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東大理三からノーベル賞が出ない4つの理由について

 フォロワーの方からのリクエストがあったため、執筆する記事である。今年、日本からノーベル賞受賞者が2名でたが、どちらも京都大学の出身者であり、京大出身者が東大出身者を抜いたということが話題になった。

 しばしば話題になるテーマとして、なぜ東大、特に日本最高峰の頭脳を誇る東大理三からノーベル賞受賞者が出ないのか?という疑問がある。

 この手の疑問は大概が「受験勉強の能力と研究の能力は異なる」という一点で片付けられることが多いのだが、実際は東大・医学部・理三などそれぞれに阻害要因が存在しており、簡単ではない。

 筆者は東大理三の出身者ではないが、東大と医学部の両方を経験しており、東大理三の知人から話を聞いたこともあるため、比較的解像度が高い議論が可能かもしれない。今回は日本最高峰の頭脳である東大理三からなぜ一人もノーベル賞が出ないのか。そして、ノーベル賞を出す学校の特性とは何かという点について考えてみたい。

1.医学部は職業訓練校であるから

 筆者が真っ先に指摘したい項目である。医学部に進学した者が口々に言っているのが「医学部は職業訓練校である」という点であり、通常の学部とは性質が根本的に異なると考えて良い。通常の学部は幅広い教養を学んだり、学問を突き詰めるという要素が強いのだが、医歯薬系の学部は実務家の要請を一番の目的としており、アカデミアというよりは会社の研修や司法修習のほうが性質が近いだろう。

 医学部のカリキュラムや実態を見ても、学問として医学あるいは生物学を極めるという要素は二の次であり、まずは周囲を協力して進級や国家試験を要領よく乗り切っていこうという雰囲気が強い。学生のタイプも学者タイプというよりは体育会系のほうが多いだろう。共通テストで高得点が求められるという入試スタイルからも学術性よりは学校のカリキュラムを真面目に消化する能力が問われていると思う。

 東大医学部は特殊なのではないかという見方もあるが、筆者の印象では東大医学部といえども他の医学部と根本的に違うわけではない。やはり原理原則は医師という職業人を育成する学部である。医学部のカリキュラムはどの大学もそこまで変わらないし、国家試験も共通である。上位の医学部ほど進級が容易なのは、裏を返せばどの大学もやっているカリキュラムは大して変わらないということなのだ。

 したがって、東大医学部の出身者の多くは医学部の社会的使命に従って、医師として働いているというのが一番の理由である。ノーベル賞クラスの研究は出ていないとしても、通常の医学部がやっているような臨床研究の質は高いはずだ。ただ、そこから踏み込んだ基礎研究となると医師のキャリアに影響が出るし、そこまでする気になれないのだろう。

 ノーベル賞を取った山中伸弥は医学部卒の医師だが、どちらかというと医師として壁に突き当たり、アカデミアに転身したという経歴であり、特殊例と考えたほうが良い。

2.学者肌の天才は理一に行くから

 これまた筆者が感じている点である。確かに東大理三に入る人間は先天的に与えられた天才的な頭の良さが必要だと思う。東大生から見ても異次元なほどに東大理三の難易度は高い。開成高校400人で十傑に入らないと厳しいと言えばその難易度が分かるだろうか。

 ただ、一方で東大理三合格クラスであっても東大理一やその他の科類に進学するものも意外に多い。体感で半々くらいだろうか。最近は理一のブームによってもっと増えているかもしれない。東大理三合格クラスであっても医学部に興味がないという理由で理工系学部に進む者は多いのである。

 したがって、東大理三に進学する者は同世代の頭脳トップ100というわけではなく、学力上位層の中でも医学部に親和性の高い者が進学している印象だ。実際、東大医学部に進んだものは学者肌の天才というよりは出来杉君のような文武両道で努力を怠らないタイプが多く、変わっている人はあまりいなかった。

 研究者になるには凡人には不可能で、才能だけではなく、リスクを取ってでもアカデミアと心中する気概が必要である。そのような人物は理三合格圏であっても理工系に進学している可能性が高い。偏差値や将来の安定で医学部を選択するタイプはどちらかというと就職志向の人物であり、学者肌とは異なるのではないか。裏を返せば医学部に流出している理系上位層を理工系に誘導したとしても、コンサルや金融に行ってしまう可能性は否定できない。

3.医学研究の才能は受験とは異なるから

 これは常に言われている点である。医学研究の能力は大学受験で問われるような能力とは異なっており、東大理三だからといって優位性を必ずしも発揮できるとは限らない。というか、医学部は他の学部と比べてもここの乖離が大きく、天才がダイレクトに能力を発揮できる場ではない。

 医学部受験の奇妙な点として、入試に必要な才能とその後に勉強する項目がかなり乖離しているという点が挙げられる。理工系であれば数学や理科が好きな者がそのまま入学後も数学や理科を勉強していけばよいが、医学部の場合は理数系とはかなり異なる科目を勉強することになる。

