに誰かがやって儲かっているモデル。倉庫、清掃、引っ越し、地下インフラ工事、廃棄物処理、樹木伐採フランチャイズ。億万長者にはなれないが、月3万ドル(約450万円)は十分狙える。

冷静に考えると、答えは明らかでした。月2万ドルが目標なら、Bを選ぶほうが圧倒的にオッズがいい。

「人々はビジネスをポーカーに例えて考えるべき」と、ヒューバーは言います。「あなたのチップは、時間。チップをどのテーブルに置くか、どのハンドに賭けるかは、自分で選べる」。


「派手な起業」より「退屈な商売」が儲かる、本当の理由

これは精神論ではなく、確率論の話です。

ヒューバーは自分の周りの「本当の金持ち」を観察してきました。彼の言葉を引用します。

「私が個人的に知っている本当に金持ちな人たち、彼らのほとんどはベンチャーキャピタルを取らなかった。新しいアイデアの会社、新しいアプリ、新しいテックスタートアップ、AIスタートアップ、Web3スタートアップを始めた人なんて、ほぼいない。代わりに彼らは、地下のケーブル工事をやっていたり、廃棄物処理会社を2つ運営していたり、樹木伐採のフランチャイズを持っていたり、ファストフード店を経営していたり、不動産を買っていたり、保険を売っていたりする」。

このリストの共通点は何か。

全部、すでに儲かっているモデルだということです。新規性ゼロ。誰かが先にやって、市場が証明してくれている。あとは「うまく」やるだけ。

一方、新しいアイデアで世界を変えるのは、宝くじを買うのに似ています。当たれば最高だけど、ほぼ当たらない。

ヒューバーが2012年に下した決断は、宝くじを買うのをやめて、確実に伸びる年金型の市場にチップを置くことでした。

そして10年後、その判断が正しかったことを、自社倉庫64拠点という形で証明しています。


なぜ今・なぜ日本——「目的のない副業」が量産されている

日本の副業ブームは、ここ数年で加速しました。「副業解禁」「FIRE」「複業」「兼業」と、言葉だけがどんどん増えています。

でも、副業を始めた人と話すと、感覚的にはほとんどの人が「目標額」を持っていません。

  • なんとなく将来不安だから

  • 周りが始めているから

  • もう少し収入があれば余裕ができるから

気持ちは100%わかります。でも、目標額がないまま始める副業は、ほぼ間違いなく苦行になります。

理由はシンプルで、「ここまで来たら勝ち」のラインがないから、いつまで経っても満足できないんです。月5万稼げても「もっと」、月10万稼げても「もっと」、月20万稼げても「他の人はもっと稼いでいる」。終わりがありません。

逆に、目標額を先に決めると、3つのことが起こります。

  1. やるべき副業の種類が絞られる。「月10万でいい人」と「月50万欲しい人」では、選ぶ商売が全然違います

  2. 断れるようになる。目標から外れる仕事に時間を吸われない

  3. 撤退ラインが見える。半年やって月3万に届かないなら、商売選びを間違えたと判断できる

これは、ヒューバーが2012年にやった作業と全く同じです。日本の副業者にも、そのまま使えます。


月20万円から逆算する副業設計:5ステップ

では、具体的にどうやって自分の数字と商売を決めるか。ヒューバーの考え方を、日本の副業者向けに5ステップに落とし込みます。

ステップ1:自分の「自由ライン」を金額で書き出す

紙とペンを用意して、こう書きます。「月いくらあれば、明日会社を辞めても1年は困らないか」。

家賃、食費、保険、教育費、通信費、車、外食、趣味、貯蓄。全部書き出して足し算します。

たいていの会社員は、この作業を一度もやったことがありません。だからこそ、最初にやる価値があります。

東京で家族4人なら、月50万〜70万あれば、かなり余裕ある生活ができます。地方なら月30万でも十分なケースが多い。独身一人暮らしなら、月20万でも足りる人がいる。

数字は人によって違います。あなた自身の数字を出してください。

ステップ2:今の収入との差額を計算する

本業の手取りから、ステップ1の数字を引きます。

例えば、本業手取り35万、自由ラインが55万なら、副業で作るべき金額は 月20万円

この20万円が、あなたの副業の「目標額」です。100万でも、5万でもない。20万。

ステップ3:その金額に届く確率が高い「退屈な商売」を選ぶ

ここからが本題です。月20万を作る確率が高い商売を、地味でいいから選びます。

月10万円の目安: 物販、ライティング、Webデザイン、土地・スペース貸し、スキルシェア
月20〜30万円の目安: 宅配・物流系、清掃系、民泊運営代行、地域密着サービス、特定業界のオンライン支援
月50万円以上: B2B営業代行、自社プロダクト販売、不動産小規模、コンサルティング

