まとめ☀【光明1~光明125】3行連続ドラマ/つぶやき物語※【先月のあらすじ
【光明126】~は、5/18(月)スタート(o^-^)b
※物語の最初からお読みの方は【先月のあらすじ】を、初めてお読みの方は【前書き】から、ご一読頂けると大変嬉しいです。
【先月のあらすじ:2026年4月】
患者である高校生を気遣う優しさは持ち合わせていない教授は、「剥離の原因がアトピー性皮膚炎の為、網膜は引っ付き辛い」と容赦の無い解説が静寂の中で響き、息子を授かったばかりの私は親の立場で怒りに震える。
それでも一人目が終わると教授は向かいのベッドへ移動し、残酷な仕打ちは繰り返され、この儀式は患者の為では無く医師達への講義に過ぎないと気付くと 更に怒りが増幅するが、その手を緩めない不埒な所業。
やがて残すは後2人となり、私の向かいのベッドで横になる高齢者の名を呼ぶも、居眠りをしていた為に返事は無いまま続行されるが、急に目を覚まして声を発した結果、回診終了後には看護婦から厳しく叱られる。
そして遂に教授が私の方へ来ると、『糖尿病の合併症で起こった網膜剥離』と秘密が明かされるも何とか終了し、皆は安堵から大きな溜め息を洩らしていたが突然、謎の激痛が我が下腹部へ襲い掛かった。
【光明126】へ続く。
~・~・~
【前書き】
この時に生まれた息子が、もう27歳になるのですから、かなり昔の話。
しかしその時の場面一つ一つが、まるで映画の1シーンの様に、鮮やかな形で脳裏に刻み込まれています。
そこで、その記憶を手繰り寄せながら、つぶやき140文字への嵌め込みを試みました。
この後から始まる暗闘の日々の先にどんな未来が訪れるのかを、綴って行きたいと考えています。
光明1【身重の妻と危険な夜間走行】
深夜に妻が産気付いたので、義母が駆け付け、その後2人を乗せた車を私は病院へと走らせた。
途中、歩道で人が倒れていた様だが、只の酔っ払いなのか私には判別が付かなかった。
なぜならその時、私の左目は殆ど見えず、右目もかなり危うい状態だったのだから。
光明2【人生最後の運転】
「安全運転で行くね」、そう言ったのは方便で、夜目が全く利かない状態の為、速度を上げる事は自殺行為。
病院の玄関で2人を降ろすと、私は油汗を拭って大きな溜め息を付く。
夕方、私は出産後の妻を病院に残し帰宅するが、その日を境に二度と車を運転する事は無かった。
光明3【ボール直撃が開演の合図】
子供が生まれる1年前、週末にテニススクールへ行った時の事。
レッスンでコーチの打ったボールが私の顔付近に飛んで来て、運悪く逆光の為に行方を見失い、左目を直撃。
その後、眼科に通うのだが、事態は想像以上に複雑で深刻な状況への幕開けとなって行った。
光明4【揺らぐ心に懐妊の報せ】
事故後に数回、町の眼科に通うと、詳しい検査が必要だからと紹介状を渡された。
しかし私には思い当たるフシが有り、嫌な予感に苛まれ、大病院での受診を躊躇する。
さて妻にどう話をしたものかと悩んでいると、それからほどなくして妻から懐妊した事を告げられた。
光明5【異常を知らされぬ妻】
妻が身籠った事を知ったのは、転職して半年経過した頃で、まだ仕事は忙しくは無かった。
だがこの辺りから業務が急増し、帰宅時間が次第に遅くなり、悪阻の酷い妻と話す機会が無くなる始末。
結果的に、目の異常は妻へも職場へも伝えないまま、仕事に没入して行った。
光明6【後戻り出来ずの疾走】
左目は見えないものの右目は問題無かった為、朝は一番乗りで出勤し、深夜に退社する生活が始まる。
残業は百時間に及ぶも、思えば仕事が楽しくて仕方無い『ワーカホリック』状態だったのだろう。
その反動で妻の体調を気遣う事を放棄し、失明への道を突き進んで行く。
光明7【異変からの現実逃避】
平日は始業前に出社し、他の社員が出勤する頃に法務局へ向かい不動産の調査。
続いて単車を飛ばして新築の家へ到着すると測量し、数件こなして夕方に帰社後、申請書作成。
帰宅は深夜になる為、平日は妻と顔を合わせない状況だが、意識的に避けていたのかもしれない。
光明8【我に酔い痴れる鬼畜の所業】
では週末はどうしていたかと言うと、土曜日は休日出勤し、生まれて来る子供の為と、残業手当を荒稼ぎ。
また日曜日は昼前まで熟睡し、午後からは既に申し込んでいた資格学校へ通う。
父親になる重責を耐え忍ぶ自分に酔い痴れ、良き夫の姿を置き去りにしていた。
光明9【摂食環境は悪化の一途】
当時、朝出ると夕方まで事務所へ一切戻らず、単車で移動しながらの食事は不健康極まり無い。
夜の分は帰りに入手し、夕食も間食も区別無
く、仕事をしながら食べ続ける。
その悪循環は内科的な疾患ばかりか、視力悪化に多大なる影響を及ぼす結果へと導かれて行った。
光明10【息子誕生前日の情景】
出産予定日から10日過ぎた頃、仕事の忙しさは一段落し、久々に妻との時間を過ごす。
陣痛を促す為にと近くの河原へ散歩に行くが、お腹が大きな妻の歩みにも遅れる程、惨憺たる私の体調。
這う這うの体で散歩から戻った私は早めに就寝したが、夜中に妻が産気付く。
光明11【近いが故の珍事】
退院の際は義父が車で迎えに来て、妻は息子と共にそのまま里帰りとなるが、初孫との同居に義父母は大盛り上がり。
妻の実家は自宅から歩いて数分の至近距離に有り、新婚の頃は驚く事が度々起きたりした。
例えば私が仕事から帰宅すると、義父が我が家で入浴していたり。
光明12【右目よお前もか】
仕事帰りに妻の実家へ寄り、妻と子の顔を見てから帰宅の一週間が続いた日の夜半、TVを見ていた時だった。
