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#24-10年後に8割が生き残る——「退屈な商売」で副業を始める方法


テキサスの男が、ガソリンスタンドのスナック菓子をネット通販で転売している。月商3,750万円。サラリーマンの年収が、毎月入ってくる計算だ。

AIは使っていない。プログラミングもできない。やっているのは、田舎のドライブインで売っているビーフジャーキーを箱に詰めて、他州の客に発送することだけだ。

一方、日本のnoteには「ChatGPTで稼ぐ方法」「AIイラストで月収◯万円」の記事があふれている。AI副業の文字が、タイムラインを埋め尽くす。

でも、海の向こうの稼ぎ方は、ずいぶん違う方向に進んでいる。

大学生の荷物を夏休みの間だけ預かるサービスを育て、新卒年収の約10年分——170万ドル(約2,550万円)で売却した男。他人の空き地にキャンピングカーを停めさせるだけで、毎月安定したキャッシュフローを手にしているオーナー。

共通しているのは、派手なテクノロジーを使っていないこと。

彼らが使っているのは、すでにある需要と、ちょっとした仕組みだけだ。


「マイクロビジネス」という選択肢

海外では数年前から「Boring Business(退屈なビジネス)」「Sweaty Startup(汗をかくスタートアップ)」というムーブメントが広がっている。

要するに、派手なテック系スタートアップではなく、地味で退屈だけど確実に利益が出る商売を、個人で回すという考え方だ。

この動きは2024年から2025年にかけて一段と加速している。コーディー・サンチェス(Codie Sanchez)が主宰するニュースレター「Contrarian Thinking」は購読者100万人を超え、「退屈なビジネスを買って金持ちになる」というメッセージが週2回、全米の受信トレイに届いている。クラウドファンディングの調達額はVC投資が15%縮小する中で27%増加しており(QuickBooks, 2026年レポート)、資金調達の主流がシリコンバレーからメインストリートに移りつつある兆候が見える。

この波の中心にいる人物が何人かいる。

クリス・コーナー(Chris Koerner) — テキサスの連続起業家。自身のPodcast「The Koerner Office」で繰り返し語っているのが、テキサス名物Buc-ee'sのスナック菓子を転売するだけのビジネス「Texas Snax」だ。月商25万〜30万ドル(約3,750万〜4,500万円)を叩き出しており、年商は推定360万ドル(約5.4億円)規模に達している。2024年には8桁ドル(10億円超)の売上を見込んでいたとされ、実際にThe Hustleの取材記事でも同様の売上規模が確認できている。2025年夏には累計注文数10万件を突破した。

ニック・ヒューバー(Nick Huber) — Podcast「The Sweaty Startup」の提唱者であり、2025年に出版した著書 The Sweaty Startup: How to Get Rich Doing Boring Things(HarperCollins)の著者でもある。大学時代に始めた荷物預かりサービス「Storage Squad」を全米30キャンパス・15都市・9州に展開し、2021年に170万ドル(約2,550万円)で売却。その資金をもとに貸し倉庫事業「Bolt Storage」を立ち上げ、現在は68拠点・200万平方フィート・11州にまで拡大した。ポートフォリオの資産価値は1億ドル(約150億円)を超えている。X(旧Twitter)のフォロワーは42万人超。

両者に共通しているのは、革新的なアイデアではなく、目の前にある需要を仕組みに変えたこと。しかも、ヒューバーのStorage Squadが示すように、大学の荷物預かりという地味な商売でさえ、仕組みを整えれば数千万円の事業売却につながる。


なぜ「小さいのに強い」のか

マイクロビジネスが成立する理由は、シンプルだ。大企業が手を出さないから。

スナック菓子の転売は、利益率が低すぎて上場企業は興味を持たない。大学生の荷物預かりは、季節限定すぎてスケールしにくい。空き地の駐車場貸しは、1件あたりの売上が小さすぎて営業部隊を組めない。

