ゴルゴ13 「ROOM・No909」。発射残渣はどうなったのか。 (本文12050文字)
ゴルゴ13は、故さいとう・たかお氏の大ヒット漫画(劇画)作品である。
今回、そのゴルゴ13の「ROOM・No909」を読んでみた。
はじめに
この回(この短編)は、ゴルゴ13の狙撃の技量の高さを強調する回である。
ゴルゴ13では国際情勢を背景にしている物語が多い。
そういう回は、紛争当事国のことや国際的な有名人などを知るというメリットがあるが、私は好きではない。
私は漫画を娯楽と思っているのであり、物語の背景情報が役に立つとは思っていないのである。
以前、職場の先輩職員が「漫画を読むと世界情勢が分かります。」と上司に言っていたのを聞いて呆れたことあった。
そのときその先輩職員のいう「世界情勢が分かる漫画」とは、恐らく『ゴルゴ13』を指していたのだろうと思うが、漫画は映画や小説と同じように創作の要素が強い作品群である。
仮に一部に事実が描かれていたとしても、どれが事実でどれが創作なのか、一般の読者には判別できない。
また、そういう曖昧さをはいして、後日問題になりそうなことを作品にすることはできないだろうと思う。
『ゴルゴ13』は、1968年11月に発表されたそうだ。今回の「ROOM-No.909」は「1971年10月作品」とあるから、発表されてからまだ3年くらいしか経過していない。
だからまだゴルゴ13は、寡黙(言葉数が少ないこと。ほとんど物を言わないこと。)なキャラクターを維持している。
この「ROOM・No.909」は、神業クラスの狙撃技術と偶発的なできごとに対するゴルゴ13の対応力の高さを、捜査員を通して私たちに語りかけている。
さて本作は、まず「マンハッタン・ニューヨーク」と今回の舞台が明示されてからPART1に続いていく。
PART1 ビルの谷間で
ここでは最初にマンハッタンのビル群が描写される。
ビル群の影の描き方から、時刻が早朝か夕方を示していることが分かる(後の記述で夕方の日没時だということが示される。)。
次に、ビルのある部屋のベランダ(後述)からゴルゴ13の部屋のベランダにシャム猫がジャンプしてやってくるシーンが描かれる。
バルコニーとベランダの違い 最も大きな違いは、「屋根(ひさし)の有無」である屋根があるものが「ベランダ」、屋根がないものが「バルコニー」と呼ばれる。私は、ベランダといえば団地を連想し、バルコニーといえば松田聖子さんの『渚のバルコニー』を連想する。
たしかに、バルコニーに屋根はふさわしくないような気がする。
後の話から、このベランダが地上100m位の高さにあることが分かるが、そんな高い位置を楽々とジャンプしてやってくるこのシャム猫はかなり度胸がある。
ゴルゴ13の部屋のベランダにやって来たそのシャム猫は、いくつかある植木鉢の間に身を潜める。
次に、部屋のベッドに横になっているゴルゴ13が描かれる。
彼は、腕時計のアラームをきっかけに起き上がり、ベランダの戸を開け、ライフル銃を取り出し狙撃準備に入る。
このうように暗殺者が、仕事の前に体と精神を休めている姿は、映画『ボーン』シリーズでも描かれているが、これはゴルゴ13に方が先んじている。
ゴルゴ13が使用するライフル銃は、今回はM16アサルトライフルではなく、光学スコープ(後述)を付けたシングルアクション(後述)のものである。
光学スコープ レンズを通して目標を拡大し、レンズ内に投影された照準線(レティクル)をターゲットに重ねることで、正確に狙いを定めるための「光学照準器」の総称である。 簡単にいうと、望遠鏡である。 なぜ、光学スコープが「光学」と呼ばれるかというと、レンズや鏡などの光学系(光を屈折・反射させる部品)を使って光をコントロールし、像を拡大したり焦点を合わせたりする仕組みだからだそうである。
シングルアクション 手動でボルト(後述)を操作して、断薬の装填、発砲後の薬莢の排出、次弾の装填を行う機構のこと。ダーンと撃って、ジャキーンとボルトを引き排莢し、ガチャンとボルトを元に戻すと新たな断薬が薬室に装填される銃(大概ライフル銃)である。
