#52-資格ゼロで月20万円——『役所の入札転売』で始める副業の作り方
※今回のビジネスは若干難しいかもしれません。理解できれば有益間違いなしです。
経験ゼロ、資格ゼロ、在庫ゼロ。役所と地元業者の間に1人挟まるだけで、5年間、毎年150万円が振り込まれ続ける副業があります。やっていることは、入札公告を読んで、地元の業者に見積もりをもらって、それに自分の取り分を上乗せして提出するだけ。落札したら、業者が現場に行って、役所が振り込み、自分は1ヶ月に1時間だけ請求書を書く——そんな仕組みが、海外ではすでに「副業」として走り出しています。
今回は、米国の人気Podcast「The Koerner Office」第298回で語られた、ナタリー(Natalie / @nataliethe.ceo)という30代の女性のケースを起点に、その仕組みを日本に持ち込むとどう作り直せるかを、英語の一次情報と日本の中小企業庁の公式資料を直接突き合わせて解剖します。読み終わる頃には、明日の夜にできる最初の3アクションまで分かるはずです。
「自分は何もしない」が成立するからくり
ナタリーは2024年に、Instagramで友人がストーリーズに何気なく書いていた一言から、この副業を始めました。今は月10,000〜12,000ドル(約150〜180万円)の利益を、本業の合間に作っています。一番大きい契約はコロラド州の造園案件で、5年で総額962,000ドル(約1億4,400万円)。下請け業者には700,000ドル(約1億500万円)を払い、差額の約262,000ドル(約3,900万円)が彼女の取り分です。これを維持するために必要な作業時間は、本人いわく「契約全部合わせて、1ヶ月に1時間」。
絵だけ見ると、なにかの詐欺か、極端に運が良かっただけの話に聞こえます。でも、構造はびっくりするくらい単純です。
ナタリーがやっているのは、米国連邦政府の調達ポータル「SAM.gov」(無料・誰でも登録可能)に上がっている入札案件を読み、案件と全く関係のない州や業界の業者にメールと電話を打ち、見積もりをもらい、それに自分のマージンを乗せて提出する——それだけ。落札すれば、現場に行くのは下請け業者、お金を最初に受け取るのはナタリー、そこから業者に支払いをスライドさせる。役所と業者の間に1枚、紙のレイヤーを挟む仕事です。
「政府は、私たちと取引することを義務付けられている。だから、こちらが頭を下げてチャンスをもらいに行っているわけじゃない。むしろ、向こうが必要としている」。Podcastの中でナタリーはこう話しています。これは精神論ではなく、法律の話です。
米国の連邦法では、政府が出す契約金額の23%を中小企業に割り当てる目標が、法律(Small Business Act 15(g)(2))と連邦調達規則(FAR Part 19)で決められています。2024年度の実績ベースで、約1,830億ドル(約27兆円)が中小企業へ流れた計算です。SAM.govの登録は無料で、登録番号(UEI)の発行も無料。つまり、「政府が、毎年27兆円分の発注先を中小企業の中から探さなければならない」状況に、誰でも、無料で、参加できる。これがビジネスモデルの土台です。
副業の常識が逆転する1点
ここで多くの人は、「いや、自分には専門技術がないから無理」と考えます。ナタリーの最初の契約は、それを真正面から否定する話でした。
最初に落札したのは、カリフォルニア州での「formulant」と呼ばれるホルムアルデヒド系の有害廃棄物の処分契約。ナタリーは当時、ホルムアルデヒドが何かも知りませんでした。Miamiに住んでいて、カリフォルニアまで車で行ける距離ですらない。何をしたかというと、Googleで「カリフォルニア 有害廃棄物 処理業者」と検索し、片っ端から電話して、入札締め切り直前にやっと1社から1回700ドル(約10万5,000円)の見積もりをもらい、自分は1,500ドル(約22万5,000円)を政府に提出しました。年14〜16回のピックアップが想定されているので、1回あたりの粗利800ドル(約12万円)×14〜16回×5年契約=約56,000〜64,000ドル(約840〜960万円)の収益が、最初の1本だけで5年確定したわけです。
副業の常識は、「自分のスキル・労働を時給に変えて、時間と引き換えにお金をもらう」というモデルです。ナタリーがやっていることは真逆で、「役所と業者の間に立つことで、自分が知らない業界・行ったことのない州・触れたこともない素材から、マージンだけを抜く」という構造になっています。本人は何もしないし、何の資格も持っていません。
副業=自分が手を動かすもの、という前提を一度脇に置いてください。手を動かすのは下請け業者です。あなたが売っているのは「政府との接続線」。これがこの副業の本体です。
数字で見るナタリーの取り分
Podcastの中でナタリーは、複数の契約の数字を具体的に開示しています。
ハザード廃棄物処理(カリフォルニア州、5年契約)。下請け業者に1回700ドル支払い、政府には1,500ドルを請求。1回あたり粗利は800ドル。年14〜16回のピックアップで、年間11,200〜12,800ドル(約168〜192万円)の利益が、自分の追加労働ゼロで継続発生。