急に画面が橙色に染まり、眼前に水泡が現れた瞬間、目の中が出血した事を悟る。
「遂にこの日が来たか」と、私はは観念して目を閉じ、避けられぬ現実に慄いた。
光明13【想像を凌駕する惨状】
翌日は有休を取り、以前に町医者から紹介されtた総合病院の眼科へ向かう。
人生初の瞳孔を開く点眼薬の投与から、眼底検査等の精密検査が進められた。
そして結果を見た医師からは、「何故こんな状態になるまで放置していたんですか!」と、厳しいお叱りを受ける。
光明14【根本的な治療は先ず内科】
医師から言い渡された病名は『糖尿病性網膜症』で、代表的な合併症の一つとの説明。
ボールの直撃は病状の悪化を速めたと思われるが、本質的な原因では無いとの事実を突き付けられる。
目の方は応急処置のみが施され、すぐさま内科へと送致される経過を辿った。
光明15【不吉な予感的中】
内科では血液検査の結果が、血糖値の正常範囲上限を、遥かに越える数値を叩き出した為、即入院を言い渡される。
先ず6週間の検査入院をして血糖値をかなり下げないと、目の手術する事が出来ないとの通告。
『思い当たるフシ』が現実となる運命を眼前に突き付けられた。
光明16【崩れ始める砂上の楼閣】
妻の実家へ向かい診察結果を伝えると、目の事は勿論だが、妻がより恐れたのはの内科の方。
実父が糖尿廟、祖母はその合併症から両足共に膝から下を切断した。
遺伝すると幼少から聞かされていたので、我が子へ忍び寄る黒い影に、妻の希望は奈落の底へ沈んで行く。
光明17【絡み付く魔物の触手】
妻に頼める筈も無い私は、一人寂しく鞄に衣類や線面具を詰め込んだ。
内科へ入院すると検査と並行して、糖尿廟についての基礎知識を叩き込まれる日々が始まる。
ここで初めて、この病を起因とする種々の合併症が持つ深刻さに触れ、虚け者の背筋にさえ戦慄が走った。
光明18【勘違いせし罠への誘導】
食事に加え指導されたのは運動療法で、お昼が済むと病院から少し離れた河原を只管歩いた。
以前の不摂生と真逆の生活に、血糖値は急降下、体重も激減し、目の調子さえ小康状態。
更に内科医からはお褒めの言葉までも頂き、気を良くした私は自身の苦境を見失った。
光明19【現状誤認に拍車】
夕食後の検査を済ませると、病院横の銭湯へ行き、その中のサウナ室へ籠るのが日課となる。
患者として優等生だった私は、消灯点呼の時間間際に滑り込んでも、多少のお目溢しが有ったかもしれない。
この優雅な暮らし振りが緊張感を削ぎ落とし、傍迷惑な事件が勃発する。
光明20【燥ぎ過ぎた祭りの後】
その日は同僚の女性4名が見舞いに来てくれるとの朗報に、私は朝から浮かれていた。
午後からの外出許可を取り、駅前のカラオケボックスで時を忘れて盛り上がり、病室へ戻るのが門限を少し過ぎる。
看護師は大騒ぎ、妻へも消息確認が入り、私は窮地へ追い込まれた。
光明21【お臍隠して尻は何処】
着信が有った妻へ連絡すると、「心配していたのよ」とご立腹だが、当然の如く実情を伝える訳には行かない。
隣の銭湯へ行って帰りが遅れただけと、この場を繕って一応は難を逃れた。
里帰り中だから、妻はそれ以上詰め寄って来なかったが、悪事はバレていたと思う。
光明22【不気味な誘い】
騒動はボヤ程度で済んだが、これ以上問題を起こせないので外出は控えた。
そんな折、病院を抜け出して飲酒する暴挙に出た患者が、私と同室になるとの噂が流れる。
翌日、件の彼が丸坊主にマスク姿で「喫茶店に行くけど、一緒にどう?」と、何故か私が招待を受ける羽目に。
光明23【矛盾する主張】
血液の癌であると語る彼は、薬の副作用で髪の毛が抜け落ちたらしい。
また白血球が激減する症状から、風邪に感染するとすぐ肺炎になる為、夏なのにマスク着用が必要と説明。
見舞客が部屋に来るのが許せんと彼は言うが、喫茶店の方がよっぽど危険だろうと私は首を傾げた。
光明24【結び付く奇縁】
気に入られたのか、朝食後に病院隣の店で珈琲をご馳走になるのが日課となった。
彼は企業を経営していて、「困った事が有れば連絡して」と、私へ名刺を渡す。
社交辞令に過ぎないと思っていたが、そこに記載された住所へ赴く機会が巡って来ると、当時は想像もしなかった。
光明25【翻弄されし命運】
内科での経過は順調で、血糖値は安定し体重も大幅減となり、見た目には健康体。
ただ一方、並行して行われた眼科の検査結果は芳しく無く、左目は絶望的だった。
なのに、酷い方から先に手術と、助かる可能性から手当てしない方針が採用され、その理由は後に明かされる
光明26【放置し報い】
眼科主治医に呼ばれ、手術に向けた説明が深刻な面持ちで始まる。
「あなたの場合、増殖網膜症と言い……剥離を起こしています」と、聞くに絶えない恐ろしい現状を通告。
そして今回は全身麻酔を使うと言われたが、その方法が引き起こす術後の苦しみを、天罰として甘受した。
光明27【一握の幸】
一旦は帰宅し、改めて入院と決まり、例の起業家と別れを告げる。
荷物を置くのもそこそこに、近所に有る妻の実家へ向かい、生後数ヶ月の息子と再会した。
父親が直面する過酷な窮状について、何も知らない赤ん坊の屈託無い笑顔を、右目だけでも拝めた私は果報者だったと思う。
光明28【恩を仇での所業】
妻の両親は私を責める言葉を発する事は一切せず、逆に実の子の様に気遣ってくれた。
『初孫の父である娘婿』だからだけでは無い、夫婦共に心優しい対応。
しかしこの20年後、その彼らの思いを踏みにじる行為が露見して、怒りと悲しみの深い沼に突き落としてしまう。
