船乗りとたこ
むかしむかし、あるところに、ひとりの船乗りの男がいました。
男は、何千海里も先の大陸からジパングを目指して航海していました。しかし、ある日、海で道に迷ってしまいました。
すると、一匹の親ダコが船へちょこんと飛び乗ってきました。
男は腹をさすりながら言いました。
「おお、うまそうなタコだ。今夜のおかずにしてやろう。」
親ダコは目をうるうるさせて言いました。
「船乗りさん、ぼくはジパングへの道を知っています。だから、どうかぼくを食べないでください。」
「それなら、案内してもらおう。」
男がそう言うと、親ダコと子ダコは船の舵を動かし始めました。
男は不思議そうに、
「本当にこっちで合っているのか。」
と尋ねました。
すると親ダコは、
「合っているよ。ぼくたちはここから来たんだもの。」
と答えました。
ところが、幾日も幾日も海をさまよい、船の食べ物も水も少なくなってしまいました。
男はとうとう我慢できなくなり、
「もうたくさんだ。腹が減って死にそうだ。」
と言って、親ダコを焼こうとしました。
親ダコは子ダコをかばいながら言いました。
「お願いです。ぼくの子だけは助けてあげてください。」
しかし男は、その願いにも耳を貸さず、親ダコを焼いて食べてしまいました。
驚くことに、その様子を船の下から子ダコが見ていたのです。
翌日、子ダコはクラーケンのすみかを訪ねました。
「クラーケンさん、いますか。」
すると、大きな体を揺らしながらクラーケンが姿を現しました。
「どうした、小さなタコよ。」
子ダコは涙をこぼしながら言いました。
「ぼくのパパが、あの船に乗っている船乗りに食べられてしまったんだ。」
クラーケンは静かに尋ねました。
「その船乗りは、約束を破ったのか。」
「うん。」
「それなら、海の掟を教えてやろう。」
翌日、大きな波が海を揺らしました。
それからというもの、その船を海で見た者は、だれ一人いなかったそうな。
