noteでTeX記法を用いて作表する方法(覚え書き)【その4】
(覚え書き【その3】から続く)
初めに
経緯と目標
このnote記事(覚え書き【その4】)では、新たな表の作成に取り組むという当初の予定を変更し、覚え書き【その3】の作表経験をふまえて考察を進めていくことにする。
【その3】の記事執筆から4ヶ月以上の時間がたってしまったので、状況が変化して時代遅れになってしまった箇所もあるかもしれないが、ひとまず当時の記録と記憶を頼りに執筆を進める。
3つの不具合
2025年10月、覚え書き【その3】の作表中に、noteのTeX記法に次の3つの不具合があることを相次いで発見した:
「\phantom」コマンドのバグ
「。 )」と「) 。」の配置方法の、記事執筆機種間における不統一
エディタ画面で多数の全角スペースの連続を入力すると、途中で折り返されずに表示される不具合
<1> 「\phantom」コマンドのバグ
覚え書き【その3】を作表する際、表中に二分アキや長いアキを挿入する目的でKaTeXの「\phantom」コマンドを使ったのだが、筆者が『ここに「\phantom」コマンドが使えそうだ』と最初に思いついた2025年10月の時点では、noteのTeX記法の「\phantom」コマンドには下記のようなバグがあった。
なお、noteのTeX記法の「\hphantom」コマンドと「\vphantom」コマンドにも同様のバグがあったので、まとめて記す。
この3つのコマンドの機能は次のとおり:
\phantom: 引数({ } 内の文字列)と同じ幅で同じ高さの空白を表示する
\hphantom: 引数と同じ幅で高さがゼロの空白を表示する(horizontal phantomの意味)
\vphantom: 引数と同じ高さで幅がゼロの空白を表示する(vertical phantomの意味)
したがって、TeX記法のコードで
$$
あいうえお【\phantom{abcde12345かきくけこ}】さしすせそ\\
あいうえお【\hphantom{abcde12345かきくけこ}】さしすせそ\\
あいうえお【\vphantom{abcde12345かきくけこ}】さしすせそ\\
$$
_
ディスプレイ数式モードの終了を表す「$$」の次の行に
本来無用のアンダースコア(_)を入れてある)
と書くと、バグがなければ
$$
あいうえお【\phantom{abcde12345かきくけこ}】さしすせそ\\
あいうえお【\hphantom{abcde12345かきくけこ}】さしすせそ\\
あいうえお【\vphantom{abcde12345かきくけこ}】さしすせそ\\
$$
と表示されるはずだが、2025年10月の時点ではバグがあり
$$
あいうえお【abcde12345かきくけこ】さしすせそ\\
あいうえお【abcde12345かきくけこ】さしすせそ\\
あいうえお【】さしすせそ\kern{-6em}abcde12345かきくけこ\\
$$
と表示された。この3行目は
$$
あいうえお【】さしすせそ\\
$$
の「終わりすみ付き括弧」+「さしすせそ」の上に
$$
abcde12345かきくけこ\\
$$
が重なっている状態である。3つのコマンドに共通しているバグは、「abcde12345かきくけこ」を透明化すべき部分で正しく透明化していないというものである。
このバグの存在についてnote運営事務局あてに「フィードバック」を送信したところ、翌日に
・3つのコマンドが機能していないという状況がそれぞれ確認できる画面のスクリーンショット
・問題が発生している記事の下書き共有用リンクのURL
を提供してほしいという返信がnote運営事務局から来た。そこで、スクリーンショットとURLを提供したところ、その3日後に
本事象につきまして、弊社環境下でも同様の不具合を確認したため、修正対応を行いました。
という返信が来た。バグが正しく修正されているかどうかをすぐに確認したところ、バグは正しく修正されていた。
このバグ修正対応の経緯を材料に、noteユーザー(クリエイター)からの需要とnoteの設計についての考察をする。
【noteユーザーからの需要についての考察】
noteのTeX記法が、一部のクリエイターのみを対象にした試験公開から、全クリエイターを対象にした正式公開に移行した時期は2021年12月である(note公式「算数の説明から論文執筆まで!記事内で「数式」が使えるようになりました」2021年12月7日)。一方、筆者が「\phantom」コマンドのバグを発見したのは2025年10月である。
したがって、noteのTeX記法で「\phantom」コマンドを使おうと考えたクリエイターは丸4年弱にわたって存在しなかったということになる。あるいは、「\phantom」コマンドのバグを発見したクリエイターは存在したかもしれないが、note運営事務局あてにフィードバックを送信するほどの必要に迫られたクリエイターは存在しなかったということになる。
「\phantom」コマンドは文字の厳密な位置揃えに使うコマンドである。noteにアクティブクリエイターが何人いるのかは知らないが、note記事が毎日これほど多く生み出されているのに「\phantom」コマンドのバグが何年も放置されていたということは、noteのTeX記法で欧文文字の厳密な位置揃えをしたり、表中に二分アキや長いアキを挿入したりするような機能には、ほとんど需要がないと言って差し支えないだろう。