ボルト 正確にはターン・ボルト(turn bolt)というらしい。
言葉で定義するのは難しいのだが、映画『プライベートライアン』で狙撃担当の兵士(左利き)が主(神)に祈りの言葉を言いながら、左手でターン・ボルトを操作してライフル銃を撃っていた、あれである。
ゴルゴ13は、そのライフル銃にサプレッサー(サイレンサーとか消音器とも呼ばれる)を装着してから葉巻を吸い、位置について狙撃機会を伺う。
ゴルゴ13のライフルの光学スコープ越しの映像を見ると、標的はかなり遠方のビルの一室にいるらしい。
その部屋のブラインドは半分ほど下げられている。
そのブラインドの開いている下半分に女性がタイプライターらしきものを打っているのが見える。
ゴルゴ13の覗いている光学スコープはかなり高い倍率を有しているのか、それともゴルゴ13が集中することによって対象物が拡大して見えているようだ。
そして、ゴルゴ13は、この依頼を受けたときのことを回想する。
PART2 標的は地上100m
このPARTは、もっぱら狙撃依頼の回想になる。
ゴルゴ13は、ある遊園地で黒いシーツ姿でアタッシュケースを持ったチャールズ・C・ホイットニーと会い、観覧車の中で依頼内容を聞く。
この作品の時代、観覧車で密談をするとか、重要人物と会うということが流行したのかも知れない。
映画『第三の男』にもそんなシーンがあった。
現代では、会話で観覧車の窓ガラスが振動するのを感知し、会話内容を解析するという手法で盗聴される危険があるし、観覧車外からロケット弾等で狙撃される危険があるから別の方法を選ぶだろう。
それはそうと、標的はロバート・ホートンでウォール街の怪物と呼ばれる大物である。最近こいつがマフィアの大物だということが判明したらしい。
彼は、株価を操りいくつもの会社を倒産させてやがて自分のものとしている。
暗殺依頼の目的は、世界の金融界を守り抜くことだそうだ。
報酬は10万ドル。
狙撃の場所としてホイットニーが上げたのは、ニューヨーク7番街にあるハリソンビル31階のホーソンの第二事務所である(これは、狙撃可能な場所として上げただけで、暗殺依頼の条件というわけではない。)。
ただ、難点はその場所が地上100メートルの高さにあることだとホイットニーは汗をかきながら語る。
ここまで説明したホイットニーは、「わざわざ、あなた(ゴルゴ13)をお呼びした訳がおわかりいただけたでしょう!!」と言う。
ここで一つ疑問がわく。
狙撃をするうえで高度というのは障害になるのだろうか。
距離なら障害になり得る。
現代の狙撃距離の公式世界記録(審判員のいない実際の戦場で「公式」というにのはなんか解せないが、そう言われている。)は3000メートルくらいだったと思うが、かなり上手な狙撃射でもこの距離で目標物に弾を当てることは至難の業であろう。
また、風が強くて弾道が安定しないとか、悪天候で目標を目視しにくいというのも障害になる。
だが、狙撃をする上で高度ゆえの環境変化とは、空気の薄さによる弾道や射程距離の変化(大気の密度が薄くなるから、発射された弾丸への空気抵抗が減り、弾道の放物線はより直線に近くなり、また弾丸の飛距離が増す。)くらいだろう。
これらはいずれも射手に有利だと言える。
ホイットニーが力を入れて「これだけ困難な狙撃なのです。」とゴルゴ13に言うのは、別に理由があるのだろうか。
このゴルゴ13への依頼シーン全体を通じて、ホイットニーの小物っぷりが強調されているが、素人の私から見ても「こいつ大丈夫か?」と思われる。
ホイットニーを軽い存在と認識してからこのぱPART1を読み直してみると、この依頼自体が放置できないほど依頼者の自己都合によるものだと分かる。
つまり、ロバート・ホートンはマフィアの大物かも知れないし、彼がウォール街で行っていることは冷血な行為かも知れないが、違法ではないのだ。
敵対的買収とか株の暴落を狙いその機に乗じて利益を得るといったことは、資本主義国では普通にみられることである。