ヒューバーのルールは1つ。「すでに儲かっている人がいるモデルを選べ」。

新しいアイデアを試したくなる気持ちはありますが、ここはぐっと我慢する場所です。

ステップ4:1ヶ月以内に「最初の1人」に売る

ヒューバーがPodcastで何度も繰り返している言葉があります。

「起業家の唯一の武器はスピードだ。あなたの競合は、あなたよりお金もある、ブランドもある、マーケ予算もある。あなたが勝てる唯一の場所は、朝決めたことを昼に実行できるという、その速さだけだ」。

完璧な計画書を作る前に、最初の1人に売ってください。

「Aim, aim, aim, aim, aim, shoot(狙って、狙って、狙って、撃つ)」型の人はだいたい撃つ前に力尽きます。「Shoot, aim, shoot, aim, shoot(撃って、狙って、撃って、狙う)」が、副業で勝つ人の動き方です。

ステップ5:3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月で数字を確認する

ヒューバーは「ビジネスは勢いだ。小さく始めて10年経つと、信じられない場所にいる」と話しています。

ただし、闇雲に10年続けるわけではありません。チェックポイントは置きます。

  • 3ヶ月目: 仮説検証。1人でも有料客がついたか

  • 6ヶ月目: 月3〜5万円のラインに届いているか

  • 12ヶ月目: 目標額の半分(例:月20万円なら月10万円)に届いているか

ここに届かない場合、商売の選び方を間違えている可能性が高いです。やり方ではなく、選んだ「型」を疑ってください。


もう1つの武器:「居心地の悪さ」に慣れる練習

副業を始める前に止まる人の理由は、たいてい「商売が分からないから」ではありません。

「知らない人に売り込むのが怖い」「自分の値段を伝えるのが恥ずかしい」「断られたらつらい」。8割はここで止まります。

ヒューバーは、これに対してこう言っています。

「居心地の悪い状況に慣れる能力は、筋肉と同じだ。本を読んでも、トレーニングメニューを作っても、プロテインを飲んでも、筋肉はつかない。ジムに行ってウエイトを持ち上げないとつかない。営業の能力も同じで、実際に人に話しかけて、断られて、それでもまた話しかける、その反復でしか鍛えられない」。

ここでもう1つ大事なのは、「居心地の悪さ」は永遠に消えないということです。ヒューバー自身、Podcastの収録に入る前は今でも毎回少し緊張すると話しています。

「ただ、扱い方には慣れる。緊張がなくなるのを待っていてはいけない。緊張したまま動ける自分を作る」。

これは副業者にも刺さります。「もっと自信がついたら始める」と言っている限り、永遠に始まりません。順番が逆で、始めるから自信がつくんです。

具体的には、こんな順番がおすすめです。

  1. まずSNSで「これをやります」と宣言する(人前で言うことで退路を断つ)

  2. 知人を1人つかまえて、無料でいいから1回やる(営業の最初の壁を消す)

  3. 2人目から有料にする(値段を伝える練習を、低い金額から)

  4. 5人やったら、価格を1.5倍にする(自分の値段を上げる練習)

ヒューバーが言いたいのは、頭でいくら準備しても、現場でしか身につかないものがある、ということです。机の上で完成形を作ろうとせず、「下手な状態で動く」ことに慣れる。これが、実は副業の最大の武器になります。


やってはいけない3つの落とし穴

最後に、目標額のない副業が陥りがちな3つの罠です。

罠1: 「もっと、もっと」病
目標がないので、どこまで稼いでも疲弊します。月10万稼げても満足できず、月30万稼げても他人と比べて落ち込む。副業は本来「自分の自由を作る道具」なのに、いつのまにか「自分を追い詰める道具」になります。

罠2: 派手な分野に流される
目標額がないので、「流行っているから」でAIや暗号資産に手を出して、勉強だけで半年溶ける。ヒューバーいわく「あなたが知っている本当に金持ちな人で、最新トレンドを追って成功した人はほぼいない」。

罠3: 完璧主義の罠
目標が漠然としているので、ゴールに到達する自信が持てず、「もっと準備してから」と先延ばしする。気づくと2年経って、まだ最初の1人に売っていない。これがいちばん多いパターンです。

3つとも、解決策は同じです。先に金額を決める。それだけで、目の前の判断が一気に楽になります。


今日できること

  1. 紙に「月X万円あれば、明日会社を辞めても1年は困らない」と書き出す

  2. 本業手取りとの差額を計算する。これが副業で作るべき金額

  3. その金額をすでに作っている人を、YouTubeかX(旧Twitter)で3人探してフォローする

3つとも、合計30分で終わります。「いつか落ち着いたら」ではなく、今日中に紙に書いてください。書くのと書かないので、3年後の自分が全然違う場所にいます。


海外の流行が日本に届くまで5年——とされた定説は、いま静かに崩れている。このnoteは、英語圏のPodcastや一次情報を日本語に翻訳して届ける場所だ。遅れて知るか、先に知るか。それだけの話。


参考情報

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