お地蔵様はトップセールス
去年書いたエッセイ「鈴虫寺とベネフィット」の改稿版です
読んだことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、お付き合いいただけますと幸いです。
チャンスの女神様には前髪しかない、と言われる。
いやどんな髪型やねん。
それは置いといて。前髪を掴め!……というのは、すなわち「チャンスだと思ったら早めに動け」という意味らしい。
でも、いくらチャンスの前髪でも、掴みすぎるとちぎれてしまう。
力みすぎてはいけない。
前髪のせいで友達を作るチャンスを失った、私からのアドバイスだ。
*
高校の入学式前日、私は鏡の前で睨めっこしていた。
高校デビューを目論んでいたのだ。
そのためには、伸びすぎた前髪を切らなければと思ったのである。
私は、前髪があった方が可愛いタイプの人間だ。今までは親に切ってもらっていた。でも、明日から高校生だし、自分で前髪を切れるようにならなければ。
すでに前髪とは言えない長さの髪を左右から取り出す。一時的に顔全体が髪に覆われた。前髪と思われる位置にある髪を一握りして、おおまかにハサミでざっくりと切ると、視界が開けた。既に目の上まで前髪が来ている。この髪を揃えていけばいいのだな。
しかし、揃えるのはなかなか大変だ。少し長いところを切ったら、別のところが長くなる。そうやってちょこちょこ切っていくと、少しずつ、全体が短くなっていく。
よし、揃った!
改めて鏡を見て、私は青ざめた。
あまりにも短すぎる。
眉毛より3cmも上。前髪は額に張り付いており、およそ可愛いとは言い難い。私は泣きたくなった。前髪は、短くすることはできても、長くすることはできないのだ。
せめて1週間前とかに切っとかんかい!
私の高校デビューは、短すぎる前髪で始まったのである。
翌朝、高校入学式の日。
真新しい匂いの制服、そして短すぎる前髪で、親に伴われて式に出席した。
ちなみに母は前髪を見ると笑い転げていて、それがますます私の心を暗くした。式の最中は人差し指と中指で、前髪を引っ張って過ごした。少しでも、伸びてほしかったのだ。
式が終わり、新しい1年生の教室に入ると、新クラスメイトの女子が隅に固まっている。元々男子校だったところを数年前に共学にしたばかりの高校なので、女子の数は少なかった。この小さいかたまりが、このクラスの女子の全てだ。ここで、友達を作らなければならない。
女子のかたまりに自分を沿わせた。同じ制服、かたまりの一部になれる、そう思っていた。私は隣にいる女子に聞いた。
「中学校どこ……?」
「あ、うち茨木……」
「へ……あ、そうなんや、私、豊中……」
「へー……」
会話に、空気抵抗が生じている。そういえば、小学校から中学校に上がるときはほぼ持ち上がりだった。知り合いを介さない、全く新しい出会いは正直初めてだ。それにしても、同世代の女子同士で、こんなに会話が弾まないのだろうか…
私はあることに気づいて、ものすごく恥ずかしくなった。彼女の目線が、私の目よりも少し上、すなわち前髪に向いている。
この子、絶対前髪おかしいって思ってるやん。そう思うと、何も話せなくなった。私はすごすご引き下がって、前髪を手で押さえた。私は、教室の端っこの、さらに端っこに寄った。できればカーテンに隠れたいぐらいだった。穴があったら入りたいというのはこのことか。
女子というのは化学反応のように似たもの同士でグループになってそのグループ同士は固まってしまう。前髪の短い私はそのどれにも入れなかった。授業などで入らなければならないときはやむを得ずどこかのグループに入れられ、そこでもやんわり迷惑そうな顔をされている気がした。
高校生活最初の遠足でも、同じだった。
私たちの行き先は、京都の嵐山だった。
集合場所に集まると、私と同じ班の人たちが来ていた。制服とは違う、それぞれ少し華やかな私服姿で、三人で固まって談笑している。その話題に私も入れないことはないものの、私と彼女たちの間には透明な壁があるように思った。聞こえるような聞こえないような挨拶をして、私は彼女たちから離れた。
私だって、何も対処法を考えてなかったわけではない。レモン味の「ピュレグミ」を持ってきていたのだ。それを「どうぞ」すれば、きっと一言ぐらいは会話が生まれるだろう。
目的地に向かう電車を待つ間、私は、カバンから黄色いピュレグミの小袋を取り出して、三人の方に寄って言った。一人が、怪訝そうな顔をしているのも気にしながら、私は口を開いた。
「あ……あの、ピュレグミ一つ、どうっすか……? あはは」
三人はそれまでの会話を止めて、顔を見合わせた。一人の、少し背の高い女子が苦笑しながら、答えた。
「あ……今は……お腹いっぱいやし、大丈夫……」
「そ、そうやね、ごめん」
私は、三人から素早く離れた。ものすごく恥ずかしくて、耳まで熱くなってしまった。前髪を薫風が揺らす。切りすぎた前髪は、1ヶ月も経つとおかしくない水準にまで伸びてきた。それなのに、一度できたグループの絆はこんなにも固くて、私は自分でピュレグミを一つ、口に放り込んだ。ざらざらして、酸っぱかった。
