母の歌と私を育ててくれた子ども時代
日曜日になると、幼稚園時代に通った日曜学校を思い出します。
みんなで賛美歌を歌ったあの時間は今も心のどこかに残っています。
そのためか母もよく賛美歌を鼻歌で口ずさんでいました。
日曜日の静かな空気に、その歌声が自然と重なります。
私は小学校5年生まで、北海道の酪農の町で育ちました。
雪の少ない道東では学校帰りにスピードスケートを楽しみ、裏山では段ボールをそり代わりにして滑るのが冬の楽しみでした。
父はスキーが得意で、家族旅行で訪れた川湯温泉ではいつも雪山へ向かっていました。
小学生の頃の私は父っ子で、スキーをする父の後を追いリフトに乗って往復したことがあります。
眼下に広がる深い渓谷と揺れるリフトは幼い私にはとても怖く、その経験が今の高い所への苦手意識につながっているのかもしれません。
それまでは軌道電車の積み上げられた枕木の上を平気で飛び回っていたのですから、人の苦手意識は思いがけない体験から生まれるものなのでしょう。
一方で、母の影響を受けて華道を始めたのもこの頃でした。
着物姿の母に憧れ、花の咲く季節には裏山へ花を摘みに出かけ、軌道電車の終点の先までふきを採りに行き、おままごとを楽しみ、タミーちゃん人形の洋服を作ってもらう…。
自然の中で遊びながら、少しずつ「女の子らしさ」にも目覚めていきました。
あの頃は、子どもだけで野山を駆け回っていても、熊を心配することはありませんでした。
自然を怖がるのではなく、自然とともに暮らし、毎日を思いきり楽しめる時代でした。
なぜか小学生の頃は、不思議なくらい仲の良い友達はみんな一人っ子でした。
お泊まり会をしたり、一緒に遊んだり、かけがえのない時間を過ごしました。
父の転勤で札幌へ移った小学6年生の時も、一番仲良くなった友達はやはり一人っ子でした。
おしゃれな洋服を着こなす彼女を見て、「札幌の子は大人っぽいな」と驚いたことを覚えています。
それまで自然の中で育った私にとっては新鮮な世界でした。
その友達に背中を押されて、私にも初めてのボーイフレンドができました。まだ幼いながらも卒業後に違う中学に通う彼と文通をするようになり、都会での新しい世界に少し背伸びをしたような気持ちだったことを思い出します。
しかし、中学生になると、農業試験場に勤める家庭の子どもたちが多い学校で過ごすうちに、自然の中で育った小学校5年生までの頃の自分らしい感覚が少しずつ戻ってきました。
それとともに、文通を続けていた彼とのご縁も自然に途切れました。
無理に終わらせたわけではなく、お互いの成長とともに歩む道が変わっていったのでしょう。
一方で、小学校6年生の時にできたご縁は、すべてが途切れたわけではありません。
同級生の一人が同じ中学校区へ引っ越してきたことで、その妹さんと3人で小学校にバス通学をするようになりました。
その時間を重ねるうちに友情が深まり、その彼女とは幼なじみとして長く交流が続きました。
彼女が亡くなるまで、小学校6年生の同級生たちの近況を教えてくれたのも彼女でした。
あの頃の思い出をつないでくれた、大切な存在だったのです。
また、中学3年生で引っ越した後も、半年ほどはバス通学を続けました。
小学校でも中学校でも、バス通学という何気ない日常が、友人との絆を深めてくれたように思います。
その後は、中学時代の仲良しグループとすすきのの屋内スケート場へ出かけたり、映画を観たり、畑をもつ友達のとうきび畑で収穫を手伝ったりと、気の合う仲間と充実した時間を過ごせました。
高校では部活動に打ち込む毎日となり、それぞれの道を歩み始めました。
それでも数年前になって、中学時代の親しい友が高校時代、私の部活後の帰宅を待つことなく毎日のように彼女の部活後にバスを途中下車して私の家へ立ち寄り、母と話をして帰って行ってたことを知りました。
その話を聞いた時、人と人とのご縁は、自分の知らないところでも静かに育まれていたのだと胸が温かくなりました。
母は雨が降ると、部活後の私を地下鉄駅まで必ず迎えに来てくれました。
母が亡くなるまで、童謡・唱歌の「あめふり」を認知症の母と一緒に歌いながら中学時代に思いを馳せました。
彼女は幼稚園の先生になり、私はスクールカウンセラーにはなれませんでしたが、母の様に人の心に寄り添う仕事を志したという意味では、どこか同じ夢を見ていたのかもしれません。
母が亡くなってから、こうして子ども時代を何度も思い返すようになりました。
それはきっと母が見せてくれた景色や、母が育ててくれた私の原点を、一つひとつたどり直しているからなのでしょう。
自然の中で遊び、家族に愛され、友人に恵まれた子ども時代は今の私を支える大切な宝物です。
その思い出は、これからも人生を照らし続け、母から受け取った温かな心を未来へつないでくれると信じています。
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