つまり、「やる価値がない」と大企業が判断した隙間に、個人がするりと入り込んでいる。

さらに、こうしたビジネスには共通する4つの構造的な強みがある。

1. 在庫リスクが小さい。 仕入れてから売るまでの回転が速く、大量の在庫を抱える必要がない。Texas Snaxの場合、Buc-ee'sの店舗で仕入れてShopifyで売るだけ。在庫が腐るリスクはスナック菓子の賞味期限程度だ。

2. 参入障壁が「面倒くささ」にある。 派手さがないから真似されにくいのではなく、面倒だから真似されにくい。ヒューバーが繰り返し強調するのは「朝6時に起きて汗をかく覚悟があるか」という点だ。ソフトウェアはコピーできるが、「地味な現場仕事を毎日こなす」は簡単にはコピーされない。

退屈であることが、最強の参入障壁になる。

3. 景気に左右されにくい。 生活に根ざした需要だから、不況でも極端に落ち込まない。米国の芝刈り・造園市場は2025年時点で約1,840億ドル(約27.6兆円)規模に達しており、景気後退期でも大きな縮小は見られていない。

4. 地理的に守られている。 プログラミングなら世界中の開発者と競合するが、地元の芝刈りや不用品回収は半径30キロの同業者としか競わない。これは価格決定力にも直結する。「明日の朝、家の前の不用品を片付けてほしい」という緊急性の高いサービスでは、顧客は細かく比較せずに頼む。

派手なアプリを作って世界を変えるのではなく、すでに回っている経済の中から「取りこぼし」を拾う。

地味だが、堅い。

この4条件が揃った商売を、ここでは退屈ビジネスの法則と呼ぶことにする。在庫が軽く、面倒くささが参入障壁で、景気に左右されず、地理で守られる。この4つが重なる場所に、個人が勝てる余地が残っている。

AIで稼ぎたいなら、AIが絶対に手を出さない仕事を探す。これが海外で静かに進んでいる、逆張りの稼ぎ方だ。


数字で見る「退屈なビジネス」の破壊力

具体的にどれほどの規模感なのか、いくつかの業種を見てみよう。

RVパーク(キャンピングカー用駐車場) — 米国のRVパーク・キャンプ場産業は2025年時点で約109億ドル(約1.6兆円)規模。全米に16,200以上の民間施設があり、130万区画が稼働している(Kentley Insights, 2025年レポート)。個人オーナーが土地を買って10〜20区画の小規模パークを運営するケースが増えている。

セルフストレージ(貸し倉庫) — ヒューバーのBolt Storageは、外部投資家から4,000万ドル(約60億円)を調達して62物件を取得し、資産価値1億ドル超に成長した。セルフストレージは月額課金モデルで解約率が低く、一度入居すると平均14ヶ月以上利用するとされる。運営の手間も少なく、「退屈なビジネス」の代表格だ。

不用品回収(Junk Removal) — 米国の不用品回収産業は約100億〜150億ドル規模(約1.5〜2.3兆円)。粗利率45〜60%、ネット利益率15〜25%が見込め、トラック1台から始められる。

高圧洗浄(Pressure Washing) — 初期投資は機材一式で3,000〜8,000ドル(約45〜120万円)。中古車1台分の元手で始められる。利益率40〜65%と高く、半年から1年で投資回収できるケースが多い。

これらに共通するのは、「テクノロジーが主役ではない」ということだ。テクノロジーは予約管理やルート最適化など、あくまで「道具」として使う。

主役は、目の前の顧客が持つ具体的な困りごと。


なぜ日本で「刺さる」のか

副業で月5万円を狙ったのに、気づけばChatGPTとにらめっこして3時間が溶けた——そんな経験はないだろうか。

noteで「#AI副業」を検索すると、33,000件以上の記事が出てくる。一方、「#マイクロビジネス」は400件にも満たない。

これは何を意味するか。

AI副業の市場は混雑している。差別化が極めて難しく、情報の鮮度も数ヶ月で失われる。

ランサーズの調査(2024年)によると、日本のフリーランス人口は1,303万人・経済規模20.3兆円に達しているが、年収99万円以下の層が約7割を占めるのが実態だ。

