仲がいいってこういうことだ
買い物に来た。
いや、買い物に来たというより、娘の体力を削りに来た。
公園で遊ばせようにも外は灼熱、滑り台でも滑ろうものなら火傷まったなし。家の中で体力を有り余らせている娘の相手に白旗をあげた私たちは、車を走らせショッピングモールへやって来たのだった。
ここのいいところは、屋内のキッズエリアに自由に遊べるエアートランポリンがあること。
駐車場からエアートランポリンまでは屋外の移動だが、ゴールが見えているなら耐えられるというものだ。暑い暑いと文句を言いながら建物の入り口までやってきた、そのとき。彼は、のっそりと現れた。
ゴールデンレトリバー(犬)である。
ちなみに建物内に入らなければ犬の同伴OKな場所なので、犬がいること自体は珍しくない。大型犬はちょっとレアだけど。
犬の存在に気づいた娘は、近くで見たかったのか建物には入らず入り口で立ち止まった。邪魔にならないよう壁沿いによけ、「大きいねえ」とふたりで見守る。ふわっと光を弾く毛皮がきれいな子だ。
犬も猫も好きだ。娘の隣にしゃがみ込み、「眼福だぜ、うへへ」と心の中でつぶやきながら眺めていた。
そうして大型犬らしくゆったり歩いていたゴールデンは、突如、伏せた。
建物の入り口で。
焦ったのは飼い主である。
「行くぞ」と声をかけ、リードを引っ張るが、びくともしない。ハーネスを持ち上げると背中は10センチほど浮くものの、四本の足はしっかり地面をつかんだまま。爪先立ちした飼い主の方が、ぷるぷる震えている。重さに耐えかねて手を放せば、ぺたり、と元の伏せに戻る。
言葉はなくとも「ここから動いてなるものか」という強い意思だけは、これでもかと伝わってくる。
愛犬を歩かせることをあきらめた飼い主は抱える方向にシフトしたが、さすが大型犬。抱っこなんてできるはずもない。飼い主の心情を察するところはあるが、犬のふんばりも応援したい。犬の顔をよく見れば、奮闘する飼い主の様子をチラ、と伺う様子がなんとも可愛くて、こちらのハートがやられる。
たぶんこの子、動いたほうがいいことはわかってるよな。
でも、ここ、涼しいもんな。
完全に、入り口から流れてくる冷風の虜になっていた。
そんな攻防をしている間に、子ども連れの家族が「なんだなんだ」と集まってきては、事情を察してふふっと笑いながら通り過ぎていく。他人事じゃない気がするのはなぜだろう。
結局、飼い主のあの手この手をものともせず、ゴールデンは悠々としばらく涼んだあと、自らゆったりと立ち上がり、何事もなかったように飼い主の隣を歩いていった。
「かわいかったねぇ」と犬たちを見送ったあと、娘は私の手を力強く引っ張りながらトランポリンへと駆けていった。
色々な意味で汗だくな飼い主と、「ちょっとマシになったわ〜」とでも言いたげな犬の背中。
あれはきっと、数時間後に「早く帰ろうよ」と言う私と、「まだ〜!」とはしゃぐ娘の姿だった。
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