ケータリング(アイダホ州、2週間の単発契約)。陸軍施設で約300人の兵士に、朝・昼・夕の3食を14日間提供。下請けの地元ケータリング業者に41,000ドル(約615万円)支払い、政府には52,000ドル(約780万円)を請求。差額の11,000ドル(約165万円)が、2週間で生まれた粗利です。1食あたりの単価は朝食8→10ドル、昼食10→12ドル、夕食11→15ドルと、上乗せ幅は数ドル単位ですが、人数×日数で積み上がります。
リロケーション支援(バージニア州、ディズマル沼の脇の家1軒)。政府が「収用予定の家の住人の引っ越しを手伝う事業者を募集」した案件で、ナタリーが14,000ドル(約210万円)で落札。彼女は1人でその女性のもとに飛び、Googleでアパート候補を一緒に見て、申請書類を手伝っただけ。下請けすら使っていません。「実質、Googleで物件を探しただけです」と本人は笑っています。
造園(コロラド州、5年契約)。当初の入札は800,000ドル(約1億2,000万円)でしたが、現地立ち会いで「契約書には書かれていない範囲が含まれている」ことが判明し、ナタリーは政府に対して契約変更(modification)を申請。最終的に962,000ドル(約1億4,400万円)に増額が認められました。ナタリーが過去価格を調べたところ、その案件は前回の契約サイクルでは1,600,000ドル(約2億4,000万円)で発注されていたとのこと。「もっと値上げしてもよかった」と笑い話になっています※。
※Podcast内でのナタリー本人の発言。米国の連邦支出は「USA Spending」(usaspending.gov)で公開されているため、特定契約の検証は理論上可能ですが、本記事では本人発言のまま記録しています。
平均的な月で、ナタリーが「これらの契約から手を動かさずに受け取る利益」は10,000〜12,000ドル(約150〜180万円)。それに対して、月の作業時間は「全契約合わせて1時間」。請求書を1枚書くだけ、というのが彼女の表現です。
落札率は「9つ出して4本」
「上手い人は、何でもかんでも勝てるんだろう」という想像も、本人の口からきっぱり否定されています。
最初の月、ナタリーは14件の入札を提出して、勝てたのは1件だけでした。胃がよじれそうなのを我慢して書類を出していた頃の話です。それが、2024年は9件提出して4件落札。約44%。打席に立ち続けるほど勝率が上がるタイプの仕事だと、本人は言い切っています。「打席を増やせるかどうかが全て」と。
なぜ最初の頃は勝てなかったのか。理由は単純で、書式が間違っていると、政府はそもそも内容を読まずに失格にするからです。「彼らは書式が違うだけで提案を見もしない。経験のあるベテラン業者でも、書式の罠で落とされている」と彼女は話します。逆に言えば、書式さえ正確に揃えられれば、業界経験のない素人でも勝負になる、ということでもあります。
なぜなら、米国の調達では「契約金額が350,000ドル(約5,250万円)未満の案件は、過去実績の提出が要らない」と決まっているからです。350,000ドル以下は「提案書」ではなく「見積書」だけで戦える案件として扱われ、とにかく安くて、書式が合っている見積を持ってきた人が勝つ、シンプルな勝負になる。最初に挑むべきは、ここです。
なぜAIが、この副業のハードルを破壊しているのか
「政府の入札書類は、添付ファイルが20枚も25枚もあって、読むだけでも嫌になる」——これが、過去20年間この副業が広く普及しなかった一番の理由でした。
ナタリーは今、ここをClaude(Anthropic)の「プロジェクト機能」で潰しています。「案件を見つけたら、まずプロジェクトを作って、すべての添付ファイルを放り込む。私はあらかじめ『あなたは政府調達と○○業界の専門家です』というプロンプトを用意していて、AIに『これは私が出すべき案件か?提出に必要な要件は何か?提案書のドラフトを作って』と聞く。それで、案件を進めるかどうかが30分で判断できる」とPodcastで明かしています。
この副業は、「読み込むコスト」がボトルネックでした。AIがそこを破壊した結果、「英語の役所書類を読むのが苦手な普通の副業者」が、ナタリーと同じ土俵に立てるようになっている——というのが、2024年以降のこの市場の本当の変化です。
日本では、これがそのまま走るのか
ここが、本記事の本丸です。
結論から言うと、米国モデルの「名義だけで参加し、下請けに丸投げする」という極端な形は、日本ではそのままは走らせにくい。でも、本質——「役所が中小企業に発注する義務がある/その案件を仲介できる立場を取る」という構造——は、ほぼそのまま輸入できます。
日本側の制度の話を、公式資料ベースで整理します。
