「エッセイ」遭難しかけた
若い時に、一度遭難しかけた事がある。
もう30年も前、20代の時だった。
仲のいい友人二人と、計3人で、徳島県にある吉野川の河川でキャンプをしていた時だ。
T君が車を出してくれて、I君は小柄で長髪だった。
知っての通り、吉野川の川幅は相当に広く、川の水量も豊富だが両側には大きな川べりが拡がっていて、車で降りていくことが出来る。
俺たちも土手からゴロタ石の拡がる川辺に降りて、テントを張った。
昼飯も食って、天気もよく、良い心もちで青空の下でうたたねをしていた。
すると、一瞬、背中に冷たいものを感じた。
同時に
「あっ、水がここまで来とるわっ」
と友人の声。
起き上がり見渡すと、さっきまでゴロタ石だけが拡がっていた川辺に水が侵食している。
「おっ、まじかっ」
川の水は、すでに俺たちの周りを取り囲み始めていた。
あわてて、荷物をかたづけて、引き上げようとした。
だが、もう道路へとつながる道が、川の水でなくなり消えていた。
文字通り中州に取り残されてしまったのだ。
焦った。
車はパジェロだった。
持ち主のT君が車に乗りこみ、土手沿いに上がる道を探すが、なかなか見つけられない。
そうこうするうちに、消防車が一台やってきた。
誰かが見かねて、呼んでくれたのだろう。
まだ携帯ももっていない時代だった。
「お~いっ、君たちはもどれなくなったのか?」
消防員がスピーカーを使って、俺たちに問いかけた。
「そうです」と言っても、声は届かない距離なので、両手を上げて大きく丸を作った。
「男二人に女一人か?」
「・・・・」
両手で✖を作った。
「男3人か?」
大きく丸を作った。
それから、地元のオジサンがやってきて、川底の位置をよくしっているのだろうか、浅瀬の道筋を教えてくれた。
俺とI君は、ひざ下まで浸かりながら、土手へ避難した。
パジェロも言われた通りの道筋を運転すると、水しぶきを上げながら、土手まで戻ることが出来た。
大事にはならなかったが、一瞬「死ぬかもしれない」と思った。
消防車やオジサンがいなければ、パジェロは流されていたに違いない。
結局、ダムの放水があったようなのだが、俺たちは、気が付かなかったのだ。
今も、夏が近づくと、海や川での遭難の話は出てくる。
誰も、そうなろうと思ってはいないのだが、ほんの少しの不運で、誰しもが遭難してしまったりする。予測は大事だが、予測出来ないこともある。
嫌なのは、その人達を叩いてしまう、世間の風潮だ。
生きることは、少なからず「誰かに迷惑かけちゃう」ものだから、明日は我が身、お互い様なのである。
ところで、消防士からの「男2人に女1人か~?」の問いかけに、意味はあったのだろうか?
この話をパジェロの持ち主の結婚式でスピーチですると、ちょっと受けた。
もちろん、オンナに間違えれらたI君も一緒だった。
