見出し画像

記憶のしまい方

忘れることは、悪ではない
記憶を手放すことは、裏切りではない

すべてを抱えて生きるには
人の心は、少し繊細すぎる

彼女は、思い出を丁寧にしまう
写真の中の笑顔に、そっと触れて
「ありがとう」と言ってから、引き出しを閉じる

彼は、言葉にしないまま
記憶を胸の奥に沈める
誰にも見せず、ただ静かに抱えている

子どもは、記憶を選ばない
楽しかったことも、悲しかったことも
すべてをそのまま、心に刻む
そして、ある日突然
何かを忘れてしまう
それは、成長の証でもある

年老いた人は、記憶を抱きしめる
名前を忘れても、声の響きは覚えている
日付を忘れても、手のぬくもりは残っている
忘れていくことに、少しずつ慣れていく
それでも、忘れたくないものがある

忘却とは、
心の奥にそっとしまうこと
もう取り出さないと決めること

それは、
思い出に蓋をすることではなく
思い出に、静かに別れを告げること

彼女は、涙を流すことで
少しずつ記憶を洗い流す
彼は、涙を見せないことで
少しずつ記憶を沈めていく

子どもは、忘れることで前に進む
年老いた人は、忘れながらも戻っていく
どちらも、記憶とともに生きている

忘れたくない記憶もある
忘れてはいけない記憶もある
でも、
忘れたほうが、前を向ける記憶もある

誰かの言葉が痛すぎたとき
誰かの不在が重すぎたとき
その記憶が、
今の自分を苦しめるなら

忘却するも、良し

それは、
自分を守るための選択
それは、
生きるための知恵

彼女は、春の風に乗せて
少しずつ記憶を遠ざける
彼は、夜の静けさの中で
少しずつ記憶を手放していく

子どもは、空を見上げて
昨日の涙を忘れて笑う
年老いた人は、空を見上げて
遠い日の声を思い出す

忘れたからといって
その時間が無意味になるわけじゃない
忘れたからこそ
今を生きられることもある

そして、
思い出す日が来たなら
その記憶が、
少しだけやさしくなっていることを願う

忘れても、いい
忘れなくても、いい
どちらも、
生きるための正解だから

 

いいなと思ったら応援しよう!

音琴 ~go_chara~ 応援ありがとうございます✨頂いたチップは詩/物語創作へのカロリー(おやつ代と珈琲、環境整備)に変換しています🍰☕️よろしくお願いします🙇

この記事が参加している募集