敵対的買収 (同意なき買収)とは、買収対象となる企業の経営陣の賛同を得ないまま、株式公開買付(TOB)などを通じて一方的に過半数の株式を買い集め、経営権の掌握を目指す手法である。経済産業省の指針では「同意なき買収」とも呼ばれる。
「敵対的買収」という言葉は、2005年にライブドアがニッポン放送に仕掛けたことで話題になった。
ライブドアは、フジテレビの筆頭株主である同社を手に入れることで、実質的にフジテレビの経営権を握ろうとした事件とされている。
「敵対的」と言うからなにか悪事のような印象を与えるが、別にこれは悪事でもなければ違法でもない。
単に、買収される企業の経営陣が「買収されたくない」ということで、買収しようとする企業や個人と「敵対」しているというだけである。
会社の所有者である株主は、自由な株取引の結果株を譲り渡しているので、何も問題ない。嫌がっているのは経営陣だけなのである。
株価操作に何か犯罪的な手段を使ったというのなら(マフィアならそのへんはお手の物かもしれない。)が話は別だが、ホイットニーの話にはそんなことは出てこない。
ホイットニーは、「最近ウォール街で頭角を現してきた悪らつ非道なロボート・ホートンというマフィアの大物がいくつもの企業を自分のものにしており(企業買収ということであろうか)、このままではニューヨーク株式取引所をわがものにしてしまうに違いない。
ウォール・ストリートの伝統をギャングどもの手で汚されようとしていることを放置できない。」
「また世界の金融界を守り抜く必要がある。」
だから、ロボート・ホートンをまっ殺するのだ。ときれい事を並べているが、私は「アメリカの中小企業経営者や個人経営者を合法的な手段で締め上げてきたのはウォール街の連中だろ。自分たちが追い込まれそうになったら、金融界を守ると『光の戦士』を気取るのは恥知らずな行為だ。」と思う。
このホイットニーの理屈が通用するなら、ジョージ・ソロス(後述)なんかずっと前に殺されていなければならないだろう。
ジョージ・ソロス George Soros(1930年〜) ハンガリー出身のアメリカの著名な投資家、慈善家である。マクロ経済の動向を予測し大規模な資金を動かす「グローバル・マクロ」手法を用いたヘッジファンド運用で巨万の富を築き、ウォーレン・バフェットらと並ぶ「世界三大投資家」の一人として知られている。
2026年6月現在、アメリカの種々の国内暴動への資金提供者としても知られている。
私は、そのうち、トランプ大統領対ジョージ・ソロスという大戦争が起きるのではないかと恐れている。
とにかく、今回のゴルゴ13への依頼は邪悪な動機によるものである。
ゴルゴ13は、狙撃で名を売っている殺し屋であるから、依頼内容が悪魔的だろうとなんだろうと彼のルールに違反していない限り依頼を受けるとは思うが、どうせなら、被害者は狙撃されても仕方ない悪事をはたらいていたという設定にして欲しかった。
読んでいて、今ひとつゴルゴ13を応援できなかった。
その回想途中に狙っていた部屋に標的が現われた。
ゴルゴ13は、タイプライターを打っていたと思われる女性が立ち上がり頭を下げたことで、標的が部屋に入ってくることを予知し、ライフル銃のボルトを「ガチャッ」っと操作した。
このゴルゴ13の動作も分からないことの一つである。
ボルトアクションの銃の場合、薬室に弾丸を装填した状態で狙いを付ける。後は引き金を引けば弾丸が発射されることになる。
ゴルゴ13が使っているライフル銃は、薬室に弾薬を装填した後、さらにボルトを引くことで発砲準備を終えるという方式なのであろうか。
実銃に詳しくない私には分からないことである。
そして、光学スコープ(後述)上で標的の眉間を狙い発砲した。
その発砲直後、ゴルゴ13は「ゴトッ」という音に反応し、音のした方を向きながら銃のボルトを操作して今撃った弾丸の薬莢を排出し、次弾を薬室に装填した。
音のした方に銃を向けたとき、シャム猫が植木鉢を倒しながら逃げていくのが見えた。