光明29【勝手極まれり】
1週間後に入院すると、眼科主治医が「家族へ説明をするので誰か来てもらって下さい」と指示。
この時に私が母親を選んだのは、乳飲み子を抱える状況を気遣った訳では無い。
結婚前から患っていた持病の経歴を、妻に知られたくない一心で、保身に努めた小狡い策だった。
光明30【不心得の果て】
長い手術なので直前まで母が、終わる頃に妻が付き添う形にした。
それは人生初の全身麻酔に、「もし意識が戻らなかったら」と怯える哀れな姿を、彼女に見られたくないとの見栄から。
だが恐怖と引き換えに得たのは、左目の視力では無く、1か月にも及ぶ地獄の日々である。
光明31【仕組まれた罠】
手術前夜に再度、精密検査をしたのは、万全を期する姿勢だと思い込まされた。
「明日は4時間の予定ですが、行程は全てビデオに録画します」と言われ、心ざわつく違和感。
希望が有れば見せる為と説明されたが、大学病院での研究用資料とされるに過ぎなかったと後に知る。
光明32【無自覚に起こす波紋】
検査の後、やはり心細くなり電話をしたが、その相手は弱音が吐ける母親で、情けない甘えん坊。
当時、映画で観た全身麻酔から意識が戻らない筋書きと、我が境遇を重ねたのだ。
たがこの連絡が、嫁姑問題に発展する事態に繋がるとは、未熟者の私には想像も付かない。
光明33【出来損ないの烙印】
手術前に担当医より全身麻酔の説明を受けるが、万が一の場合も有るからと、同意書に署名を強いられた。
開始に母は間に合わなかったが、父はと言えば見舞いさえ来ない。
仕方無い、病気知らずの彼にとって幼少から嫌っていた私は、難儀な厄介者と映っていたのだから。
光明34【突き刺さる楔】
手術が始まり少し経った頃、交代する為に妻は詰所へ駆け付けた。
私の母は目が合うとすぐ、「あの子は結婚したのだから、今後はあなたに任せます」と言い放ち、立ち去る。
「親として無責任、絶対に許せない」と憤慨し、この日を境に二人の拗れた関係は修復されず仕舞い。
光明35【脳裏に巣食う悪夢】
手術が終わるとベッドに乗せられ、廊下へ進むと妻が待っていた。
麻酔は切れて意識は戻っていた筈だが、殆ど記憶が残っていないのは、体に強い負担が掛かっていたのだろう。
「あの憔悴した表情が頭にこびり付いて、心の傷になってるのよ」、今でも彼女に責められる。
光明36【季節外れの暖】
病室で目が覚めると、寒くて仕方が無い状態で、ガタガタと体中の震えが止まらない。
全身麻酔で眠らされていた臓器は一斉に復活し始め、その反動が大きい為に、過剰反応する自律神経。
お盆前なので、当然の如く冷房が入る相部屋で、私は電気毛布に包まり、ただ丸くなっていた。
光明37【打たれし終止符】
寒さ以上に辛かったのが目の腫れで、涙が溢れると共に鼻水は栓が抜けた様に流れ続ける。
痛みを感じない状態を良い事に、4時間も弄り倒された眼球は、想像を遥かに超える損傷。
大学病院の資料にする為に撮影されながら、回復の可能性の低い左の視力は、奈落へと沈められた。
光明38【主客転倒されし希望】
手術後1週間が経過し、体調も少し落ち着いた頃、眼科診察室に呼ばれる。
主治医は静かな口調で、「出来る限りは尽くしましたが、残念ながら‥‥」との最終通告。
既に諦めていたので驚く結末でも無かったが、それよりも寒気とと目の痛みを何とかして欲しいと願っていた。
光明39【急を告げし風雲】
更に主治医から、「網膜は新生血管の収縮により引き剥がされ‥‥」との詳しい解説は、聞くのも悍ましい状況。
続いて「録画しているので、必要ならいつでもお見せします」と、正当性を示す言葉が空しく響く。
そして最後に発せられた台詞が、思い出すのも悍ましい釈明だった。
光明40【遂に表明されし本音】
「眼科医は一つの目を失明させる事は有っても、両方は出来ません」と話し始めたが、最初は全く意味が分からない。
大学病院で代わりに執刀する医師を募っても、誰一人手を挙げないと続く言い訳。
最後に「右は諦めて下さい」との通告で、治療方針の真なる狙いを理解した。
光明41【嵌められし罠】
今振り返ると、主治医は診察を重ねる内に、右目は救えないと判断したのだろう。
だから先に、助かる可能性の無い左の方から手術を行い、準備したのが最終通告の舞台。
だが当時の私は、そんな思惑に気付きもせず、眼球の痛みに耐えながら「そういうものか」と、諦め切っていた。
光明42【絶望が齎す罪】
今回思い出したが、この大切な告知へは家族を呼ぶ様にとは言われなかった。
乳飲み子を抱える妻は、頻繁に見舞いは来る事が出来なかったので、電話で伝える悲報。
聞かされた彼女は絶望の縁に追い詰められたと思うが、当然の報いと感じる私は、相手を慮る情緒は欠片も無かった。
光明43【彷徨いし行方】
先日の診察で「右目が見えなくなるまで半年程」と、余命宣告を受けていた。
併せて「視力障害者を訓練する施設が有るので、全盲になった時の準備をお勧めします」と、親切そうに聞こえる助言。
手術後1ヶ月で退院すると主治医の指示通り、私は暗黒の未来への支度を整え始めた。
光明44【意表突かれし提案】
まず市役所へ連絡し視力障害者の施設を調べる傍ら、例の名刺を取り出す。
病院で知り合った社長へ電話すると、「今からおいでよ」と誘われて、彼の会社へ一目散。
私の窮状を聞くと、「手伝って欲しい事が有るからバイトしない?」と言い、風貌に似合わない笑顔を浮かべた。
光明45【救出部隊の暗躍】
