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【連載小説】たゆたう肖像  〜第16話 劣等感が騒ぎ出す〜

前回までの話

やりきれない気持ちのまま
残業していた真由美は
机にうつ伏せてそのまま眠ってしまう。
そんな真由美を、チーフがずっと
待っていてくれた。
数日後、修正したキャッチコピーに
クライアントからのGOサインが出たものの、
自分で何を書いたか覚えていない真由美は
喜びの中でも首を傾げた。


第16話   劣等感が騒ぎ出す


それからは更に慌しい毎日に翻弄される。

晋吾から他にも数件の担当を振られ、

グローバルウェアの最後の詰めと

新しいクライアントとの打ち合わせで、

『忙しい』

という文字通り、心を亡くす日々が続く。

今や3人になったデザインチームは、

晋吾を筆頭に矢野っち、あたし、

それぞれが日々ゆとりのない時間に追われ、

限界も見えてきた。

ムードメーカーの矢野っちですら

オフィスで上げる笑い声も消え、

右肩上がりの売上とは反比例した

殺伐とした空気がオフィスに充満した。

あたしも晋吾と仕事上の会話はしても、

プライベートな会話も無くなって、

会う機会も減っていった。

それでも晋吾とは繋がっていると言い聞かせ、

すれ違いを感じながらも仕事に打ち込んだ。



そんな中、あたしにとって更に厄介な事が起こる。

明らかにキャパオーバーな

オフィスの雰囲気を見て

流石に危うさを感じた社長が、

32歳の女性デザイナー、小林千佳をスカウトする。

千佳さんはすぐに晋吾のアシスタントとして

業務に打ち込み、あたしから仕事上の会話も奪っていく。

1日の大半を千佳さんと片寄せて過ごす晋吾。

隣り合わせの席、外出も一緒。

千佳さんが来てからずっと、

晋吾の頬が緩んでいる。

千佳さんは15年もの間

ロサンゼルスで暮らし、

カレッジ卒業後は

メディア関係のWEBデザインをしていた。

3年前に帰国し、

大手広告代理店に勤めていたが、

川村社長の呼びかけに応じてやってきた。

晋吾から参考資料として受け取った

英語資料だって難なく処理。

1言えば2理解する。

1言って0.2のあたしとは違う。

しかも千佳さんは、

同姓でも振り返るほどの美人だ。

外国生活が長いからなのか、

深くスリットの入ったスカートも

恥じらう事なく穿きこなす。

滲み出る大人の色気とプロポーション、

仕事も完璧にこなす千佳さんに、

あたしは嫉妬を覚えずにはいられなかった。

そんな気持ちで余計に肩に力が入り、

ついにはクライアントとも摩擦を生み出した。

入社したばかりで

会社の事が分からない千佳さんにも、

優しくできていない。

そんな日々は無常にも続き、

気づけば梅雨は明け、

灼熱の太陽が降り注ぐ夏が始まった。

猛暑が続いたある金曜日、

晋吾が1人残業している時に、

あたしはわざと遅くまで居残って

2人の時間を作った。

「お前さ、最近壁にぶち当たってるだろ。」

なかなか口を開かないあたしに代わって

晋吾が切り出した。

晋吾はあたしの残業の理由を理解している。

「ゴメンなさい、また足引っ張って・・・」

泣きそうな声で答えると、

「そんな時だってあるよ、誰にだって。

でもさ、これはお前自身の試練なんだ。

俺はお前が壁を越えるのを見守る事しか出来ない。」

その言葉に、

あたしは堪えていたものを頬に伝わせた。

「ねぇ晋吾、あたしの事好き?」

と、下を向き、鼻を啜りながら訊いた。

目なんか見れないよ。

どんな視線をあたしに送ってるのか、

見るの怖いよ。

晋吾は暫く黙った後、大きくため息をいた。

「泣くなよ・・・

そういう質問は男が1番嫌がるんだぞ。」

と前置きした後、PCの電源を落とした。

「今日は終わりにして久々にお前んち行こう。

それが答えじゃダメか?」

その言葉は

不安に震えていたあたしを包み込んだ。

あたしと一緒に朝を迎えてくれるんだ。

言葉には出さなくても、

あたしに気を留めて、想ってくれてるんだ。

そう思った。

いや、

そう言い聞かせた。



しかしその夜、

肌の表面に微かに触れる

晋吾の指先のような

曖昧な愛の感覚に、

その愛を無理してでも感じようと

身体をよじるあたしに、

猛烈な嫌悪感を覚えた。



週が明けた。

晋吾と肌を触れ合わせても、

甘く愛に包まれたオフィスに変わっている

なんて奇跡は起こらなかった。

「コレ出したのか?」

「はい。先方も気に入ってくれたんですが・・・」

晋吾の声色から、

満足いく答えが返ってこない事は

瞬時に理解できた。

「何か違うんだよな。ここはこう修正した方がいい。」

晋吾はそう言うと、

机に広げられたあたしの企画書に、

無神経にもペンの殴り書きを上乗せしていく。

あたしはそれを

下唇を噛んで見つめるしか出来なかった。

グローバルウェアでの成功に自信を持ち、

ここ数日でそれが揺らぎ、

今打ち砕かれた。

自信は否応なく上から塗り潰され、

復活した劣等感が

水を得た魚のように胸で踊り始めた。

失意のままデスクに戻ったあたしは、

上塗りされた企画書を右側に置いて

PCでデータの修正を始めた。

悔しい。

でも、

今のあたしは晋吾がいなきゃ何も出来ない。

ここは晋吾に従うべきなんだ、

あたしが悪い。

いつまでたっても一人前に仕事できない

あたしが全部悪いんだ。

顔を引き攣らせながら

データを直していくあたしの後ろで、

画用紙に鉛筆を立てていたチーフが

静かに目を閉じていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第17話「無くなって欲しくない物」に続く。


人物紹介:千佳さん  32歳
バリキャリの帰国子女。才色兼備とはまさにこの人の為の言葉。

千佳です❤️社長は可愛いし、ここでの仕事が楽しみです🥰


   第15話はこちら

「たゆたう肖像」をマガジンに纏めています!
前回までの話もぜひお読みください😆

柴犬ショートストーリーの纏めはこちらです!
こちらもぜひ読んでみてください😊

次回の
【連載小説】たゆたう肖像
は、番外編〜オフショット集〜をお送りします。

お盆休みの方も多いようなので、真由美たち
Office Orangeの仲間たちのオフショットを
気軽に楽しんでください😆


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