ゴルゴ13は、自分に危険が迫っているわけではないことは分かったが、ライフルを振り回しながらボルトを操作したため、排出した薬きょうが想定外の場所に飛んでしまった。つまりベランダの外に落としてしまったのである。
薬きょうが落ちるコマ割とゴルゴ13の「しまった!」という表情のコマ割が交互に描かれ、このことが非常にまずいことだということが強調されている。
ゴルゴ13がこのアクシデントにどう対処したかはここでは描かれず、物語は次のPART3に続く。
PART3 空薬きょうは落ちた
その空薬莢は、高さ約100メートルから地上に落下し、麻薬常習者のチャーリーに拾われる。このとき、その薬きょうはまだ熱かった。
それを見たパトカー乗務の制服警官トム・ウェイン(後で名前が出る。)は、チャーリーからその薬莢を受け取り、歩道を歩いているときに頭上から落ちてきたこと、拾ったときには熱かったことなどを聞き取る。
その制服警官が当該薬莢を手のひらに持ったときも、まだあたたかかった。この薬莢の弾丸が発射されたのはほんの少し前だったのだろう。
PART4 刑事シャイアン
ここから、事件は捜査官の視点で進展していく。
ロバート・ホートン殺害現場に担当刑事のサム・シャイアンとエディ・モーガンがやって来る。
殺人現場の描写は、まずガラスの弾痕が描かれ、次いでロバート・ホートンが仰向けの状態で倒れている姿が描かれている。
眉間を打ち抜かれており、床には後頭部から出血したのであろう血液が広がっている。
室内には女性(秘書のペギー)が、机の横で電話の受話器を握ってその机の上に顔を伏せていた。
彼女は、警察官らを見ると、興奮状態でしゃべり出した。
そばで上司が銃で撃たれて死亡したのであるから、興奮状態になるのは仕方がないが、それでは聴取にならない。
シャイアン」刑事は、改めてその女性に「あなたが知らせてくれたんですな?」と話しかけた。
その女性は、ペギー・ホリディといい秘書だと名乗った。
ここまで書いてきたで、一つ訂正していなければならない。
私は、ペギーの机の上にタイプライラーが置いていないことから自分の間違いに気づいた。私は「女性がタイプライターらしきものを打っているのが見える。」と書いたが、それは間違いで何か書き物をしていたようである。
ペギーの机の上には、電話とペンとペン立てそれに書類とメモ用紙そしてデスクカバーしか置かれていないのである。
秘書の仕事場としては、なにか物足りないような気がするが、まぁそれはそれでいいだろう。
ホートンの死体のある部屋の描写を見ると、ホートンの机は窓を背にして配置してある。
そして、ホートンの机の右手にドアがある。さきほどのシャイアン刑事らはそのドアから入ってきた。
そして、秘書ペギーの机はそのドアの正面に置かれている。これは、来客を早期に視認するためであろう。
とにかく、ペギーの机の右側に窓があるのである。
ペギーは、さきほどの受話器を右手で持っていたから、右利きであろう。
とすると、ペギーとしては執務中は左側から光が入ることが望ましいはずである。
もっとも、秘書の仕事環境より、秘書が訪問者をこの事務所の主より先に視認することのほうが重要だと言えばそうだし、ホートンが窓からの光を背にして机に向かっている状況が彼のカリスマ性を一層印象づけるという演出だというのであれば、それもそうだと思われる。
ところで、秘書ペギーが言うのは、犯行時刻は午後5時頃で、ホートンは室外から飛来した弾丸により殺されたものと見られる。
ただ、ペギーはホートンが倒れた「ドサッ」という音で振り帰りホートンの死体を見たというので、ペギーはホートンが撃たれた瞬間はみていな。
秘書ペギーが再び泣き崩れたとき、シャイアンの同僚のエディ・モーガンが壁に弾痕を見つけた。
窓ガラスの弾痕とこれを結んだ延長線上に狙撃場所があるはずである。
事件解決の糸口がつかめたかと思ったとき、シャイアンはこの狙撃の不可能性に気づく。
