【短編小説】静かな鬼の村のものがたり
(やってみました、自分の小説のキャラクターのAI動画化、チガヤがかわいすぎる)
【短編小説】静かな鬼の村のものがたり
日本のある降雪地帯の山奥にその村はひっそりとある。
静かに長い時を過ごす鬼たちが息をひそめて山奥の集落で生活している。
ふだんは結界が張ってあって、獣や人間が入ってこられないようにしてある。
見た目は11歳くらいの子供の鬼がふっと顔をあげ、雪雲を見つめた。
今は冬、子供の鬼の家である藁ぶき屋根の家にも冷たい雪が降っていた。
二本の角が頭から生え、白い着物に海老茶色の袴、あごのあたりでそろえたおかっぱ。女の子のように見えるが、男の子のようにも見える。白い足袋を履いている。
「あ………」
何か気が付いたかのように立ち上がり、木の扉を開けて中に入る。
「霊鬼(たまき)さま」
木の扉を開けて、奥にすすみ、ふすまを開けると、そこには大量の巻物や和紙でできた本の入った書棚があり、その奥の文机に、白い長い髪の男の鬼が座って、筆を握り、和紙に一心不乱に文字を書き込んでいた。
「おや、チガヤ…どうしたのか?」
長い白髪の鬼が顔をあげた、人間年齢でいくと20代後半の男性の容姿をしているものの、彼はこの村の村長にして、平安時代や室町時代を知る、千歳を超える村では一番の長老とされている鬼だった。
「結界…壊されてしまいました」
「おやおや、まだ君の術は力が弱かったようだね」
チガヤと呼ばれたおかっぱ頭の子供の鬼は少し悲しそうな顔をした
「大丈夫、また結界を張ればいいことだ、チガヤ、一緒に壊されたところを直しに行こう」
立ち上がった霊鬼は白い着物に白い帯をしていた。
二人は雪がまばらに残る村道を村はずれに進んでいった。
「あっち」
チガヤが小さな指で壊れた先を指さす。
「おやおや」
霊鬼がすっと手を振ると、結界が見えるようになる。壊れたところに、何
やら派手な色合いのものが落ちていた。
「……人間かな」
青いダウンジャケットを着て、ジーンズをはいた20代半ばくらいの男が落ちていた。
「いや…違う」
男の頭の雪をはらうと、そこに二本の鬼の角があらわれた。
「夏鬼…」
「なつきさま…」
人間の服を着た夏鬼が起き上がる。
「おお、霊鬼…ただいま…えへへへ…10年ぶりだな、チガヤ、お前はかわらないなあ…」
雪を振り払うと夏鬼は笑った。ひとなつこそうな、短い黒髪の二本の角の鬼だ。
とりあえず、家に連れてきて、夏鬼に食事を与えると、まるで飢えた子供のようにがつがつとご飯を食べだした。
「村への帰り道忘れちまってさ、どこだったか迷っていたら、同じところぐるぐる回ってさ、あ、結界だって気づいて、破ったら結界に抵抗されちまってさ」
チガヤはぷすーと頬を膨らませて言った。
「入ってこれないよう、チガヤ、念を送った、強引に破って入ってきた」
霊鬼は、夏鬼の着ていたダウンジャケットをしゃかしゃかと触っている。

「また…面妖な人間の着物を着てきて……こんなのを着ているから結界からはじかれるんだぞ、鬼用の門があるんだ、ちゃんとそこから入ってきてくれ…、結界を管理するチガヤが手間でかわいそうだ」
「すっかり門の位置忘れちまってさあ、じゃあ結界突破しようかと思ったら、はねられてしまうし、ああ、でも今、チガヤが結界を守っているのか、なかなか上手に張ってるじゃないか、霊鬼の後継者として優秀に育ってきているな、後継者になるのをほおり投げた無能の俺とはまったく違う……」
チガヤは自分のことを言われたにもかかわらず、興味がなく、霊鬼がしていたようにダウンジャケットを手にとり不思議そうにしゃかしゃかと触っている。
「これ、温かいんだぞ、欲しいか?」
夏鬼はチガヤの不機嫌そうな顔をなだめるように言った。
「いい、母様の綿入れより軽くて薄い」
「軽くて温かいんだぞ、鳥の羽根が入ってる」
「ふあー」
チガヤはダウンジャケットを放りだして、霊鬼の影に隠れる。
「鳥の羽根……」
「大丈夫だ、お前をつっついたりしないよ」
チガヤは卵を取る為に飼っていた鶏に手をつつかれてから鳥が苦手になっていた。
「チガヤは何が好きかな」
「あんこが入ったおもち」
夏鬼はポケットからスマートフォンを取りだして見せた。
「ほら、あんこが入ったおもちを作る動画だよ」
