米国の本当の人種構成は白人・黒人・アジア人ではなく移民・奴隷・先住民である
近年、アメリカではポリコレ旋風が高まっている。人種問題に関して少しでも批判的に触れようなら猛烈なバッシングにさらされ、社会的立場を失う危険がある。2020年のジョージ・フロイド氏の死亡事件は全米を巻き込む大問題に発展した。
このような深刻な議論が巻き起こる背景にはアメリカの長年に渡る人種問題がある。アメリカの人種差別の根は深く、1960年代の公民権運動までは黒人は学校に入学できなかったり、選挙権がなかったりという目を覆うばかりの人種差別がまかり通っていた。1860年代の南北戦争の原因も黒人奴隷を巡る問題だった。人種問題はアメリカを古来から悩ませる潰瘍なのである。
さて、アメリカの人種は伝統的に白人・黒人・ヒスパニック・アジア系の4種類と認識されている。アメリカの人種構成においては白人はマジョリティであり、それ以外の3つはマイノリティだ。白人が強い立場にあり、残りの3つは弱者として保護されるべき立場というのがリベラルの主張である。
しかしアジア系は少なくとも経済面では到底弱者には思えない。アジア系の人々は全人種中平均所得がトップである。高等教育を受けた者の比重もダントツで高い。特に頂点に君臨するのがインド系で、近年ではグーグルの社長にインド系のピチャイ氏が就任するなど躍進が目覚ましい。
ヒスパニックは白人に分類されることも多い。中南米出身の人々は褐色の肌をしているものが多いが、アルゼンチンのように白い肌の国も多く一概には言えない。白人・黒人は見かけから付けられる呼称なのに対し、ヒスパニックは出身地から付けられる呼称なので齟齬が発生する。
さて、ヒスパニックは平均所得は白人よりも低い。これは貧しい国から大挙して押し寄せる移民の特徴だ。19世紀にはアイルランド移民が、20世紀前半にはイタリア移民がこのような立場にあった。彼らは移民1世の苦労をはねのけ社会的上昇に成功し、アメリカ社会の一員となった。
ヒスパニックが同様の運命を辿らないと考える理由はない。中南米系の移民は急速に増加しているし、カリフォルニアやテキサスではすでに白人よりも数が多くなっている。しかし現時点でカリフォルニアやテキサスで深刻な人種問題が発生しているという話は聞こえてこない。要するにヒスパニックはイタリアやアイルランドからの新移民と同様、徐々にアメリカ社会に統合されていっているのだ。最近ではヒスパニックの間で黒人差別感情が広まっていることが問題になっている。彼らは悪い面でもアメリカ社会に染まっているようだ。
現在でもアメリカを騒がす人種問題は大抵が黒人の問題だ。新しい移民はアメリカ社会の最底辺から徐々に上昇していった。リンカーンの時代から現在まで、黒人だけがアメリカ社会で不遇の存在となっているのである。麻薬戦争のイメージとは裏腹に、ヒスパニックの収監率はアメリカ人の平均より若干高い程度である。一方で黒人の収監率はアメリカ人の平均の3倍だ。同じ社会的弱者でもヒスパニックと黒人の間には大きな断絶が存在する。
意外と知られていないが、アフリカ系移民はアメリカ社会でそれほど不遇な立場に置かれていない。90年代辺りからアフリカ系の移民は増加しているが、これらの国から来た黒人の平均所得はアメリカ国民の平均所得とそう変わらない。犯罪率もアメリカ人の平均より低いというデータがある。アフリカ出身の移民は他の人種の移民と対して変わらない運命を辿っているのである。そのためアフリカ移民は隠れたモデルマイノリティと言われている。
となれば黒人だけが200年経ってもアメリカ社会で不遇な立場にある理由は一つしか考えられない。それは彼らが移民ではなく奴隷の子孫だったからだ。彼らはアメリカ社会の移民統合のプロセスから除外された存在なのである。新移民は常にアメリカ社会の下から二番目に組み込まれ、黒人はいつまでも最下層という状態が続いてきた。
状況を理解する助けになるのは、移民ではないもう一つの集団・先住民である。先住民もまた長い間アメリカ社会で暮らしているのに依然として最底辺の暮らしを余儀なくされている。先住民は肌の色が黒人に比べて薄いのに、である。これはアメリカに限ったことではない。カナダやオーストラリアといった国でも先住民の社会統合は困難を極めている。先住民は一般の国民より何倍も犯罪を犯したり、アルコール中毒になる割合が高く、社会の最底辺で悲惨な暮らしを送ってしまう。例えばオーストラリアのアボリジニは人口の2%だが、刑務所人口の3割がアボリジニで占められているのだ。彼らもまた、移民国家の社会統合からは外れた存在だ。先住民はなかなか先進国の社会に馴染めないのである。
こうした事態から読み取れることはなんだろうか。恐らくアメリカの深刻な人種問題は肌の色から来る「見た目問題」ではないということだ。同じ黒人でもアフリカ移民は順調に社会に統合されているし、肌の色が薄くても先住民は不遇な暮らしを余儀なくされている。誰が決めたというわけでもなく、肌の色よりも移民・奴隷・先住民の区別が彼らの運命を決定しているようだ。中南米ではアメリカほど厳格な人種差別はないが、それでも富裕層ほど肌が白い人が多く、貧困層ほど肌の色が濃い人が多い。もちろん前者はヨーロッパからの征服者の子孫であり、後者は奴隷と先住民の子孫である。
オバマ大統領はケニア移民と白人の混血であり、ハリス副大統領はジャマイカ移民とインド移民の混血だ。彼らの成功は人種差別との戦いの歴史よりも新移民の社会的上昇の物語に近いように思える。彼らはアンクルサムの小屋とは何も関係がない。彼らとジョージフロイド氏は見かけが似ているだけで異なる社会的集団である。
社会的地位は往々にして連鎖する。以前の奴隷と被征服者の子孫は未だにアメリカ社会の最底辺に沈んでしまっている。そこに肌の色によって容姿が大きく異なることは関係ない。アメリカの人種問題は見た目よりも深刻な社会的分断から発生しているのである。そこにはヨーロッパからの侵略者が先住民を抹殺し、アフリカから奴隷を連行して重労働をさせた500年に渡る恐ろしい歴史がある。アメリカは現在でもその後遺症に苦しんでいるのである。