頼まれた業務はDMの発送で、案内文を三つ折りにして封入する作業を、翌日から開始する。
その当時、お金が欲しかった訳では無く、人と関わるのが楽しく、朝から張り切る7時間労働。
だが私の知らない所では、右目の失明阻止を願う作戦が、少しずつ動き始めていたのだった。
光明46【子を憂いし親心】
妻の乳母をしていた婦人が居て、義父から私の状況を聞かされると、娘の為に力になりたいと動き出す。
彼女は通っている自宅近くの眼科医へ事情を話し、「助けてあげて下さい」と必死に懇願。
その熱意の甲斐有って、「今夜、診察が終わる頃に連れて来なさい」とお許しが出た。
光明47【気乗りせぬまま】
バイトから帰宅すると、「近くの眼科で特別に診てくれるから行くよ」と、妻から一方的に急かされる。
「あの主治医は有名大学の先生だから、今更町医者に検査してもらってもなあ」と、心の中で呟く愚痴。
だがその婦人の顔を潰すのは申し訳無いと考え、表面上は恭順を装った。
光明48【施し無き惨状】
息子は義母に預け、日が暮れてから妻に付き添われながら出掛けた。
訪れた診療所は、同じ大学で出会った2人が、卒業後に結婚して地元に戻り開業。
まずは院長である妻が、続いて夫が私の目を検査すると、「これは酷い、どうしてここまで……」と、思わず本音を漏らしてしまう。
光明49【手渡されし襷】
「でもあの先生なら……」と院長は呟き、視線を送られた夫も頷く。
「少し待ってて」と私達を診察室の外へ促すと、彼女は机に向かい作成し始めたのは、大学病院への紹介状。
「事情は書いておいたから」と封筒を差し出して、「諦めては駄目よ」と、弱気な我が心の背中を押した。
光明50【辿り着きし扉】
翌週、紹介された先生の診察日に合わせて通院するが、乳飲み子を抱える妻からは「長時間の付き添いは無理」と断られる。
電車の乗り換えが2回、初めて降りる駅まで90分を要し、乏しい視力での一人旅は過酷。
そして眼前に聳える建物が、我が運命の困難な行く末を想起させた。
光明51【到達せり本丸】
神妙な面持ちで中へ入ると、初診受付を探してウロウロする。
何とか辿り着くと、先ず提示を要求されたのが担当医師への紹介状で、「これ無き者は町医者へ行け」と言わんばかりが大学病院の考え方。
その関門を突破しエスカレーターで2階へ上がると、眼科窓口が待ち構えていた。
光明52【手強き我が反射】
受付で保険証の確認を済ませて暫く待つと、名前が呼ばれて中へ入る。
視力や眼圧等、幾つか検査が行われ、最後は網膜を調べる為の下準備として、瞳孔を拡げる目薬。
通常15分毎に2回の処方で足りる筈が頑固な様で、追加の措置が施されると、程無くして診察室へと導かれた。
光明53【現れし尋ね人】
診察室に入ると中は暗闇で、看護師に誘導されて丸椅子に腰掛ける。
「はい、真っ直ぐ前を見て」と穏やかな響きの声が聞こえ、右へ下へ左へ上へと方向を指示しながら、浴びせる強い光。
次に機械を使って眼底を隈なく調べた後、部屋の電気が点灯され、先生の姿と初めて対峙した。
光明54【素っ気無き告知】
「右目は現在、かなり厳しい状況です」と、語調は柔らかでも説明する内容は優しくない。
続く台詞が「手術をしても必ず成功するとは限りません」と、絶対に医師は口にしない希望的観測。
その上、「しかしこのまま放置すれば、3ヶ月程で失明します」、さらりと言い渡された。
光明55【迫り来し分岐】
「どうされますか?」と、まるで「私はどちらでも構わないですよ」との雰囲気で尋ねられる。
へこたれず、「放っておいても見えなくなるのなら手術を受けます」と即答。
これで翌月の入院が確定した訳だが、ホッとするよりもその後に訪れる苦痛の予感が、怒涛の如く押し寄せた。
光明56【足掻きし一寸先】
手術が2週間後に決まったので、妻や両親へ、続いて休職中の事務所へも報告をする。
次に考えたのは今以上に見え方が酷くなり、自由を奪われると予想される入院生活。
行く末の不安に怯えるだけでは、余りにも悲し過ぎると悩んだ私は、ベッドの上で出来る娯楽を模索し始めた。
光明57【蘇りし親の呟き】
先ずレコード屋へ向かったが、この頃の私が好んだ音楽は切ない失恋の歌ばかりで、療養中には適さない。
何か陽気なジャンルをと考えて、やすきよの漫才を収録したカセットを1本購入したが、予想外に高価格。
これだけでは間が持たないと困っていた時、母の言葉を思い出した。
光明58【思い縋りし藁】
「図書館で目の悪い人に本を朗読してくれるらしい」と、時々利用していた母の言葉が頭に浮かぶ。
だがカセットに録音するとしても、すぐ対応してくれるのかなと、湧き上がる疑心暗鬼。
それでも費用は掛からなそうだし、ダメ元で訊いてみようと、一縷の望みを繋ぐべく向かった。
光明59【不意に漏れし嘆声】
図書館に着くと受付で、目が悪い旨を伝えて朗読の事を尋ねると、奥に有る部屋へ通される。
現れた担当者は母と変わらない年齢の女性で、まるで息子の様に優しく聞いてくれる我が身の上話。
すると次第に、妻へも言えない辛い心情が溢れ出し、予期せず大粒の涙が零れ落ちた。
光明60【危ぶまれし未来】
ようやく訪問の目的へと話が及ぶと、有名文学作品は既に録音されていると知る。
そこで数十本のカセットを借りる手筈が整い、帰ろうとした際に彼女が差し出す紙片。
「辛い時は掛けて来て」と自宅の番号を教えられたが、この気遣いが入院中に病んで行く私の心を守ってくれた。
光明61【集まりし猛者】
入院当日を迎えると、流石に一人で行かせるのは可哀そうだと、息子は義父母に預けて妻が付き添う。