その不可能性を説明する過程で、「①ガラス窓の弾痕が床から1メートル72センチの位置にあり、②壁の弾痕が床から1メートル73センチの位置にある。」ことがシャイアンの口から語られる。
シャイアンは、「つまり、弾道は水平に近くやや上向きだ。」と同僚のモーガンに語る。
しかし、私は検死をまたずしてそう判断していいのだろうかと思う。
シャイアンは、捜査の大まかな方針を決めるために暫定的に判断したのだろうと思うが、私は次のようなことを指摘したい。
弾丸は被害者であるホートンの眉間から入って後頭部に抜けている。
つまり、弾丸は被害者の頭蓋骨を貫通しているのである。
そうであれば、頭蓋骨に当たった拍子に弾道が上に曲がったという可能性を排除できないのではないか。
と思うのである。
ホートンの眉間の高さは恐らく窓の弾痕とほぼ同じの1メートル72センチくらいであろう(ホートンの頭部の先端は眉間から13センチくらいは上にあるだろから、ホートンの身長は1メートル85センチ程度と推定できる。ホートンは小柄ではないがアメリカ人男性としては大柄とも言えないだろう)。
シャイアンは、「弾道は水平に近く、やや上向きだ」と言っているが、狙撃の場合、下に向かって撃つほど弾道は水平に近くなるから命中精度は高まるはずである(これは真下の目標に撃つことを考えると理解しやすい。発射された弾丸が垂直に落ちていく場合、地球の引力(正しくは重力。この点について後述)は弾速を速くするだろうが、弾道にはなんら影響を与えないはずである。)。
引力と重力 「引力」はすべての物体が引き合う力のことである。一方「重力」は、天体(地球など)の引力に自転による遠心力を合わせた力のことである。
遠心力は地球上の物体を回転の外側に押し出そうとする力であるから、(重力=引力-遠心力)ということになる。
引力と重力については、映画やドラマそれに漫画でもけっこう混同されていたり誤用されているような気がする。
そのことはシャイアン刑事は知っているはずだから、シャイアンが「弾道は・・・、やや上向きだ!」と語り、そこに疑問を感じていないようなのはおかしいように思う。
ただ、弾痕だけから考えるなら、シャイアン(そしてモーガンも)のように考えるのは妥当なのかも知れない。
そこは妥協するとして、その後のモーガンのこの発言は意味を理解しにくい。
モーガンは「つまり弾丸は、このハリソン・ビルから南へ直角に近い角度で、撃ちこまれている!・・・だからタテとヨコの弾道をよく検討すれば、その交さく点、つまり狙撃地点が出てくると言うんだろ!?」とシャイアンに言う。
このモーガンの言わんとする意図は、窓ガラスの弾痕と壁の弾痕との高さを比較し、その2点を結んだ線を垂直面で延長することで(弾道を横から見ると)狙撃場所の高さを特定できるし、その2点の横方向のずれを比較すれば、やはりその2点を結んだ線を水平面で延長することで(弾道を上から見ると)狙撃場所の横方向の位置を特定できる。ということなのだろう。
現在なら、壁の弾痕にレーザー光線発射装置を置き、窓ガラスの弾痕から外に光を出すようにすると、狙撃場所が肉眼で特定することができると思う。
サッカー場で観客が選手にレーザー光線を当て、敵チームの選手のプレーを妨害するという許しがたい行為をすることがあるが、あの要領である。
(先日もYouTubeのショート動画で、レーザー光線を使ってゴールキーパーのプレーを妨害しようとする女性の観客の姿をカメラが捕らえたという映像を観た。私たちは、そういう卑怯者が世界には普通に存在するのだということを覚えておく必要がある。そう思うので、労働者の天国建設を夢見る共産主義者(社会主義者)を受け入れる気がしない。)
窓ガラスは弾丸が通過したとき大きく割れているわけではないし、壁の弾痕はのぼ弾丸の大きさのとおりだと思われるから、モーガンの言う方法で(レーザー光線を使う場合でも)狙撃場所特定は十分可能であろう。
ここで不可思議な状況にぶつかる。
ホートンの事務所の窓から見て、狙撃場所の候補となりそうな2棟のビル(80メートル先のファイバー・ビルと220メートル先のエレクトリック・センタービル)があるが、それらビルの北側には窓がまったくないのである。