つまり、「個人で稼ぐ」人は増えたが、大多数は「稼げていない」。

一方、マイクロビジネスの情報 — 特に「海外で個人が地味に稼いでいるビジネスモデルを日本でどう再現するか」という切り口は、まだ誰も本気でやっていない。

しかも、日本にはすでに土壌がある。3つの層でインフラが整っている。

プラットフォーム層。 駐車場シェアのakippaは累計会員数500万人を超えた(2025年10月時点)。フリマアプリのメルカリは月間利用者2,200万人超。スキルマーケットのココナラは会員550万人・出品数95万件を突破している(2025年8月期決算)。くらしのマーケットには10万店以上の事業者が登録し、400種類以上のサービスカテゴリがある。「個人が小さく商売する」インフラは、すでに整っている。

制度層。 日本の起業後5年の生存率は81.7%(中小企業白書, 2017年版のデータに基づく)。これは米国の同期間の生存率(約48〜50%、米国労働統計局)と比べて著しく高い。日本で事業を始めること自体のリスクは、実はイメージほど高くない。

ただし、2023年度の開業率は3.9%で、米国(9.3%)、英国(12.4%)、フランス(11.3%)と比べると国際的に見て最低水準だ(中小企業庁, 2025年版中小企業白書)。

始めれば生き残れるのに、始める人が少ない。それが日本の現状だ。

需要層。 高齢化が進む日本では、「自分ではできないが、誰かにやってほしい」という需要が年々増えている。庭の手入れ、不用品の処分、ハウスクリーニング。地方ほど競合が少なく参入余地があり、職人不足が価格決定力を強めている。

足りないのは「何を売るか」のネタだ。


海外にはネタが転がっている

アメリカのRVパーク産業は109億ドル(約1.6兆円)。日本でもRV車の保有台数は増加傾向にあり、車中泊スポットやRVパークは年々増えている(日本RV協会公式サイト参照)。
コインランドリーは個人オーナーでも年数千万円の売上を出すケースが珍しくない。自動販売機は1台あたりの初期投資が約34万円で、好立地なら月15万円を超える。出張洗車は初期投資10万円以下で始められ、月75万円の売上を出している個人事業主もいる。

こういった「地味に稼げるビジネス」の情報は、海外のPodcastやYouTube、ニュースレターで毎日のように共有されている。ヒューバーのSubstackニュースレター「The Sweaty Startup」、サンチェスの「Contrarian Thinking」(購読者100万人超)、コーナーの「The Koerner Office」Podcast。英語圏では「今月のBoring Business」みたいな特集が毎週のように流れてくる。

でも日本語で同じ情報を探しても、出てくるのは「AI副業で月収100万円」の記事ばかり。

情報は英語で流れている。お金は地元で稼げる。この非対称が、チャンスの正体だ。


「始めれば生き残れる国」で、何を始めるか

日本の企業生存率の高さは、もう少し注目されていい。

5年後に81.7%が生き残っている国で、しかも開業率がわずか3.9%。競合が少なく、始めた人が生き残る確率が高い。

にもかかわらず、副業で選ばれるのはAIライティングやSNS運用代行といった、すでにレッドオーシャンになっている領域ばかりだ。

「退屈なビジネスを買う」というサンチェスの提唱は、日本ではまだほとんど知られていない。しかし、事業承継問題を抱える中小企業は全国に127万社あるとされ(中小企業庁)、後継者不在の商売が毎年市場に流れ出ている。アメリカの「マイクロアクイジション」と同じ構図。