着替え等の荷物も多く、電車では大変だからと、送ってくれたのが彼女の弟。
到着して手続きを済ませ眼科病棟へ向かうと、私より難儀な事情を抱える人達が静かに待ち構えていた。
光明62【企てし小悪】
連れて行かれたのは8人部屋で、入口すぐ横のベッドを充てがわれたが、その理由は後に知る。
妻は息子が心配だからと荷物を棚へ押し込むと、「また来るわね」と言い残し、さっさと消える薄情な伴侶。
だが厳しい干渉から解放された私は、昼食の後に少し時間が有る事に目を付けた。
光明63【密かに摘みし油物】
看護婦の目を躱して詰所をやり過ごすと、許可を取らずの無断外出を決行した。
手術を受けると身動きが取れないと案じ、周囲を探検すると商店街が有り、そこで見付けた肉屋のコロッケ。
実は前回の退院後に妻から食事への注意が厳しくなり、不満も溜まってつぃ買ってしまう。
光明64【俄かに漂いし不穏】
1時間程して何食わぬ顔で病棟へ戻ると、「どこ行ってたんですか!」と看護婦がやって来る。
適当に誤魔化していると、診察が有るから捜していた様で、少しご立腹。
診察室に入ると主治医からは、「明日はレーザー照射をします」と言われ、かなり痛そうだと胸騒ぎを覚えた。
光明65【訪れし悪夢】
「網膜に張り付いた新生血管の増殖部分を、レーザーで焼いて行きます」と主治医は説明する。
当日は椅子に腰掛けると機械の台座に顎を乗せ、動かない様にと器具で縛られる頭部。
合計で百発以上と後に知るが、照射される度に仰け反りそうな衝撃で、想像を遥かに超える激痛だった。
光明66【誤りし現状認識】
レーザーに続く本格的な手術が3日後と決まり、検査が次々行われる。
だが時間的余裕も有ったので、自然と重ねる同室者との情報交換。
そして背筋が凍る様な原因からの入院経緯を聞き、私だけが悲惨では無いとも感じたが、両眼共に見えない患者は少ないとは未だ知らずに居た。
光明67【隠蔽し不始末】
私の向かい側に居る患者はかなり高齢な方で、切っ掛けは白内障だった。
近所の町医者で日帰り手術を受けた際、電源が落ちて作動しなくなった酸素を送るポンプ。
すると雑菌が繁殖して失明の危機に瀕した為、出身医大病院に泣き付き尻拭いを頼んだと、彼の愚痴は全く止まらない。
光明68【憂いし行く末】
高齢者の隣は私と似た様な境遇の方で、同じく乳飲み子を抱える大工さん。
仕事中に自動で打ち付ける機械から、誤って飛び出した釘が彼の左目を直撃する。
眼球の中心を少し外れたお陰で失明は免れそうとの事だが、労災保険に加入していなかった為、休業補償が無いと嘆いていた。
光明69【現況乖離し言】
大工さんの隣はやんちゃな遊び人風の方で、事件は場末のスナックで起きた。
女性を巡って客同士で喧嘩が始まり、逆上した相手がビール瓶を叩き割った後、顔面に突き刺す尖った部分。
先端は網膜まで達したが、本人はケロリとした口調で、「流石に組関係者は強い」と嘯いていた。
光明70【寡黙になりし境遇】
やんちゃなお兄さんの隣は窓際のベッドで、そこの主はいつも私たちに背を向けていた。
どうやら十代の学生らしいが、同室者とは一向に交じわろうとしない頑なな姿勢。
だが後に意外な場面で、彼の置かれた悲惨な状況を知ると、その態度も仕方が無いと頷かざるを得なかった。
光明71【心強し陣営】
この大学病院で働く看護師は、経験の豊富さや技術水準の高さを、個人的だが感じる。
それは重篤な患者が近隣や県外からも押し寄せて来る為、必要に迫られて向上せざるを得ない対応力。
だから当時の注射針は今より太く、腕前の差が出易かったが、痛い目に遭う事は一度も無かった。
光明72【時に偲びし別離】
私が入院していた階は目を患っている方ばかりの為、過酷な症状と言えども死には至らない。
だが廊下沿いの風呂やトイレを挟んだその向こう側は、看護師に訊けば脳外科の病棟。
だから月に一回程度の割合で臨終を迎える場面が展開されていた様で、咽び泣く声を何度か耳にした。
光明73【想起されし惨劇】
主治医の診察に呼ばれ、先日のレーザー照射の結果を伝えられるが、当然ながら解決には程遠い。
そこで私は次の手術で気になっていた事が有り、恐々と尋ねたのが全身麻酔の使用。
それは1ケ月以上も寒さに震えた上に涙と鼻水に塗れ、辛酸を嘗めた記憶が頭を掠めたからだった。
光明74【腑に落ちし懐疑】
主治医は穏やかな口調で、「手術は90分の予定なので、局所麻酔で行います」と返答する。
前回は4時間掛かったと訴えるも、「それ以上長引くと眼球が耐えられないので」と明快な解説。
それならば辛く苦しい後遺症と更に齎された悲惨な結末は、何だったのかと憤りを感じた。
光明75【躙り寄りし悲痛】
「網膜に絡み付いた新生血管を取り除いた後、目の中にガスを注入します」と主治医は説明を続ける。
その意味や理由もこの時点では全く不明だったが、それよりも気になった単語は眼球麻酔。
そして短時間では終わったものの、今思い出しても震える様な苦行は目前に迫っていた。
光明76【持たじ聞く耳】
手術当日に妻の実家は店が忙しく、両親や弟に車で送ってはもらえない。
その状況では生後半年足らずの赤子を置いて出掛ける訳にも行かず、仕方無く姑に託す私のお守り。
だが不慣れな場所へ一人は心細いと夫へ同伴を頼むも、情けない愚息を毛嫌いする父は首を縦に振らなかった。
光明77【搔き立てられし不安】
定刻になると診察室へ呼ばれ、廊下に置かれたベッドに寝かされた。
すると麻酔を効き易くする第一弾として、腕にブロック注射が打たれるが、これが目を剥く程の激痛。