毎年、政府は「中小企業者に関する国等の契約の基本方針」を閣議決定しています。2025年4月22日に決定された令和7年度の方針では、国等全体として中小企業向け契約金額の比率を61%(金額にして約5兆9,193億円)に引き上げる目標が示されました。国土交通省単独で約1兆7,055億円、財務省で約521億円——という具合に、各省庁ごとに「中小企業者向けに、これだけの金額を発注します」と宣言する仕組みになっています。法的根拠は、官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律(昭和41年法律第97号)です。
加えて、「創業10年未満の新規中小企業者向け契約」を全体の3%以上にする、という目標も別建てで設定されている。つまり、開業届を出して10年経っていない個人事業主・法人ほど、構造的に有利になるよう、制度が組まれています。
入札情報そのものは、政府電子調達システム「GEPS」(geps.go.jp)と、各自治体の電子入札システム、それに「中小企業庁・官公需情報ポータル」(kkj.chusho.meti.go.jp)に集約されています。米国のSAM.govに対応する位置です。登録は無料で、参加自体に資格制限はありません(一部、業種ごとの「等級」や「物品・役務の競争参加資格審査」を求められる案件はあります)。
日本での米国モデルとの違いは2点です。
「丸投げ前提」の入札は、自治体ごとに制限が違う。「再委託制限」「実績要件」「営業所所在地要件」などが地方契約規則で定められていることが多く、米国のように「下請けに完全外注する前提でブローカーが落札する」モデルは、案件によっては最初から要件で弾かれます。
一方で、「物品・役務(廃棄物処理、清掃、警備、給食、植栽、引越補助、研修運営、印刷、翻訳、Webサイト制作など)」のジャンルでは、再委託を一定範囲で認めている契約も多く、ここが副業者の入り口になります。
つまり、日本でやるなら「米国の仲介モデル100%」ではなく、「自分が一次受けして、定型部分は協力業者に再委託、書類仕事と進行管理は自分でやる」というハイブリッド型に組み替えるのが現実解です。本業のスキルが営業や調整である会社員には、むしろこの形の方が向いています。
5ステップの始め方(日本版)
明日から動けるレベルで、5ステップに割ります。
ステップ1:個人事業主の届出を出す(または法人を作る)。屋号は「○○サービス」「○○商会」のように、業種を限定しない汎用名にする。これはナタリーの教えそのままです。「ナタリーズ・ペインティングLLC」と名乗ると、空調工事の入札では「お前は塗装屋だろ」と書類で第一印象が崩れる。「ナタリー・サービシズLLC」のように広く構えるべき、という発言があります。日本でも全く同じで、「○○清掃」と名乗ると清掃しか取れません。
ステップ2:GEPS・各自治体の電子入札システム・官公需情報ポータルに登録する。費用はゼロ。一度登録すれば、業種ごとの公告がメール通知される。
ステップ3:「自分が説明できる範囲」「サービス」「物品より役務」の3条件で案件を絞る。ナタリーの選定基準そのものです。製造物の調達は、原産国・認証・在庫・配送と変数が多すぎる。最初は引越補助・廃棄物運搬・植栽・清掃・印刷・研修運営・翻訳など、「電話1本で見積もりが取れて、納期が短い役務」だけに絞ると、読み込みコストが激減します。
ステップ4:協力業者を「先に」確保する。これはナタリーが最も強調していたポイントです。「自分が落札してから業者を探すのは順番が逆。提出する前に必ず見積もりを取り、契約してくれる業者を確保する」。日本だと、地元の業者にいきなり電話する文化的ハードルがあるので、まずはWebサイトの問い合わせフォームから「○○市の○月の入札に共同で出したい。御社の単価を教えてほしい」と打診する形で十分です。返信のスピードと丁寧さで、「組める業者かどうか」が分かります。
ステップ5:書類の提出は、AIで読み込みコストを潰す。役所の入札公告は、添付PDFが10〜30枚になることが珍しくありません。Claude(Anthropic)のプロジェクト機能やChatGPTのカスタムGPTにすべて投入し、「この案件の提出要件を箇条書きにせよ」「自分が小規模事業者として提出する場合、不利になる要件はあるか」「提案書のテンプレートを作れ」の3つを聞くだけで、最初の1日が30分に短縮されます。
ハマりやすい3つの罠
1つ目。「協力業者の言い値で見積もりを出してしまう」。米国の話でナタリーが繰り返し言うのは、「過去の落札価格を調べてから、自分の上乗せ幅を決めろ」。米国にはUSA Spending(usaspending.gov)があり、過去契約の価格を全件公開しています。日本では、各自治体の入札結果公表ページ(多くは「○○市 入札結果」で検索可能)と、防衛省・国交省などが公開する落札情報ページが対応します。協力業者の見積もりに自動的に20%乗せる、ではなく、「前回の落札額と比べて、自分はいくらに着地できるか」を見てから決めるべき場所です。
2つ目。「協力業者を選び間違える」。ナタリーが副業者の見極めとして使っている言葉が、「ハングリーかどうか」。「3日返信が来ない業者、レビューが古い業者、複数の問い合わせフォームから返事が来ない業者は、その時点で外す」。あなたの落札の成否は、業者の現場での仕事の質に直結します。返信スピードと、説明の具体性。それが見極めの2つの軸です。
