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2020年代のアメリカが、未曾有の危機に陥る理由

 近年のアメリカではかつてないほどに政治危機が高まっている。2020年の大統領選挙で敗北したトランプは下野し、2024年の再戦を狙って活発な政治運動を繰り広げている。トランプは2021年の米議会襲撃事件で訴追されており、現在でも大統領選挙での敗北を認めていない。こうした異常な政治対立がアメリカでは続いており、2024年の大統領選挙は異常なものになるだろう。

 ベストセラーとなった「100年予測」の著者である、ジョージ・フリードマンの本に「アメリカ大分断」がある。フリードマンのは近年のアメリカの政治危機に関して興味深い考察を行っており、今回は彼の主張に則って2020年代の政治危機を考察したいと思う。

 

アメリカを左右する「80年周期」と「50年周期」


 フリードマン氏の主張の1つにサイクル論がある。アメリカの歴史は一定のサイクルに則って繁栄と危機を繰り返すというものである。アメリカの周期には「80年周期」と「50年周期」がある。前者は政治体制に関するもので、後者は経済体制に関するものだ。

 「80年周期」は比較的分かりやすい。アメリカの建国から南北戦争までが第1サイクル、南北戦争から第二次世界大戦までが第2サイクル、第二次世界大戦から現在までが第3サイクルだ。

 「50年周期」の方はより解説が必要だろう。19世紀後半の第3サイクルでは南北戦争のリコンストラクション時代に金本位制が導入され、古典的自由主義に基づいてアメリカは世界一の経済大国になった。しかし、1929年の世界恐慌でアメリカは危機に陥った。旧態依然とした考えを引きずっていたフーバーは解決に失敗した。

 1933年に大統領に就任したルーズベルトは公共事業や労働者保護を中心とした大きな政府的な政策で危機を脱却した。これは計画経済が流行する世界の潮流にも一致しており、アメリカは分厚い労働者階級が豊かな暮らしをする工業国となった。1950年代のアメリカは好景気に湧いており、「古き良きアメリカ」の虚像はこの時代を理想化している。

 このサイクルは人種暴動やベトナム戦争が発生した1960年代に危機が始まり、1970年代のスタグフレーションで頂点に達した。カーター大統領はフーバーと同じく無為無策だった。後任のレーガンは減税を中心とした新自由主義的政策を導入し、危機を脱却した。これ以降レーガン周期の元でアメリカはグローバリゼーションを進めている。

 ルーズベルト周期の元でアメリカを支えたのはGMのような企業だった。これらの重厚長大型の企業は伝統的な日本企業に体質が似ており、労働者に雇用と誇りを提供していた。レーガン周期の元ではこうした企業が衰退し、高学歴エリートを中心とするIT企業に取って代わられた。

 レーガン周期では新自由主義的政策が取られたため、経済は成長したが、格差も拡大した。富裕層はどんどん金持ちになったが、白人労働者階級は没落を続けた。両者の分断が進んだことでアメリカは50年ぶりの政治危機を迎えており、この傾向は2020年代後半に向けて更に激化するはずだ。

 2020年代は50年周期と80年周期の転換点が同時に来ることになる。したがってアメリカはかつてない社会危機に見舞われるだろう。トランプの当選は原因ではなく結果だ。閉塞感を強めた白人労働者階級は既存政治家のアウトサイダーに救いを求めており、トランプは丁度タイミング良く出現した人物に過ぎない。2024年のアメリカ大統領選挙は衰退するサイクルを代表する人物が勝利することになり、フーバーやカーターと同様に無為無策だろうとフリードマンは予測している。

新たな政治的対立軸の誕生

 フリードマンの予測はあくまで予測であり、確かな根拠に基づいたものではない。そもそも未来予測というのは本質的には不可能だ。震災にせよ、パンデミックにせよ、ウクライナ戦争にせよ、発生するまでは誰も信じなかっただろう。10年先の社会情勢を読むのは困難極まりなく、確かな根拠に基づいた未来予測は不可能だ。

 とはいえ彼のサイクル論は非常に興味深い。アメリカの政治はサイクルの転換点に到達している可能性が高いからだ。

 例えば政党制を見てみよう。現在とは逆に19世紀の共和党はリベラル政党であり、奴隷制に反対していた。対する民主党は南部が地盤であり、奴隷所有者に指示されていた。南北戦争に北軍が勝利すると勝利者の政党となった共和党は政権を独占し、民主党は万年野党だった。フーバーの失策でルーズベルトが勝利すると、今度は労働者階級がこぞって民主党を支持するようになった。南北戦争から第二次世界大戦までの80年サイクルは二大政党制があまり機能しなかった時代と言える。第二次世界大戦後に共和党は南部の保守層を取り込み、経済右派政党となった。19世紀と政治的左右が逆転してしまったのだ。