重要なのは、海外の事例をそのまま持ち込むことではない。

「需要の構造」を持ち込むことだ。

アメリカで大学生の荷物預かりが成立するのは、夏休みに寮を出なければならないルールがあるから。同じモデルを日本の大学に持ち込んでも機能しない。

しかし「一時的に保管場所が必要になる瞬間」を日本で探せば、引越しシーズンの3〜4月、実家の遺品整理、リフォーム中の一時保管といった需要は確実に存在する。

「何を」ではなく「なぜそれが売れるのか」を翻訳する。これが、海外のマイクロビジネスを日本に持ち込む最も重要な技術だ。


今日できること

akippaかくらしのマーケットを開いて、自分の半径5km以内にどんなサービスがあるかを見てみる。「この地域で足りていないもの」に気づくだけでいい。

派手な一発を狙うより、地元の困りごとを1つ拾うほうが、10年後も生き残れる確率は高い。少なくとも、数字はそう言っている。

10年後まで残っているのは、AIブームに乗った人だろうか。それとも、退屈な商売を淡々と続けた人だろうか。

答えが出るのは、たぶん10年後だ。それまでに、自分は何を始めているか。


参考情報

【Podcast/ニュースレター】
・Chris Koerner, The Koerner Office(Podcast)— Texas Snaxの月商$250K〜$300Kの売上データ、累計注文10万件超のマイルストーン等
https://chrisjkoerner.com
・Nick Huber, The Sweaty Startup(Podcast/Substack/書籍)— Bolt Storageの68拠点・200万平方フィート・資産価値$100M超の数値
https://www.sweatystartup.com
・Nick Huber, The Sweaty Startup: How to Get Rich Doing Boring Things(HarperCollins, 2025)
・Codie Sanchez, Contrarian Thinking(ニュースレター)— 購読者100万人超
https://www.contrarianthinking.co
・The Hustle — "How one man created a multimillion-dollar resale market for Buc-ee's snacks"
https://thehustle.co/how-one-man-created-a-multimillion-dollar-resale-market-for-buc-ees-snacks

【公的データ/調査】
・中小企業庁「2025年版 中小企業白書」— 2023年度の開業率3.9%、廃業率3.9%
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/chusho/b1_1_8.html
・中小企業庁「中小企業白書(2017年版)」— 企業の5年生存率81.7%
・ランサーズ「フリーランス実態調査 2024年」— フリーランス人口1,303万人、経済規模20.3兆円
https://www.lancers.co.jp/news/pr/24055/
・QuickBooks「2026 Entrepreneurship Trends」— クラウドファンディング調達額27%増
https://quickbooks.intuit.com/r/small-business-data/entrepreneurship-in-2026/
・Kentley Insights「RV Parks and Campgrounds Industry Report 2025」— 米国RVパーク産業$10.9B
https://www.kentleyinsights.com/rv-parks-and-campgrounds-industry-market-research-report/

【プラットフォーム】
・akippa — 累計会員数500万人超(2025年10月時点)
https://www.akippa.com
・ココナラ — 会員数550万人、出品数95万件超(2025年8月期)
https://coconala.com
・くらしのマーケット — 登録事業者10万店超、サービスカテゴリ400種類超
https://curama.jp
・メルカリ — 月間利用者数2,200万人超(2026年2月時点)
https://about.mercari.com

【その他】
・日本RV協会公式
https://www.jrva.com
・Nick Huber氏のBolt Storage 68拠点・200万平方フィートの数値は公式サイト(boltstorage.com/about)およびX投稿に基づく。外部投資家から$40Mを調達した点はX投稿での発言。
・Chris Koerner氏のTexas Snax累計注文10万件超はX投稿(2025年12月)での発言。
・Storage Squad売却額$1.7Mは Cornell Chronicle(2021年4月)の報道で確認。
※ 海外事例の数字は各公式サイト・報道記事より。為替は1ドル≒150円で概算。

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