4面あるビルの側面の、1面全部に窓がないなんてことがあるだろうか。しかも2棟のビルともそうなのである。
ビルのオーナーであれば、維持管理費用を節約したいと考えるだろうし、窓がない部屋は用途が限られるからビル使用の自由度が限られてしまう。だから必ず窓を作ると思うのだがなぜ北側に窓を作らなかったのだろう。
これは、現実性よりもゴルゴ13の神業の狙撃技術を協調するための意図的な設定であろうか。
とにかく、ここは深入りしないで、「これで狙撃場所の候補が二つ消えた」ことでこの狙撃事件の捜査の輪が狭まったと解釈することにとどめよう。
他のビルは高さが低く、さきほど想定した弾道から考えて狙撃場所にふさわしくない。
シャイアンとモーガンが狙撃場所の特定の手がかりを失ったと感じたときに、トム・ウェインが見つけた(正しくは麻薬常習者のチャーリーから受け取った)薬きょうが彼らの元に届けられる。
この薬きょうがシャイアンらの元に届けられた理由は、次の二つである。
「① この薬きょうが拾われたとき、その付近で事件があったという連絡はまだ入っていないこと。
② この薬莢が拾われたときまだ暖かかったのだが、その時刻がロバート・ホートンが射殺された時刻(この作品では「時間」となっている。)がほぼ同じであったこと。」
である。
この薬きょうを持ってきた私服警官は、この2点からロバート・ホートン殺人事件の手がかりになる可能性を考えたのである。
彼は、この作品での登場コマ数は少ないが、機転の利くいい私服警官である。
ただ、この薬きょうの発見場所は、ロバート・ホートンの死体があった場所から直線距離で500メートル以上離れている47丁目のイースト・マグレガーアパートメント前の路上である。
シャイアンは、この薬きゅうから「30口径・ロングライフルリムレス(弾薬の規格)」と弾薬(後述)を特定する。
弾薬 cartridge 弾丸と発砲薬(火薬)のことで、「弾を発射するための火薬」という意味ではない(火薬だけを指す用語ではない。)。
一般に、「銃の弾」というとき、弾丸と発射薬(火薬)、それを格納する薬きょう、それに薬きょうの後端に付けられる雷管がワンセットになったものを指すが、銃が発砲するときに主たる役割を果たす弾丸と発射薬を合わせて「弾薬」と呼ばれている。
PART5 909号室
シャイアンとモーガンは、前述の薬きょうが拾われた地点にクルマで移動する。
その車中でシャイアンは、犯人は殺し屋だろうと自分の推測をモーガンに話すと、モーガンも同意した。
シャイアンは、「犯人が、ホートンの事務所の従業員の日常的な行動を観察し、狙撃するタイミングを導き出し、そこを狙った。」と指摘し、このことだけでも犯人が常識はずれの射撃テクニックを身につけていると見なしている。
シャイアンはさらに、犯人を「5つ星級の大物」(後述)と推理している。
5つ星(五つ星)級 主にホテルや旅館などの宿泊施設において用いられる最高ランクの格付け(最高級クラス)を指す言葉である。設備やサービス、料理などにおいて、世界的に一流で極めて高い水準を満たしていることを示している。
シャイアンは、その最高級クラスという格付けを殺し屋(ゴルゴ13)の実力に例えている。
シャイアンとモーガンは、47丁目のイースト・マグレガーアパートメントに到着すると、マネージャーから管理台帳を見せてもらい、909号室のトーゴーに目を付ける。
支配人は、トーゴーが3日前にやってきたこと。1週間の契約であること。(後述)部屋代は前金で貰っていること。をシャイアンとモーガンに話した。
「1週間の契約であること。」 アメリカの「アパートメント」自体は長期居住用の賃貸住宅であるが、「アパートメントホテル」や「サービスアパートメント」と呼ばれる施設を選べば、ホテルのような使い方が可能である。キッチンや洗濯機が完備されており、数日〜数週間の短期滞在から自宅のように暮らせる。