 2016年のトランプ旋風はアメリカの政治に新たな構図を産み始めた。アメリカ共和党は経済右派の政党から右派ポピュリスト政党へと変貌を始めており、伝統的な共和党エリートはトランプ派に対抗できないでいる。一方の民主党は労働者の政党からリベラルエリートのための政党へといつの間に変貌していた。

 19世紀的な対立軸が自由主義と保守主義、20世紀的な対立軸が経済右派と経済左派とすれば、21世紀的な対立軸がリベラルエリートと右派ポピュリストになる可能性は高い。これはアメリカだけの傾向ではなく、世界的な傾向だ。

 東欧では1990年代に社会民主主義政党が死滅し、西欧志向のリベラルエリート政党と右派ポピュリスト政党の二大政党制の国が増えた。遥かに暴力的だが、イスラム世界にも似たような構図がある。西洋志向のエリートと反西洋のイスラム主義政党の間で対立が発生しているのだ。PFLPのような社会主義のテロ勢力は衰退し、アルカイダやISISのようなイスラム原理主義が反乱分子の受け皿へと変化した。アメリカも20世紀的な対立軸から21世紀的な対立軸に移行しているのではないだろうか。

 2020年代のアメリカの政治危機はレーガン周期の体制が限界を迎えたために発生している。新自由主義によって生まれたアメリカ国内の分断は危機をもたらしており、勉強漬けのエリートは労働者階級の声を無視してポリコレや気候変動に心を砕いている。彼らの専門高度化した統治体制は庶民には理解不能であり、庶民が社会に不満を抱いても「小難しい正論」で殴られて終わる。こうしたエリートの態度が労働者階級を陰謀論やデマへと飛びつかせる。

2024年の大統領選挙は大荒れになるだろう

 2020年の危機がどのようにして深刻化し、どのようにして決着するのかは全く予測不能だ。単なる社会不安で終わるのか、内乱が勃発するのかもわからない。右肩上がりのGDPとは裏腹にアメリカの殺人発生率は上昇しており、平均寿命は低下している。アメリカ大統領は本来は万人のためのリーダーだったはずが、トランプもバイデンも党派的な言動・行動が目立つ。2024年のアメリカ大統領選挙は裁判が焦点となる異例のものとなるだろう。

 現在トランプは共和党内での支持で独走しており、共和党の候補となる可能性が極めて高い。トランプが死亡するか他の人物が候補となったとしても、共和党が右派ポピュリスト政党と化しているので性質は大きく変わらないだろう。米議会襲撃事件で良識に則って行動したペンス元副大統領はトランプ支持者のニーズを汲むことができないので勝利する可能性はない。

 一方の民主党も万全な状態とは言えない。次期候補となることがほぼ確定しているバイデンは史上最高齢の大統領だ。次回の選挙で当選すれば86歳まで大統領職に就くことになる。健康不安が心配を心配するものは多い。それに加え、次男のハンター氏が汚職で刑事訴追されているという弱みもある。この問題が火を吹けば、バイデンがクリーンだという根拠が薄れることになる。目下の政治危機にも関わらず、民主党は気候変動といった「意識の高い」問題に興味津々だ。

 これに経済の問題が加わる可能性もある。リーマンショックの後遺症から脱却した2010年代後半にアメリカは好景気に湧いた。パンデミック時の過剰な緩和政策と労働力不足によってアメリカ国内のインフレは記録的水準になっており、近いうちに景気後退が発生する可能性も否定できない。

 一方でウクライナの問題は争点にならないだろう。アメリカ大統領選においては外交政策はほとんど決め手にならないことが指摘されている。アメリカの外交政策も時の政権とはあまり関係がない。アメリカはユーラシアのライバル国から離れた島国であり、国民は対して海外の事情に関心はないのだろう。

 トランプが返り咲いた場合、アメリカはかつてない危機にさらされる可能性が高い。トランプ一派は法と秩序を守る気が毛頭なく、「盗まれた選挙」なる神話を堂々と掲げている。このような過激な集団は当選後もナラティブから脱却できず、危険な方向に向かうことがある。例えば2020年の選挙でインチキを行ったとして民主党の関係者を本気で罰しようとするかもしれない。この可能性があるために無党派層と共和党支持者の一部はバイデンに投票する可能性が高く、トランプ再選の見込みは薄いと言われている。ただし、状況次第では万一ということもある。