3つ目。「全部勝てると思ってしまう」。ナタリーの落札率は、最初の月で14分の1(約7%)、現在で9分の4(約44%)。これは「打席に立ち続けた人だけが上がっていく数字」です。1〜2件出して落ちたから諦める、というのが、この副業で人が辞める一番の理由だと本人は言い切っています。最初の3ヶ月で5〜10件出すつもりがあるかどうか。それが分岐点です。
米国にあって、日本にはまだ薄いもの
ナタリーが副業として走らせている領域には、米国にあって日本にはまだ薄い「相談窓口」があります。米国には政府調達に特化した中小企業支援窓口(現在はAPEX Acceleratorsという名称)があり、提案書を1枚レベルで対面で見てもらえる。日本でこれに対応するのは、各都道府県の中小企業支援センター・よろず支援拠点・商工会議所の経営相談ですが、官公需に特化した窓口は厚みが足りません。
裏を返すと、日本では今、官公需の入り口を案内できる人間が不足しています。ナタリーがPodcastで最後に話していたのが、「自分は将来、政府契約のコンサルタントを別事業として立てる予定。中小企業は本業のプロだけど、入札のプロじゃない。彼らに勝たせる側に回るほうが、契約金額のスケールが大きい」という戦略でした。日本でも、この層は遅れて立ち上がります。先に走り出した人は、5年後には「副業者向けに官公需を案内する側」のポジションを取れる可能性があります。
今日できること
GEPS(https://www.geps.go.jp/)に登録ページがあるので、必要書類(電子証明書・資格審査の手続き)の流れだけ目を通す。所要15分。
自分が住んでいる市町村のサイトで「○○市 入札 公告」「○○市 入札結果」をGoogle検索し、直近1ヶ月で出た「役務」案件を3件、目を通す。所要30分。
その3件の中で「自分が知っている業界」に近いものがあれば、地元業者をGoogleで3社調べ、問い合わせフォームから「御社の標準単価を教えてほしい」と打診する。返信の早い1社と、まずLINEや電話で5分話す。所要60分。
3ステップ合計で2時間弱。これが、ナタリーが「最初の1ヶ月で14件出した」勢いの、入り口にあたる一番低いハードルです。
海外の流行が日本に届くまで5年——とされた定説は、いま静かに崩れている。このnoteは、英語圏のPodcastや一次情報を日本語に翻訳して届ける場所だ。遅れて知るか、先に知るか。それだけの話。
参考情報
Podcast: The Koerner Office「How Anyone Can Make $10K+/Month From the Government - Ep. #298」(ナタリー本人の出演回。SAM.gov経由の政府入札仲介の具体的数字、Claudeの活用法、契約獲得のステップを解説)https://podcasters.spotify.com/pod/show/thekoerneroffice/episodes/How-Anyone-Can-Make-10KMonth-From-the-Government---Ep--298-e3j2uip
米国・連邦中小企業契約目標(23%): Congressional Research Service「An Overview of Small Business Contracting」 https://www.congress.gov/crs-product/R45576
米国・連邦調達規則 中小企業プログラム: Acquisition.gov「FAR Part 19 - Small Business Programs」 https://www.acquisition.gov/far/part-19
米国・連邦調達ポータル: SAM.gov(System for Award Management) https://sam.gov/
米国・連邦支出公開データ: USA Spending https://www.usaspending.gov/
日本・令和7年度官公需契約方針(中小企業向け61%・約5兆9,193億円目標): 経済産業省・中小企業庁「令和7年度中小企業者に関する国等の契約の基本方針」(2025年4月22日閣議決定) https://www.meti.go.jp/press/2025/04/20250422001/20250422001-2.pdf
日本・政府電子調達システム: GEPS https://www.geps.go.jp/
日本・官公需情報ポータル: 中小企業庁 官公需情報ポータルサイト https://kkj.chusho.meti.go.jp/
※ 為替は1ドル≒150円で概算
※ ナタリーの月利益・各契約額は本人がPodcastで開示した数字。コロラド造園案件の前回契約価格(1.6Mドル)等の個別案件はUSA Spendingで検証可能ですが、本記事では本人発言のまま記録しています。