 医学部受験に求められる能力は共通テストのような学校の勉強の範囲をもれなく勉強してくる優等生である。そういう意味では地方国立医学部くらいの学力水準は必要なのだろう。ただ、それ以上の特殊な才能は特に求められていない。ある意味では上位医学部の入試は自己目的化してしまっていて、多すぎる受験生を選別する道具でしかないのかもしれない。

 東大入試の才能がある種の頭の良さとリンクしていることは間違いない。ただ、東大入試を全科目高い位置で揃える才能は、どちらかというと官僚のようなジェネラリスト向きである。実社会を見ても、理系研究者のような専門家よりも大組織の幹部のようなジェネラリストで東大卒の優位性は発揮されやすい。

 東大医学部にはしばしば司法試験に合格したり、マッキンゼーに就職したり、起業して成功したりする者がいる。こういった医者の枠にとらわれない多才な人材は東大医学部特有だろう。しかし、医学研究においてはジェネラリスト的な高学力の優位性がそこまで存在しないとも言える。基礎医学系の科目を考えても、天才的なひらめきや処理力というよりは長年の研究の積み重ねのほうが必要な分野だと思う。

4.東京大学が東京の大学だから

 あまりない視点かもしれないが、東大が東京にあるという事実が大きく影響しているのではないかと思っている。

 ノーベル賞受賞者を見ていると、京大やその他の地方大学の多さが目立つ。東大は確かに多いのだが、早慶は一人もいない。学力的な厚さを考えると、早慶理工に一人も受賞者がいないのは奇妙にも思える。また、出身高校を見ていると、地方公立高校が非常に多いことに気づく。東大合格者ランキングの上位に張り付いているような開成や麻布と言った進学校は目にしない。

 こうした事情を考えると、どうにもノーベル賞は東大というより、東京と相性が悪いのではないかと思う。政治家や大企業の社長などを見ていると、東大や早慶は非常に多い。総理大臣や芥川賞受賞者といった文系分野の成功者は東大・慶応・早稲田の三大学が目立つ。首都圏は文系、地方は理系というレッテル貼りはある程度実態に即しているのではないか。文系分野でノーベル賞を獲得した川端康成・大江健三郎・佐藤栄作は全員東大卒であり、割合は100%である。

 その理由を考えてみると、東京には高学歴にとって魅力的な中央省庁・金融・コンサル・マスコミなどが集積しており、これらの社会的威信は高い。収入面では理系の基礎研究よりも遥かに高く、安定しているだろう。最近は理系の花形進路がコンサルや金融専門職になっているという矛盾した状態にもなっている。

 文系分野において地方はものすごく不利である。首都圏に集まる多様な人材と接触する機会がなく、単調になりがちだ。東大医学部もこうした気風と無縁ではなく、基礎研究というよりは学会のまとめ役のようなある種の文系総合職的分野で強みがあるようである。しかし、地方の環境は理系の勉強を黙々とするにはむしろ有利なのかもしれない。

まとめ

 今回は東大理三からノーベル賞が出ない理由について考えてみた。一番妥当な回答は医学部が職業訓練校であり、アカデミアとあまり関係ない機関だからという点だろう。確かに臨床研究は医学部で盛んだが、これらの研究はアカデミアよりも実務的な分野であり、ノーベル賞とはちょっと異なってくる。基礎研究は理学部や農学部といった他学部の出身者による研究が盛んであるが、彼らの経済的地位は不安定であり、もともと医学やアカデミアにそこまで関心が強くなかった東大医学部の出身者が医師としてのキャリアを置いてまで飛び込んでいくかはわからない。

 だが、筆者としてはもう一つの要因も挙げたい。それは首都圏の環境が元来文系寄りであり、理系研究に集中できる状態ではないという点である。官僚や大企業の幹部になって社会を動かすという選択肢や、コンサルや金融などで高い給料をもらうという選択肢もある。出版やメディアといった分野も首都圏に集中している。そうなると、首都圏の花形キャリアはどうしても文系色が強くなる。早慶などの首都圏の有名大学はほとんどノーベル賞受賞者を出していないし、むしろ東大は特異点的に多数のノーベル賞受賞者を輩出していると言えるだろう。

 首都圏の文系志向を象徴しているのが東大医学部なのかもしれない。東大医学部で最もノーベル賞に近づいた人間は安部公房である。安部公房は理数系の天才として東大医学部に入学したが、全く医学に興味がなく、医師にならなかった人物である。

 他にも東大理三出身者は和田秀樹など文筆家・文化人が目立つが、これも他の医学部と比べると多いと言える。しばしば「東大理三に行っても所詮はクイズ王」なんて叩かれることがあるが、逆に地方医学部でクイズ王になれる人材は殆どいないと思う。

 専門分野とは関係ないところで尖った才能を発揮する辺りは東大らしいのかもしれない。医師「以外」の分野で活躍している人材を輩出しているという点では東大理三はダントツ一位である。


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