そして傷が癒える暇を与えられずに体は移動を始め、母と会えぬままで孤軍奮闘の決戦は眼前に迫り来る。
光明78【頭掠めし憂慮】
手術室に着くと第二弾の点眼投与が施されるが、瞬きを防ぐ効果も兼ねている。
次に体を強力なバンドで抑え付けると、ご法度の咳とくしゃみを催した場合は、早めに伝える様にと下される厳命。
そして徐々に緊張が高まるにつれ、全身麻酔を頼むべきだったかと後悔の念に襲われた。
光明79【遥か遠し平穏】
主治医が私の右側に座ると、その向かいにもう一人が腰掛けた。
てっきり手術を補助する役目かと思いきや経験を積ませる為の配置で、同時進行で始められる講義。
部分麻酔は意識が鮮明な所が厄介で、両者の問答は嫌でも耳に入る環境は、過敏な精神状態を鎮静化する暇を与えない。
光明80【閉じ込められし暗室】
遂に術式が開始されるがその直前、微かな視力でも判る程、不気味な奴が姿を現す。
鈍い輝きを放つ注射針は容赦無く忍び寄り、突き立てられる右の眼球。
そしてこの時を境に光の存在しない世界へ引き摺り込まれ、再び瞳が灯を感じるまでに結構な月日を費やす事態に陥った。
光明81【的外し好機】
「痛みを感じたら麻酔を追加しますので言って下さい」と主治医から指示されるが、どのタイミングで申し出るのが適切かは判断が難しい。
「早過ぎても不味いかな」と躊躇いも有るが、遅いと効くまで強いられる我慢。
そこで様子を伺いながら遠慮がちに伝えたが、遅きに失していた。
光明82【被せられし仮面】
麻酔の追加は開始から1時間を大きく過ぎていた様で、効いて来た頃には終焉を迎える。
すると体を縛っていたバンドが外され手術室から運び出されると、車椅子に乗せれられ戻る大部屋。
気が付くと右目にはガーゼが貼られ、その上からカッペと言う金属カバーが装着されていた。
光明83【遮られし採光】
ベッドで少し転た寝をしていたのだろう、病室に来た看護士に起こされて目覚める。
だが右目は完全に塞がれ、もう一方は夏に寿命を終えている為、そこで初めて気付く暗闇に独りぼっち。
もしや夢の中かと頬を抓るも状況が変わる筈は無く、現実を受け入れるまで暫く時間を要した。
光明84【蘇らじ記憶】
狼狽する我が心境を斟酌はしてくれない看護士は、手術後の検査を淡々と進めて行く。
「大丈夫ですか?」と声を掛けられて少し痛みを感じたが、話す間も与えず計り始める体温に血圧。
そして「明日から『俯せ治療』です」と告げられたが、事前に説明された覚えは想起出来ずに居た。
光明85【陥りし迷宮の沼】
「俯せ治療って?」と私が尋ねると、「先生から説明が有りますので」との答えが返る。
すると急に催して来たので、小用を足したい旨を訴えると、「今日は安静です」と渡される尿瓶。
この情けない状況は暗澹たる気分にさせ、灯りも無しで戸外へ放り出されだ様な孤独を与えた。
光明86【示されし展開】
手術の翌朝は看護師に付き添われ、診察室で主治医から現在の状況について詳しく伝えられる。
説明によると網膜に蔓延る新生血管の層が厚く、切除に時間を要した為に残る大きなダメージ。
そこで暫くは経過を観察して、次はガスを注入する段取りを、穏やかな口調で言い渡された。
光明87【現れし疫病神】
私は説明の後、気になっていた『俯せ治療』について尋ねた。
すると「次の手術でガスを注入してから始めるので、詳しくはその際に」との返答。
そして看護師に連れられ病室へ戻る途中、「まだだった様ね」と、全く悪びれもせず、昨日の検査にやって来た彼女、謝る事は無かった。
光明88【進み始めし迷路】
病室へ戻って暫くすると看護師がやって来て、「今日から歩行訓練をします」と伝えられる。
確かに毎回の尿瓶は惨めだし、一人で好きな時に用を足したいトイレタイム。
そして最初に習ったのが防御の姿勢で、目の辺りを片手で覆い、反対の方で壁等の位置を探る事から教わった。
光明89【暫し忘れし苦境】
歩行訓練のお陰で廊下の向かい側に有るトイレまでは一人で行ける様になったが、流石に入浴は厳しい。
そこで看護師がベッドまでやって来て、温めたタオルを用意して拭いて頂く私の体。
更に足はお湯を入れた桶に浸けて、指先まで洗ってもらうと束の間だけど幸せを感じていた。
光明90【縋り掴みし藁】
病棟の診察室で右目の様子を確認されると、状況が安定しているので週明けの手術が決まった。
方法としてはガスを注入し、その圧力で網膜を脳へ押し付け定着させるのだが、必要なのは自然治癒力。
そして鍵となるのがその後に始める『俯せ治療』で、遂にそのベールが剥がされる。
光明91【出没近し難敵】
2回目の手術は短時間で終わるが、 右目の中へはガスが注入される。
この日は安静が命じられるとまた尿瓶が登場し、食事は昼も夜も用意されず、 代わりに提供される点滴。
そして遂にあの『俯せ治療』を翌朝から始める旨が告げられると、不安を胸に抱えつつ眠れぬ夜を迎えた。
光明92【踏み込みし藪の中】
手術の翌朝には食事が届けられるが喜びも一瞬で、治療の説明が始まる。
看護婦からは「90分が1セットで4回繰り返しなす」とまずは実施時間の指示。
そして俯せになる様に促され、両肘で体を支えて頭部を浮かせると、枕に額を付ける姿勢を保つ形で修行の道へと突入した。
光明93【片隅残りし忘れ物】
所詮は俯せだからと自分を鼓舞するが、実際に取り組んでみると想像以上に辛くて長い。
やがて1セットが終わり体を横に向けて一息吐くが、結構な痺れを感じる肘と膝。