21世紀中盤への展望

 トランプもバイデンも結局は後期高齢者だ。したがって2030年以降に始まる新たなサイクルの創始者にはなり得ないだろう。2028年か2032年の大統領選挙に勝利したものはアメリカの新たな時代を作り出すことになる。それがヘイリーかデサンティスかラワスワミかは分からないが、今世紀後半まで続くサイクルの象徴となるだろう。

 なお、フリードマンは2030年代から2080年代まで続くサイクルの終焉に関しても予測している。このサイクルを特徴づけるのは少子高齢化だ。アメリカ人の出生率は低下し続けており、移民送り出し国ですら少子化が始まっている。LGBTの権利向上など、既存の家族観が崩れていることも拍車を掛けている。

 今世紀中盤には技術革新の焦点は人工知能と医学になるだろう。人工知能で労働力を代替し、アルツハイマーを食い止めることで高齢者の生産性を上昇させるのだ。こうして少子高齢化の穴を埋めることになる。飛行機・核兵器・コンピューターなど20世紀は様々な革命的な発明品を生み出したが、21世紀にこの歩みが止まることはないだろう。

日本はどうなる?

 アメリカは世界の中心であり、世界の情勢はアメリカの50年サイクルと無関係ではいられない。ルーズベルト周期の世界はアメリカと同様にケインズ主義政策がトレンドとなっていた。政府による経済への関与が先進的とされ、1930年代にドイツやイタリアは計画経済を導入した。日本も部分的にこうした要素を取り入れていった。第二次世界大戦は国家総力戦であり、国家主導の経済運営が不可欠とされた。第二次世界大戦後も大戦の教訓からか大きな政府的な政策が行われることが多かった。ソ連は1930年代に飛躍的な成長を遂げ、第二次世界大戦では目覚ましい活躍を見せ、冷戦時代は世界の半分を支配した。まさにルーズベルト周期を特徴づけた国と言える。

 レーガン周期になると風向きは変わる。1980年代以降、計画経済は時代遅れとされ、多くの国が経済自由化に走った。「規制緩和」は経済成長と同義とされた。国際的にもソ連が失墜し、中国が高度経済成長を始めた時期である。アメリカが唯一の超大国となるとこの傾向は加速し、イデオロギー的な重みを持つようになった。レーガン周期の50年は西側の自由民主主義・経済右派政策が唯一の正解とされ、西側に反対する人間は悪人か天邪鬼とされた。アメリカの敵対勢力となったのは繁栄から取り残されたイスラム世界のテロ分子だ。彼らはイラン革命が発生した1979年に生まれ、40年にわたって大暴れしてきた。2020年代に入ると衰退し始めている。

 日本もこのトレンドに大きな影響を受けた。ルーズベルト周期の日本は激動の時代だ。1930年代の危機に日本は軍国主義的傾向を強め、全体主義の真似事で切り抜けようとした。悲惨な敗戦を経て日本は西側諸国の一因として再出発し、驚異的な成長を見せた。この時期に導入された労働法や終身雇用といった日本社会を特徴づける制度はルーズベルト周期の申し子だ。この周期にうまく乗れたお陰で1930年代の日本と1980年代の日本は全く違う国に生まれ変わっている。

 ところがレーガン周期の日本は目立った変化を見せなかった。確かに国営企業の民営化が行われるなどしたのだが、終身雇用や社会保障といった日本社会の根幹を支える価値観は変化しなかった。平成の30年間で日本はデフレに苦しみ、1980年代からほとんど社会が変化していない。レーガン周期のアメリカは成長と格差拡大が特徴だったが、日本はこの期間に停滞と安定を極めたのだ。その結果として日本の一人あたりGDPはG7最下位となり、治安は世界最高水準に達している。 

 2020年代の日本は30年ぶりのインフレが起きようとしている。平成不況をようやく脱しようとしているのかもしれない。レーガン周期を守備一辺倒で乗り切った日本だが、2030年代に向けて新たなトレンドが生まれる可能性がある。この国の高齢化は世界最悪の状態だ。団塊の世代は2030年代についに自立不能になり、多死社会がやってくるだろう。今まで通りの日本でいられないことは確実だ。日本再生の鍵は高齢者の活性化しかない。今世紀中盤のサイクルで日本は世界の潮流に再び乗ることになるかもしれない。


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