ネット動画サイトから検索したあんころ餅を作る動画をチガヤに見せた。
チガヤは霊鬼の影から出てきて、目を輝かせて食い入るように、スマートフォンの動画を見た。
「食べられないの?」
「ごめんな、これは取り出せないんだよ」
チガヤはつまんなそうな顔をした。
「夏鬼…ここの村よりも、人間の街の方が楽しいか?」
ジャケットを夏鬼に返しながら霊鬼は言った。
「ああ、楽しいな」
夏鬼は返す。彼はこの数十年、人間の地に何度も行っては入りびたり、飽きては戻ってくるということを繰り返していた。
「人間の世界は刺激的で、いつも新しくて…鬼の村もいいところだけど、時が止まって平和すぎて、ちょっと退屈なのかな」
霊鬼は笑った。
「まあ、ここの村の鬼は比較的長く生きている鬼が多いからな、人間の世界同様、高齢化が進んでいる、子供の鬼が生まれても、育つと、刺激を求めてどんどん人間のいる都会に行ってしまう、過疎化しつつあるな」
チガヤと霊鬼が夏鬼の人間社会での生活の土産話を聞いている最中にどたどたと廊下をかけてくる足音が聞こえてきた。
ばっと障子が開くと、若い女性の鬼が入ってきた。
「夏鬼…無事だったのね、よかったああ」
「ああ、楓、ごめんよ、遅くなってしまって」
二人は夫婦だった。しばらく抱き合っていた。
「連絡とろうかと思ってたけど、なかなか、ここまで文を持って飛んでくれる鳥が東京にいなくて…俺も帰ってこようかと思ったけど、なかなか帰ってこれなくて…」
「私も手紙を持っていってくれる鳥がいなくて困ってたわ、でもあなたがどこかで生きてるって感覚は読み取れてたから、きっと帰ってくると思ってた」
2人は離れるとお互い見合った。
静かに寂しそうな顔をして夏鬼は言った。
「…そうだ……葵を看取ってきたよ」
楓はそれを聞いた瞬間泣きだした。
「それでも、危ないと言われて10年間、94歳の大往生だった」
ああ、と霊鬼は小さな声を出した。
あの、あの子が亡くなったのだ。
頭に角がないまま生まれてきた葵のことを思い出した。
夏鬼と楓は鬼の村に暮らしていた若い夫婦だ。
鬼の一生は長く、その長さは500年とも700年とも言われている、その中で比較的若い夫婦だった。
彼らは今から94年前、小さな女の子を産んだ。鬼の子供であるのにもかかわらず、彼女には大切な物がなかった。鬼の角がなかった。
霊鬼は、千年を超す年齢だったので、いくつかそのような例を見てきた。
相談をもちかけてきた夏鬼に、残酷な話をした。
「角のない鬼は…人間…寿命は短い」
角のない鬼は人間、赤子のうちに人間の里におろし、人として生活をさせ、人生を終えさせる。辛いが、それしかない。霊鬼の助言に従って、何人かの鬼の子たちが、人間の里で人として生きることになった。
霊鬼の助言に逆らって手元に置いた鬼の夫婦達はあっという間に育ち、老い死んでいく子供を見てしまう。そして、子が亡くなると鬼の親の慟哭が村中に響く、霊鬼はその声を聞きたくはなかったので、角のない子が生まれる度に彼らに助言してきた。
夏鬼と楓は自分より先に亡くなると覚悟して、その子供を鬼の村で育てる決心をした。
その頃、霊鬼の元にチガヤが後継者として一緒に住み、霊鬼の世話をすることになった。
子供は葵と名付けられた。角はないが、かわいらしい子供だった。
葵は順調に育ったが、やはり、11歳くらいで、チガヤと同じくらいの外見になったあたりで、夏樹と楓に変化がみられてきた。
人間の里に降ろしたいという。霊鬼は頷いた。
やはり、自分の子供が自分より早く成長し、老いていくのが苦しくなるのだ。
葵は、東京に住む夫婦にもらわれていった。
その頃、日本はどこかの国と戦争をしていて、なんとなく不穏な空気をまとっていたのだ。
「葵はとてもかわいい子だった、チガヤも一緒に遊んだだろ?」
霊鬼が言うと、チガヤが首を縦に振った。
「うん、遊んだ、かわいかったけど、あっという間に、私より大きくなった」
「チガヤの成長が遅いのもあるがなあ……」
チガヤはむすーと頬をふくらませた。鬼の成長は個体差があって、早く成長して成人の姿のまま長く過ごすものもあれば、ゆっくりとゆっくりと体が成長していくものもある、チガヤは後者の鬼のようである。
「葵ちゃんにビー玉もらった」

棚から小さな箱を持ってきて見せる。
