悪役|ショートショート
彼は、悪役だった。
邪悪な笑みを浮かべ、主人公を最後まで苦しめた。
舞台の上の彼のことが、大嫌いになった。
主人公がようやく悪役を倒し、舞台は幕を閉じる。
プログラムは、カーテンコールにうつった。
悪役だった彼も舞台袖から現れる。
私は彼の表情に驚いた。
あんなに邪悪な笑みが嘘だったかのようだ。
彼はやわらかく微笑み、観客に向けて手を小さく振っている。
私は、完全に心を奪われた。
その時から、彼の出ている舞台に通い詰めるようになった。
彼は、いつも悪役だった。
舞台の上の邪悪な笑み、カーテンコールの照れ笑い。
その変化が、愛おしくてたまらなかった。
ある日、劇場のスタッフから手招きをされた。
なんと、彼が私に会いたがっているのだそうだ。
控室にいた彼は、やわらかい微笑みを浮かべていた。
「いつも見に来てくれるね。まあ……お茶でも飲んで」
私はすすめられるままにお茶を飲んだ。
ガチャリと、外側から鍵がかかる音がする。
急に、強烈な眠気に、襲われた。
危うく、倒れそう、なところを、抱きかかえられる。
彼の、表情は、霞んで、よく、見えなかっ、た。
(了)
読んでいただき、ありがとうございました。
「 #毎週ショートショートnote 」に参加させていただきました。
田原さん、いつもありがとうございます✨
今回のお題は、「 #急性カーテンコール中毒 」です。
語り手がカーテンコール目的に舞台に通い詰めるところで「急性カーテンコール中毒」を表現してみました。
個人的に「悪役がオフの時はいい人」みたいなのが大好きなのでこんな話を作ってしまいました。この彼がどうなのかというのはご想像にお任せします。私は好きです。
引き続きよろしくお願いいたします。
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