生存をかけた「資源配分」の規律 〜「会社」の解剖、その正体をさぐる⑤
前回、ガルブレイスの視点から、現代企業を動かしているのは「テクノストラクチャー(専門家集団)」であることを知りました。
では、組織の中にいるこの名もなき専門家たちは、何を共通言語として意思決定を行っているのでしょうか? 彼らが冷徹に、そして効率的に「投資すべきか、撤退すべきか」を判断するための物差し。それが「戦略」です。
第5回は、世界最高峰のコンサルティングファーム、ボストン コンサルティング グループ(BCG)の創業者ブルース・ヘンダーソンの思想を通じて、会社という装置の「生存本能」を解剖します。
1. 経験曲線:時間は「コスト」という武器に変わる
ヘンダーソンが世に送り出した最も強力な概念の一つが「経験曲線」です。
彼は、累積生産量が増えれば増えるほど、コストは一定の割合で下がり続けるという法則を見出しました。
これは、ビジネスにおける「弱肉強食」を数学的に証明したものです。競合よりも早く、多く動いた者が、コスト競争力という絶対的な武器を手に入れる。会社にとって「立ち止まること」は、死を意味します。
2. PPM:情け容赦ない「選別」のロジック
ガルブレイスのいうテクノストラクチャーが、組織の自己保存のために使う最も有名な道具が「PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)」です。
彼らは、会社内の事業を「市場の成長率」と「シェア」で4つに分類します。
「金のなる木」: 稼ぎ出したキャッシュを、将来のために回収する。
「花形」: さらなる成長のために投資を続ける。
「問題児」: 勝てる見込みがあるか厳しく見極める。
「負け犬」: 容赦なく撤退・売却する。
ここで重要なのは、この判断に「人間的な情」が入り込む余地がないことです。岩井氏が説いた通り、会社の本質は「空虚な主体」です。だからこそ、テクノストラクチャーは、あたかも機械のパーツを入れ替えるように、不採算部門を切り捨て、成長分野へ資金を流し込むことができるのです。
3. 戦略という名の「生存教義」
ヘンダーソンにとって、会社とは「市場という生態系の中で、競合を圧倒し、勝ち残るための適応装置」です。
ピケティが示した「資本の蓄積($r$)」を最大化し、ピストールが作った「法的シェルター」を守り抜くために、専門家たちはこの冷徹な戦略の規律を、自分たちの「正義」として共有しているのです。
なぜ、私たちは「自発的に」従うのか?
ヘンダーソンが示したのは、会社が生き残るための凄まじく合理的で、かつ冷徹なアルゴリズムでした。
しかし、最後に大きな謎が残ります。
私たちはなぜ、この非人間的なまでの効率性を追求するシステムの中に、自ら進んで組み込まれようとするのでしょうか? なぜ「会社の目標」を、いつの間にか「自分の目標」だと思い込んでしまうのでしょうか。
次回、最終回。アントニオ・グラムシ編「ヘゲモニー(文化的覇権)という目に見えない支配」。
私たちの「意識」の奥底に潜む、真の正体を暴きます。