ゴルゴ13がした契約内容からすると、この「イースト・マグレガーアパートメント」は、ホテルのような使い方ができる施設なのであろう。
シャイアンがトーゴーに対して持った最初の疑念は、「907,908号室と空き部屋が並んでいるのに、なぜ、一番はしの909を選んだのか。」であった。
犯罪者は、逃走経路を確保しやすい角部屋を好むと言うし、狙撃の際の発砲音を聞かれにくいという利点があるから909号室を選んだと考えたのである。
シャイアンとモーガンは、909号室の前に立つ。
シャイアンは、トーゴーを5ツ星級の大物だという可能性があるので、二人とも拳銃(二人ともリボルバー拳銃)に装弾してあることを確認してドアをノックした。
銃撃戦になることを予想しているのである。
だが、それにしては二人ともドアの前に立っている。
5ツ星級の大物は、ドア越しに撃ってくることはないというのだろうか。
ゴルゴ13は、909号室のドアを開けた。
ゴルゴ13とシャイアンはこのとき初めてお互いの顔を見たことになる。
早々にシャイアンは、ゴルゴ13に「なぜ、てっぺんのはしっこの非常階段に近い部屋を借りたのか。」と尋ねた。
それに対してゴルゴ13は、「おれは過去に2度もホテルの火事に遭ったからな。」と答え、その後のシャイアンの更なる問いを制止するように「カイロとハンブルグだ。」と火事になったホテルのある都市名を付け加えた。
シャイアンは、任意でこの家宅捜索することをトーゴー(ゴルゴ13)に告げるが、トーゴーは返事をしなかった。
シャイアンはそれを黙示の承諾と解釈して、応援を要請し909号室を徹底的に捜索した。
PART6 凶器は出た!!
捜索の結果、地下のゴミためから凶器と思われるライフル銃が発見された。
この作品で見る限り、各部屋から地下のゴミ収集施設に直接ゴミを落とすことができるようになっているようだ。
シャイアンらは、トーゴーが狙撃の後、凶器である当該ライフル銃を909号室から地下のゴミ収集施設に投棄したのだと解釈した。
また、そのライフル銃は、ロバート・ホートン殺害現場の壁から摘出された弾丸を発射可能なものであった。
シャイアンは、トーゴーを連行しようとするが、トーゴーはそのライフル銃は自分の物ではないとして連行されることを拒否する。
シャイアンは自説(トーゴー犯人説)に自信満々だったので、トーゴーの犯行を実証しようとベランダに出て、当該ライフル銃の光学スコープで殺害現場であるロバート・ホートンの事務所を覗き、その狙撃の不可能性に気づく。
そして、陪審員はトーゴーがこの狙撃を行ったと言うことに納得しないだろうから無罪評決がでるだろうと考え、トーゴーの確保を諦めた。
PART7 12人を納得させるもの
モーガンは、シャイアンがトーゴーの確保を諦めたことを非難するが、シャイアンは次のように、
「① トーゴーは、ここからビルとビルのせまいスキ間をぬってホートンを狙撃したのは間違いないと思う。
② しかしそれは6.2メートルの横風の中行われたことになる。
③ 時刻も目測を誤りやすい日没間ぎわである。
④ さらに500メートル以上という遠距離での狙撃である。
このような悪条件ばかりそろったデータを示して陪審員を納得させることはできない。」と話す。
おわりに
物語は、シャイアンとモーガンは「トーゴーがなぜ空薬きょうを落とすミスをしたのかいぶかりながら去って行くシーンで終わる。
だが、私はシャイアンらがトーゴーに発射残渣(後述)の検査をしなかったのか疑問である。
発射残渣(射撃残渣:Gun Shot Residue) 銃器を発射した際に雷管や火薬の燃焼、金属の摩擦によって生じる微粒子である。発射した人の手や衣服などに付着するため、科学捜査において「誰が銃を発射したか」や「銃が発射されたかどうか」を特定する重要な法医学的証拠となる。
この作品は1971年のものであるから、その時代には発射残渣という概念や検査法がなかったのかもしれない。
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