更に苦痛だったのは退屈な時間で、そこで次への対策を練り始めて思い出したのが、カセットの存在だった。
光明94【嵌りし泥濘】
図書館で借りたカセットは1本90分で、途中で引っ繰り返す必要は有るものの長さが丁度良い。
そこで午後から始める2回目の準備を進めると、選んだのは三浦綾子作の〚氷点〛。
だが確かに退屈は解消されたが、人間の愛憎渦巻く余りに重い内容に、かなり気が滅入る結果となった。
光明95【踏破し第一歩】
午後は合間に少し休憩を挟みながら、夕飯までに残り3セットを何とか熟す。
だが終わってみると肘や膝は勿論だが、途中で居眠りをしていた性で、圧迫され続けていた顔面とお腹周り。
その為に腫れ上がる頬は見えないものの食欲は湧かず、更に夜が眠れなくなる治療初日を終えた。
光明96【占えし先行き】
『俯せ治療』開始から1週間が経過し、長くて暗い物語の朗読テープは聞き終わった。
だが次に選んだ作品は、井上靖の『氷壁』だった為、これまた実際の事件を基にした複雑な内容。
更に辛いのは主人公が、結婚も決まり幸せな終焉を迎えると思いきや、最後には死を遂げてしまう。
光明97【胸高鳴りし手際】
厳しい治療も2週目に入ると、体もそうだが精神的にも辛く、空調が効いていても汗ばんで来る。
そこで楽しみだったのが1日おきに行われる清拭で、入浴が難しい私の背中に心地良い蒸しタオル。
更に洗面器の湯舟に足を浸け指先を洗って頂くと、妙にドキリと至福の時間だった。
光明98【先へ進まじ双六】
2週間の治療が終わる頃、悲劇の終幕を語る朗読の調べは何かを暗示した。
そこで俯せの効果を確かめるべく、医師はガスが抜けた後の状態を、精密機器での検査。
そして「網膜は浮き上がっているので、もう一度同じ手術を行います」と告げられた結果、哀れにも振出へ戻される。
光明99【零れ落ちし涙】
2度目の手術は来週に決まったので、次の朗読テープとテレカの持参を母へ依頼する。
それは携帯はおろかメール等も存在せず、唯一の連絡手段が廊下に設置された緑の公衆電話。
そして夜になると図書館で知り合った担当者の自宅まで、家族にも言えない辛い胸の内を吐露していた。
光明100【不意に轟きし雷鳴】
2度の手術を経て〚俯せ治療〛も頑張るが、またも網膜は引っ付いておらず暗澹たる気持ちになる。
そこで「次はガスに代えてシリコンオイルを注入します」と医師が説明する、私の目に残された最後の砦。
だがその翌日に何故か突然、看護婦からは一時的な退院を指示された。
光明101【持ち合わせじ情愛】
一時退院を告げられたが理由は明かされず、急な話に困った私は先ず母へ連絡する。
本当は妻へ最初に相談すべきだが、実家へ長期の里帰りをしたままで、流石に厚かましいかとつい気後れ。
だが傷だらけとしても酷く嫌う息子を、父が受け入れる筈も無く予想通り拒否された。
光明102【不意に叶いし対面】
親に断られたので気が重い中で妻へ連絡すると、相談してみるとの事で一旦は電話を切る。
そこて暫くしてから再び掛け直すと、「お父さんがここへ来たらいいって」と明るい返答。
そして退院に向けて荷物を纏め迎えた当日、義母が運転する車に乗り込むと息子がそこに居た。
光明103【感じ取れし絆】
妻の実家へ向かう車中で、久し振りに会う我が子は気付けば生後8ケ月になっていた。
だが当時は左が失明し、右はガーゼの上に金属のカッペが被せられ、直接には眺める事が叶わない愛息の姿。
それでも膝の上で抱かせてもらうと、言葉も通じないが肉親の温もりは伝わって来る。
光明104【知るべし要所】
やがて車は妻の実家へ到着し、義父へ世話になるお礼を伝え、介助をされて中へ招き入れられる。
私は2階の応接間に連れられ荷物を運ばれると、「ここで過ごしてもらうから」との指示。
そして最初に教わったのが和室を通り抜け、廊下に出てすぐ横に有るトイレへの動線だった。
光明105【思いも寄らじ提案】
応接間を出てすぐの階段を壁や手摺りを触りながら、食事の度に一人で下りて台所へ向かう。
そしてそれ以外の楽しみと言えばテレビの無い部屋だった為、朝から晩まで耳を傾けるラジオ。
するとその様子を見兼ねたのか愛情だったのか、妻は私へ驚愕の任務を持ち掛けて来た。
光明106【手渡されし責務】
妻は意味有り気な台詞を残して隣の部屋へ消え、暫くして戻って来ると私へ近寄る。
すると「役目を与えてあげる」と言うと、胡坐を掻いている足の上に乗せられる零歳児。
そして「親子二人の時間を楽しんでね」と囁き部屋を出て行かれると、盲目の父は途方に暮れてしまった。
光明107【埃被りしお家芸】
初めて二人きりとなる私を父親と認識しているとは信じ難いが、不思議にも息子は全く愚図らない。
だが何もしないのは能が無いので、盲目の現状でも出来る事を我が人生を振り返りつつ必死に暗中模索。
そこで辿り着いたのが幼少期から大好きで、得意との自負も有る歌だった。
光明108【共鳴し親心】
最初に選んだのは童謡『シャボン玉』で、この唄については妻から教わった事が有る。
それは作詞者の野口雨情が生後7日で亡くなった娘を想い、命の儚さを綴っているとの悲しい秘話。
だから私は歌い始めるとすぐに胸が熱くなり、半ば辺りで大粒の涙を息子の頭部へ落としていた。
光明109【知られし孤軍奮闘】
覚えている童謡を何曲も歌ったら結構な時間が経過したが、昼食まで妻は一度も覗きに来ない。
そこで心配では無いのか尋ねると、「聞こえていたよ」と平然とした口調。
実は部屋の隅にマイクが内蔵された人形が置かれ、階下で家事をする彼女へは私の声は筒抜けだった様だ。
