見出し画像

「星になった約束」―Silent Tide  Persiさん企画参加作品

二人は 秋の浜辺を 並んで歩いていた。 
あなたは 一言も発せず ただ潮の香の中で 
遠い水平線を 見つめてた。 
やがて あなたは 風に背を向けるようにして 重い口を開く。

「決めたよ。兵士に志願する。もう見ているだけでは いられない。
この国を守らなければ--」

この瞬間が来るのを 私は ずっと恐れてた。

「えっ!! どうして今なの。私たち婚約したばかりよ。結婚式も まだなのに」
「戦地から 帰ってきたら 結婚しよう。 それが 僕ができる一番の約束だ」

二人の 言葉はずっと 交わらぬまま 潮騒の音に吸い込まれる。
時だけが むなしく 静かに流れていく

婚約から まだ半年も 経っていなかった。 
イタリアの旅が、二人 唯一の 甘い記憶だった。 
未来のことを 何度も話し合った。 
湖畔の側に、小さな家を建てて、子供は三人。 
あなたはエンジニアとして働き、私は教師として暮らす。 
余裕があれば 小さな犬を飼おう。 
夢は、尽きることなく 泉のように湧き出てくる。 
けれど その夢の実現を 戦争が 唐突に奪い去った。

10月の朝 空は抜けるように高く、雲は白かった。
あなたは 海軍に入隊。
入隊の朝 私は 人目も気にせず、あなたにすがって泣いた。
恥しさも 体裁も捨てさり 涙に溶けて 泣いた。
あなたはザラザラした指で 私の涙を拭いながら 耳元で何度もささやいた。

「必ず 生きて帰る。決して死なない。帰ったら結婚しよう。絶対に還るから」

やがて あなたは 古い小型駆逐艦の乗組員となる。 
出航の日、私は 港に見送りに行った。 
青い整備員の服を着た あなたは、甲板から 手を振っていた。 
見送りの人たちの歓声で、あなたの声は かき消されたけれど、唇の動きでわかった。
――「必ず 戻ってくる 」
私は ハンカチを 思い切り投げたが、風に流され 海に落ちた。

戦況は 膠着状態となり、月日だけが過ぎた。
死傷兵の数だけが増え、TVは毎日「勝ち戦」の報ばかり伝える。
けれど私が 知りたいのは、ただ一つ。
あなたの船が 無事でいるかーーただそれだけだった。

雪の降り続く朝、突然 臨時ニュース。
あなたの乗った駆逐艦が 沈没したという知らせ。 
夜間に、照明を消して出航した艦は、敵の敷設した浮遊魚雷に触れた。
小さな船体は、救助信号を送る間もなく 三つに裂けて 瞬く間に 海の底に沈んだという。

 私は 全身の力が抜けて TVの前に座り込んだ。
ニュースは、救助された乗組員の事は 語らなかった。 
海軍省に何度も尋ねても、「まだ 調査中です」という決まり言葉の 返事ばかり。

一週間ほど 経った午後。
玄関のチャイムが鳴った。
ドアをあけると軍服の男が、白い封筒を抱えて 立っていた。 
敬礼の姿が見えた瞬間、胸の奥で 小さな希望の鈴が音を立てて砕け散った。

「無念であります。ご立派なご最後でした」。
その冷たい 慰め言葉が 心に針のようにささる。
また私は その場に座り込んで 声を殺して泣いた。

あなたが 逝ってから一ケ月余り。 
私は あの日と同じ浜辺にたっていた。
もう夕闇が迫り、潮風がつめたく 頬をなでる。
流れる涙を 海風がそっとやさしく拭ってくれるようだった。
波音は あの日より大きく、まるであなたが、 私に語りかけているように響く。
目を閉じると あなたと過ごした「短く幸せだった日々」が 走馬灯のように蘇る。 
ため息は 海の泡となり消えていく。 

「あなた 約束守れなかったわね。 
必ず、帰るって言ったじゃない。
ウエディング・ドレスも 仕立てたのよ。 
結婚式の招待状だって 作ったのよ。
だからーー 早く戻ってきて。。。
 あなたは うそつきじゃあないでしょう。」

 夜空には 星が またたき 始めた。

「おねがい.. 星になっても 戻ってきて!!
私ね お腹に あなたの赤ちゃんが いるみたいなの
この子は 戦争のない時代に 生きてほしいの」

星の灯りは その瞬間 一層と強く 光り輝いた

☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
Persiさんの企画に参加させていただきました。Persiさんどうぞよろしくお願いいたします。 長文になりました。もし テーマーがふさわしくなければ 没にしてください

#小説 #賑やかし帯 #海月 #persiさん #Silent Tide#立山剣 #戦争

いいなと思ったら応援しよう!

立山 剣 よろしければサポートお願いいたします。いただいたサポートはクリエーターとしての活動費、制作費に使わせていただきます