それは昔、夏鬼が葵のために人間の祭りの夜店を覗いて買ってきた、ガラスのビー玉がいくつか入っていた。
「ああ、懐かしいなあ、それ、俺が買ってきて、葵にあげて、葵がチガヤに渡したんだな」
夏鬼と楓が手にとってコロコロとてのひらで転がした。
葵はそこそこ裕福で、東京に家を持つ子供に恵まれなかった中年夫婦の元で学校に通っていた。
以前から人間の街にふらりと行くことがあった夏鬼が、鬼の村にいないことが多くなった。
(もしかして、それは………)
霊鬼は思った。葵の姿をこっそりと覗きに行ってたのかもしれない。
それから間もなく、戦争は激しくなり、葵のいる東京が爆撃されるようになった。
そして東京大空襲。
「俺、居ても立っても居られなくてさ、葵の家の近くまで行った、すでに葵の家は燃えていた」
人間の地に入り、角を霊力で隠した夏鬼は葵を探した。
逃げ惑う人々、足元には息絶えた人。
地獄絵図の中で、夏鬼は葵と養親の姿を見つけて、手招きをして、上野恩賜公園まで連れていった。
「あの時は危なかったぞ」
夏鬼は語る。チガヤは震え、楓は頷く。
養親の実家である東北の岩手に引っ越し、葵はそこで残りの人生をそこですごした。
おっとりとした性格で、かわいい葵は、人に好かれ、20で隣の町の青年と結婚した。
「嫁ぎ先にえらく歓迎されてなあ……」
子供は6人生まれた…角のない子供たちで、葵はもう鬼であったことを忘れたのかもしれないと、夏鬼は寂しく思った。でもこれで、いいと思った。
「葵に覗いているのがバレなかったか?」
「姿を消したり、角を隠して変装したりしていたからたぶんバレていなかったとおもってた」
夏鬼は、かつて霊鬼の後継者として霊鬼の元で修行をしていたから霊力を使うことができた。
働き者の夫に6人の元気な子供たち、毎日毎日、葵は皆の世話をした。
そして、確実に老いていった。
長年、畑をしていたので、腰が曲がっていて、脚も悪くなってきた。
夏鬼はそれでも、葵を時々見にきた。
そして、それは14年前に起きた。
東北の大震災。
夫に先立たれ、子供も全員独立して、一人暮らしをしていた80歳の葵に襲い掛かってきた、酷い揺れと黒い波の恐怖。
冷たい波に流され、悲鳴をあげても誰も来ず、ただただ浮かびあがって何かをつかもうとした時。
若い男が飛び込み、葵の体をつかんだ。
人間のものとも思えぬ強い力で葵を救いあげ、浮いている家屋の屋根に乗せた。
屋根はずるずると海へ引き戻されそうになった。その前に巨大なコンクリートの建物が迫った。
「100年分くらいの霊力使っちゃったかなあ~」
夏鬼はぼそっと言った。
葵を抱きかかえてジャンプし、その建物の屋上に着地したのだ。屋根はコンクリートの建物の壁にぶつかり二つに割れ、沈んでいった。
「波がおさまったら助けを呼ぶから、そこで待っていてくれよな」
と言い残し去った。
そして、食べ物を持って戻ってきたら、彼女を見つけた人たちによって保護されていく葵の姿があった。
「なんと、あの大震災の時に東北に行ったのね」
楓は涙しながら言った。
「言ってくれたらよかったのに…」
「うん…亡くなってたら、楓がしんどいと思ったから……それに、葵もずいぶん老けてしまったし」
葵は『奇跡のおばあちゃん』として孫に愛されていた。夏鬼が心配する、「別れの時」は徐々に近づいていた。
10年前、猛暑で熱中症になった。意識不明で危ないと言われたが、意識を取り戻した。
その後、歩いて転倒したりして、頭を打って認知症になってしまって、結局同居していた孫の元を離れ、施設に入った。
夏鬼は少し得意げに言った。
「俺、介護得意よ、介護士の勉強して、色々学んで施設で働いていたんだよ」
「介護?」
首をかしげるチガヤに楓は説明する。
「お年寄りの世話をすることよ」
「チガヤの仕事?」
チガヤは霊鬼に仕え、身の回りの世話をする子供の鬼だ。
霊鬼は端正な顔を真っ赤くして言った。
「ちがう、たしかに私はチガヤから見ればおじいちゃんだが、すごい元気だぞ、介護というのはなあ、体がうまく動けなくなったお年寄りの世話をするんだ……」
「いや、霊鬼…そんなに必死に否定しなくても…」
夏鬼は霊力で少し細工をして、葵のいる介護施設に入って、介護の仕事をした。