光明110【糾えし禍福】
昼食が終わると息子はベビーベッドに寝かされたので、少し気が緩んでいたと思う。
するとお腹が痛くなったので、起こさない様に忍び足で辿り着く部屋を出て真横のトイレ。
やがて用を済ませた私はすぐ右へ曲がるべき事を失念し、前方へ進むと下りの階段へと吸い込まれて行った。
光明111【明滅し映像】
廊下の床が存在しないと気付いた私は、無意識に部屋が有る右側へ行こうと考えたらしい。
だから直前で体は反転し、頭から先に落ちた為に姿勢は仰向け。
実際の時間は数秒だと思うが動きはコマ送りの如くに感じられ、過去の記憶が走馬灯の様に回りながら浮かんでは消えたりした。
光明112【尽きじ命運】
私は学生時代に体育の授業で3年間、柔道を習っていたので自然と受け身をしていたらしい。
だから1階へ到達する寸前に首を浮かせていたお陰で、掠りもせずに済んだ頭部。
更に仰向けに落ちた事が功を奏し、目に対する衝撃も無かったが、当の本人は「終わった」と悲観していた。
光明113【横臥りし娘婿】
大きな物音がしたからか悲鳴が聞こえていたのか、居合わせた義父母は異変に気付く。
実は階段の入口が店の端に位置していた為、興味本位で騒ぎ出す立ち呑みの客達。
そこで扉が開かれて、上下逆様で倒れていた私は安否を訊かれて、頭は打っていないと答える事が精一杯だった。
光明114【再現されし神話】
頭を打っていないと知って救急車は呼ばず、妻の弟に隣町の病院へ運ばれる。
そこで私を診た医師から「骨は全く異常無し」と、笑顔で太鼓判を押されたので先ずは一安心。
だが因幡の白兎みたいに背中は赤く擦り剥け、その夜は姿勢を変える事も辛く、寝返りは以ての外だった。
光明115【引き裂かれし平穏】
流石に転落直後は寝たきりだったが、一週間もすると痛みも和らいだので子守りを再開する。
そこで今度は歌以外に、妻が絵本を読み聞かせする内容を、耳で覚えて丸暗記する形での独り語り。
そして楽しい肉親の触れ合いが半月も続いた頃に、再入院の連絡が飛び込んで来た。
光明116【再結集し戦友達】
支度を整え準備を終えると後ろ髪を引かれる思いで息子と別れ、義弟が運転する車で病院へ向かう。
やがて妻の介助で手続きを済ませ、導かれた部屋は以前と同じ号室でベッドも入口のすぐ脇。
そして両目共に見えず姿こそ視認は出来ないが、懐かしい声が聞こえて私は安堵した。
光明117【登場近し大先生】
再入院した翌週に教授回診が行われると告げられたが、看護婦からは細かい指示が飛ぶ。
何故なら当日に強いられる緊張は尋常では無い様で、彼女達に課せられる責務。
そしてTVドラマでも人気を博した『白い巨塔』のシーンが想起されたが、実際も同じ光景が繰り広げられた。
光明118【胡散臭し実像】
当時大活躍していたプロボクサーが網膜剥離となり、その手術に成功した事で教授は名を上げる。
だが私の症状は最先端の処置が必要だったので、既に高齢の彼が干渉の出来ない範囲。
その関係で執刀医とならなかったが、回診の際に態度が横柄だった為、技量までも疑心を抱いた。
光明119【一糸乱れじ行軍】
回診当日は朝早くから尋常で無い重々しい空気が流れ、看護婦も普段に比べて口調が厳しい。
すると「訊かれた事だけに答えて、勝手に質問はしない様に」と注意が飛び、眼科病棟に発せられる指令。
やがて教授を先頭に白衣の集団が廊下の端に現れると、緊張は最高潮に達した。
光明120【信じ難し所業】
一行が部屋に入ると電気が消され、教授が窓際まで進んで左側のベッドで横になる少年の名を呼ぶ。
続けて周囲に居並ぶ医師達へ聞かせる為、読み上げるカルテに記載された個人情報。
すると順番を待つ残りの患者は「次は自分も同じ目に遭うのか」と、怒りより恐怖に怯えていた。
光明121【湧き出し父性】
教授は患者である高校生の悲しみを斟酌する優しさは持ち合わせず、厳しい診断を言い放つ。
「剥離の原因がアトピー性皮膚炎の為、網膜は引っ付き辛い」と容赦の無い解説。
静寂の中に響く彼の声は冷徹で、息子を授かったばかりの私は恐怖で慄くより、親の立場で怒りに震えた。
光明122【収まらじ蛮行】
一人目の回診が終わると教授は向かいのベッドへ移動し、残酷な仕打ちを繰り返す。
この儀式は患者の為では無く、医師達への講義に過ぎないと気付くと、更に湧き上がる怒り。
だが私の感情を逆撫でするかの様に、不埒な所業はその手を緩める素振りも見せず、淡々と続けられた。
光明123【炸裂し老害】
残すは後2人となり、教授は私の向かいのベッドに移動すると、横になっている高齢者の名を呼ぶ。
だが居眠りをしていた為に返事はされず、それでも無視して回診は続行。
すると急に目を覚まして「ここは何処だ」と声を発したので、終わってすぐに看護婦から厳しく叱られていた。
光明124【引かれし幕】
遂に教授が私の方へ来ると、今までと同様に症状を暴露されて辱めを受ける。
そこで「この患者は糖尿病性網膜剥離で」と始まれば、緊張が頂点に達して見事に飛んでしまう最中の記憶。
それでも声を発する失態を演じる前に回診は終了し、傍迷惑な一団はぞろぞろと退室して行った。
光明125【響き渡りし悲鳴】
人騒がせな行事が終わると皆はベッドから上半身を起こして、安堵の大きな溜め息を洩らす。
すると看護婦が飛んで来て、「全ての回診が済むまで静かにして廊下へも出ない様に」と刺される釘。
それでも訪れた穏やかな空気に微睡んでいると突然、謎の激痛が私に襲い掛かった。
