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雨の降る日

3時間目の途中、知らない先生が教室の前のドアから入ってきて、担任の先生に何か小さな声で話した。すぐに先生が私をみて「塚田、帰る支度をしなさい」と言った。

みんなが「えー?」「いいなあー」と騒いだけど、先生は「静かに」と少し怖い声で言った。みんなすぐ静かになった。

急いでランドセルに教科書を詰めて、下駄箱のところまで行くと、妹とお母さんがいた。お母さんは私をみると「早く」と手招きした。

「おばあちゃん、死んじゃったから。病院に行くよ」

外は雨が降っていた。傘立てに傘を忘れたことに気づいたけど、お母さんに「すぐ車に乗るから。走りなさい」と言われて走った。妹は「冷たいよ」と文句を言った。お母さんは自分の傘に妹を入れて「あんたは先に行って」と私をせかした。

6月だから寒くはなかったけど、濡れるのは気持ち悪かった。校門を出てすぐに家の車を見つけて近寄ると、お父さんが出てきて、後ろの席のドアを開けて入れてくれた。

「なんだ傘はなかったのか?」

「お母さんがささなくていいから、急げって」

「別に急ぐ必要もないのに。濡れちゃったな」

お父さんは運転席に座ると、「ほら」とタオルを投げてよこした。すぐにもう片方の後ろのドアが開いて、お母さんに支えられて妹が入ってきた。私は妹にタオルを渡した。

お母さんが助手席に座ると車が出発した。お父さんとお母さんは私たちが濡れたことについて少し言い争っていた。妹は外を見ながら歌を歌っている。私は車の窓に当たって流れる雨粒を見ていた。

病院に着くと、お父さんは建物の近くに車を停めた。入口の屋根に駆け込んで、お母さんと妹と私は濡れずに済んだ。妹が「お父さんは?」と聞くと、お母さんは「駐車場に停めてから来るから大丈夫、傘もあるし」と答えた。

受付でお母さんが名前を言うと、お医者さんみたいな人が出て来て「この度は」と言いながら頭を下げた。すぐにお父さんも来て、私たちに「あそこに座っていなさい」と言い、私と妹はソファに並んで座った。

「食事が喉に」とかそういう感じの説明が聞こえた。お父さんは「いや、もういいんです。寿命ですよ」と言ってお母さんと頷き合った。そして「お世話になりました」と頭を下げた。

お医者さんの説明が終わると、お母さんに「おいで」と呼ばれた。私たち家族は黙ってお医者さんの後を歩いた。病院の中は外より少し寒くて、プールみたいな匂いがした。廊下を歩いて階段を上って、また廊下を歩いて、白っぽい静かな部屋に入った。

お医者さんがカーテンをシャッと開けると、ベッドの上におばあちゃんがいた。妹は「おばあちゃん寝てるの?」と言ったけど、誰も答えなかった。おばあちゃんはこの間会った時よりも痩せていて、口がぽかんと開いていた。

お父さんは下を向いてじっとしていて、お母さんは泣いている。お母さんはおばあちゃんのこと大嫌いなはずなのに、ちょっと不思議だった。おばあちゃんの眉毛はいつものようにへの字に上がっている。お母さんは私を怒る時、「あんたの眉毛はおばあちゃんにそっくり」と言うことを思い出した。

お母さんは涙声で「おばあちゃんにさようならして」と私たちに言った。妹はお母さんを見上げたあと、「おばあちゃん、ばいばい」と言った。私も続いて「おばあちゃん、さよなら」と言った。

お父さんとお母さんは先生とお話があるから、と私と妹はさっきのソファで待つことになった。パックのジュースを買ってもらって、並んで座って飲んだ。

「ねえ、おばあちゃんってしんじゃったの?」

妹が聞いてきた。私は「うん」と頷いた。

「ねえ、しんじゃうってなに?」

「うーん……。もう起きてこないし、会えないし、おしゃべりとかもできないってかんじかな」

「そっか」

妹はストローをじゅーっと吸った。その音が大きかったので、少し恥ずかしかった。

しばらくしたらお父さんとお母さんが戻ってきた。お父さんは私と妹を見て「お待たせ。さあ、いくぞ」と言った。自動ドアが開いて外に出ると、雨は少しだけ弱くなっていた。お母さんは空と私たちを見比べてお父さんに言った。

「どうする?走る?」

「いや、俺が車取ってくるから、ここで待ってて」

お父さんは傘立ての鍵を開けて傘を取ると、ぱっとさして駐車場の方へ歩いていった。お母さんは「お腹すいた?」と聞いてきた。私と妹は首を横に降った。

お父さんの車が来て、みんなで乗り込んだ。ランドセルが邪魔でシートベルトが上手くはまらなくて、妹がぐずった。私が手伝うと、すぐにカチッとはまった。

車が動き出してしばらくすると、お父さんとお母さんはお葬式のことについて話し始めた。横を見ると妹はうとうとしている。赤信号で車が止まった。歩道を見ていたら、同じ学校の子たちが何人か歩いていた。ランドセルに黄色いカバーがかかってるから、妹と同じ一年生だろう。

「明日の朝は普通に学校に行っていいから」

お母さんが振り向きながら言った。私は「うん」とだけ言った。

信号が変わって車が動き出す。雨がまた少し強くなって、窓にぱちぱちと当たって流れた。




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