【noteの設計についての考察】
「\phantom」コマンドのバグは、その性質から考えておそらく、「最後に文字を透明化する工程で、透明化の指定をうっかり失念していた」という程度の軽微なバグだったのではなかろうか。実質3日間で修正対応完了の連絡が来たことからも、簡単に修正できるバグだったものと推測できる。
<2>「。 )」と「) 。」の配置方法の、記事執筆機種間における不統一
覚え書き【その3】の「TeX記法のコードと解説」の<2>に記したとおり、noteのTeX記法のarray環境内では、全角の句点と全角の「終わり丸括弧」の配置方法が、WindowsパソコンとAndroidスマホとで統一されていない。この不統一の具体的な内容については、上記リンク先の記事をじっくり読んでほしい。
これはぜひ統一を図ってほしいという要望をnote運営事務局あてに出したところ、2日後に次のような返信が来た。
ご指摘いただいた内容につきましては、ご要望として承り、今後のサービス改善の際の参考にさせていただきます。
この返信を材料に、noteユーザー(クリエイター)からの需要とnoteの設計についての考察をする。
【noteユーザーからの需要についての考察】
前述の「\phantom」コマンドでさえ需要は皆無だったのだから、さらに特殊なarray環境内という状況で、WindowsパソコンとAndroidスマホとの間で約物(句読点や括弧など)の配置方法を統一したいという需要は絶無に近いだろう。
【noteの設計についての考察】
noteのKaTeX記法の「\phantom」コマンドについては、noteが
利用できるTeX記法について
・https://katex.org/docs/supported.html
・https://katex.org/docs/support_table.html
上記URLにある記法を利用することができます。
ただし以下の制約があります。
・文字色を変更する一部の機能は利用できません。
・セキュリティの観点からHTML機能は無効化されているため使用することができません。
・一部のenvironment(equation/align/gather/alignat/CD)はインライン数式では利用することができません。
と高らかに宣言している以上、KaTeXコマンドに明らかなバグがあればnote運営事務局は速やかに修正に取り組むのがスジだろう。
これに対し、TeX記法のarray環境内における約物の配置方法をWindowsパソコンとAndroidスマホとの間で統一することについては、note運営事務局はそもそも何の宣言も保証もしていない。note運営事務局から来た返信の文面からも、この不統一はバグ扱いをされていないことがうかがえる。要するに、「この不統一は(少なくとも現時点では)仕様です」というわけだ。
また、詳細は省略するが、約物の配置方法を統一する作業は、「\phantom」コマンドのバグの修正に比べてはるかに困難な作業になるだろうと推測している。note運営事務局としては、noteのTeX記法の機能を限界ギリギリまで使い切ろうとする筆者のようなユーザーが現れることは想定外だったのではないだろうか。
<3> エディタ画面で多数の全角スペースの連続を入力すると、途中で折り返されずに表示される不具合
覚え書き【その3】の「TeX記法のコードと解説」の<3>に記したとおり、noteのエディタ画面でIMEをひらがな入力モードに変更してスペースキーを60回続けて押すと、60個の全角スペースが途中で折り返されずに表示される(マウスの左ボタンを押しながら60個の全角スペースをなぞると、途中で折り返されていないことがわかる)。これも上記リンク先の記事を読んでほしい。
この件についてはnote運営事務局にフィードバックをあえて送信しなかった。それは、次のようなことを推測し、フィードバックを送信しても骨折り損になる可能性が高いと判断したためだ。
noteのエディタ画面でユーザーが60個の全角仮名文字を連続して入力することは当初から想定されていた使い方であり、文字列の途中折り返し機能は当然実装されている。
例:あいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやヤイゆヤエよわゐワウゑをアイウエオカキクケコ
noteのエディタ画面でユーザーが60個の全角スペースを連続して入力することはおそらく想定外の使い方であり、文字列の途中折り返し機能は実装されていない。推測に推測を重ねるようだが、全角スペース文字列の途中折り返し機能は、noteのエディタ画面の微修正程度ではおそらく実装できず、実装するためにはnoteのエディタ画面の設計を根本からやり直す必要がありそうだ。
終わりに
noteでTeX記法を用いて作表する方法(覚え書き)【その1】から【その4】までの4個の記事を通じて、noteのTeX記法で大きな表を作る際の具体的な方法と限界をある程度示すことができた。自分が作表のために集めた情報を整理しておき、将来のnote記事執筆の役に立てようという利己的な考えから執筆を始めた記事群だが、マガジンという形で整理して公開することで、結果的に読者の方々に参考にしていただければ嬉しいし、何なら生成AIによる学習の材料にしていただいても差し支えない。
覚え書き【その4】はここまでとし、「noteでTeX記法を用いて作表する方法(覚え書き)」シリーズを終えることにする。(終)