葵は認知症になって、顔の表情が乏しくなって、意思がなかなか伝わらなくなっていた。
その頃、いよいよお迎えがくるのではないかと夏鬼は思った。
その夜、深夜の巡回に行き、眠っている葵の手に小さなビー玉を握らせて夏鬼は小さな声で問いかけた。
「覚えてる?」
しわしわの小さな手がぐっとビー玉を握った。
「介護の…かいご士の深田さんは……おとうちゃんでしょ」
最近聞くことのなかった、葵の声がした。
「え…わかってた?ばれちゃってたかな」
しわだらけの顔の瞳が開いた。
「うん、ずっと前から、とおちゃんだと気づいてた、私もとおちゃんの子で…角はないけど、鬼だもの…とおちゃんが角を隠してて人間のふりしても、透明になって身をかくしても、見えていたよ」
夏鬼は少し笑った。
「そか、とおちゃん、かくれんぼ下手だったな」
「うん、時々、来てたよね…東京大空襲のとき…………防空頭巾に火がついて困ってた私の頭に水筒の水をかけて火を消してくれて、私と養母さんの手を引いて、上野の恩賜公園に連れていってくれたのはとおちゃんだよね……ありがとう……」
夏鬼は葵のビー玉を握った手の上に自分の手をかぶせた。
「まだあるよ……東北の地震の時、霊力を使って、私を浮かせて、波の中から助けてくれたね。あれは…すごかった…人間ではできなかったよね………子供や孫が、すごく心配して、探して、もう生きていないかと思っていたら、避難所でぼっとしている私を見つけてくれたんだ…とうちゃんがいなかったら、私、死んでたし、子供や孫を悲しませていたかもしれない」
「そうか、よかった」
夏鬼は少し涙が出てきた。
「角のない鬼は人間…人間は鬼より寿命が短い…だから、小さなうちに人間の里に降ろされる。きっと村の鬼たちは私が不幸だと思っている。でもそんなことはない、私は幸せだった。人間として94歳って長生きできたし、かわいい子供も孫もひ孫もできた。そしてね、おとうちゃんが守ってくれた。私、人間としても角のない鬼としても幸せだったよ」
葵は小さく言った。
「明日ね、行くから…明日、孫やこどもがお休みで会いにくるの、その時に、家族に別れを告げるから…おとうちゃんには先に言っておくね……ありがとう……」
夏鬼は泣いた。
「ああ、言い忘れてた…私ね、たくさんの子供産んだじゃない、で子供もたくさんの孫を産んだのよ、皆、とおちゃんの孫やひ孫だよ……………だから…もしかして、いつかそのうちに先祖帰りして、人間なのに、鬼の角を持って生まれてくる子がでるかもしれない………そうなったら、その子をおとうちゃんが迎えにきて、鬼の村に連れていってあげてね………」
「わかった」
そのまま葵はいびきをたてて眠り始めた。
そして、葵の言う通り、翌日、集まった子供や孫に囲まれて見守られながら94歳の人生を閉じた。
自分の子供の葵の最後に母鬼の楓は袖を濡らして泣いた。チガヤもすんすんと泣いている。
1000年以上生きてきて、いろんな人や鬼の死にざまを見ている村長の霊鬼の顔を夏鬼は涙をぬぐいながら見た。
きっと涙を流さずに涼し気な顔をしていると思って見たら、その顔はチガヤが渡した手ぬぐいに埋もれていた。大泣きしていた。
「ああ……慣れない……慣れない…やはり鬼も人も亡くなるのは嫌だな」
手ぬぐいから水滴がこぼれてきそうなほどの涙をこぼし、霊鬼は泣いていた。
村に住む鬼たちが物心ついた頃から村長をしている長老のこの鬼が、気難しい年寄として、つまはじきにされることもなく、村民たちから気にかけられ、愛されてるのは、この感情の豊かさゆえなのだな、と夏鬼は思った。
鬼の村の村長の役割は村の統治と、村の歴史の記録係。
その夜、霊鬼は書斎にこもり、硯で墨をすり、葵の人生を和紙に記録していった。
亡くなる日の前の、夏鬼への感謝の話となると、涙がこぼれて、和紙がごわごわになった。
その話を書くのは、ふと思い出しても、泣かないくらいになるまで時間をもとうと、霊鬼はその和紙のふせんをして書物棚にしまった。
これは日本の降雪地帯の山奥にひっそりと住む鬼たちの物語。
彼らはこれからも静かな生活を送り続ける。
(終)
作業用BGM「木蘭の涙」スターダスト☆レビュー
「GASSHOW」illion
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