私たちが向かったのは、鈴虫寺だ。鈴虫寺の正式名称は、華厳寺。嵐山で人気スポットの一つだ。私は下調べもせずにただ三人についていったので、入り口の石段にまで行列ができている理由がわからなかった。
しかし、お寺の中に入り、お坊さんの話が始まると、その理由がわかった。
和尚さんの「説法」がとにかく面白い。説法という言葉から想像できないほど、やわらかな漫談だった。聞いている人たちからは度々和やかな笑い声が上がった。
その説法の中で、鈴虫寺のことが自然にわかってきた。
一つは、鈴虫寺と言われる由来。この寺では、たくさんの鈴虫を飼っており、通常は秋にのみ鳴く鈴虫が、一年を通して鳴いているのだという。並んでいる時からずっと、チリーンリーンという音が鳴っていたが、それは鈴虫の声だったのだ。鈴虫が一斉に鳴くと、トライアングルだけでアンサンブルをしているような、清らかな騒がしさとなる。
そして、鈴虫寺、最大の人気の理由も教えてくれた。
「うちには、草鞋を履いたお地蔵様がいるんです。願いを叶えてくれますよ。願い事とご自身の住所を心ん中で唱えてください。個人情報ですから、口に出したらダメですよ」
飄々とした言い方に、大きな笑い声が起こった。私も笑ってしまった一人だ。今までの人生で「神頼み」は時々したことはあるものの、住所まで伝えるのを聞いたのは初めてだ。しかし、住所を伝えることで、なんだか確実に願いを叶えてくれそうな気がした。
説法が終わり、お地蔵様の前に行くまでも行列だった。私はまた、一緒にきた三人と少し距離を空けて並んだ。三人は「どんな願い事する?」と会話をしていた。私は、一つ願い事を決めた。
自分の番が来た。目の前で、小さなお地蔵様が微笑んでいる。私は教えられた通りに、お地蔵様の前で手を合わせて目を閉じた。
(お地蔵様……ここにいる三人と……友達になりたいです。住所は、大阪府……)
住所を言い終わって、顔を上げた。他の三人も願い事が終わったようだ。どんな願い事をしたのだろう。気になったけれど、やはり聞けなかった。
遠足の帰りも、遠足が終わった後も、三人との関係性は特に変わらなかった。「所詮、神頼みやん」と自分を納得させた。
ほどなくして、中間テストが返却された。
成績上位者を発表する際、一人の教師が「はて」という顔をしていた。
「えー……あんまり勉強できるイメージなかったんやけどね、へートップなんて意外やわあ……」と、言いながら私の名前を続けた。こら。
しかし、どの教科の上位者でも、私の名前が呼ばれた。中学の時の成績もパッとしなかったのに……理由はすぐに思い当たった。あんまり友達がいなすぎて、休み時間勉強しかすることがなかったのだ。
名前を呼ばれながら、気まずくなった。「テストの点数がいい」という称号は、あまり名誉に思えなかった。友達もいないのにこんなところで目立ちたくない。頼むから名前を呼ばんといて、と訴えたいぐらいだった。
しかし、周りは好意的に反応してくれた。
「頭良かったんや」
「そうは見えんのに」
前髪短いのに……ってやかましいわ。
やがて、鈴虫寺に一緒に行った三人のうちの一人……ピュレグミを断った女子、が、休み時間に私に話しかけてきた。
「なあ……ノート貸してくれへん?」
初めて私の目を見て話しかけた。鈴虫寺のことを思い出して、心臓が跳ねた。私はノートを渡しながら、しかし、なんだかもどかしく思った。確かに、話しかけてくれたけれど、なんだか便利に使われているだけやんか。願いの叶い方って、こんな感じなん? お地蔵さん、それはあんまりやわ……虚しさを押し殺しながら、にこやかにノートを渡した。
数日後、彼女はノートを返してきた。
「ありがとう。めっちゃわかりやすかった」
「うん、ありがとう」
「なあ……自分、兄弟、っておるん?」
唐突な質問に驚いた。彼女の質問の意図がわかりかねてしまう。
「弟おるけど…..なんで?」
すると、彼女は、はにかんだように少し俯いた。
「もっと知りたいねん」
私は、それから、彼女だけではなく、鈴虫寺に同行した三人と話すようになった。最初にできた三人の絆は固くて、三人プラス私、という感じだったけど、それぞれの子たちとも手紙のやり取りをしたり、本の貸し借りをしたりするようになった。皆、以前のよそよそしさが嘘だったかのように、仲良くしてくれようとしているのを感じた。
話してくれた女子とは二人で一緒に遊びに行ったりするようにもなった。ま合わせて開口一番こう言われた。
「会えるん楽しみで眠れんかったわ」
「そ…..そんなに!?」
私は、鈴虫寺の「ご利益」を強く感じたのだった。
*
高校二年生になった。鈴虫寺の三人とは全員クラスが離れてしまった。しかし、二年生になると、比較的容易に新しい友達を作ることができた。ある程度選択授業などでお互いの顔は知っているし、自分の前髪も、念の為、母親に切ってもらったからだ。
新学期の教室に座っているだけで、二人から話しかけられた。
「なあ、勉強得意なんやって?」
初手でいきなり言われると照れてしまう。ただ、二人はなんだか自分と波長が合うような気がした。彼女たちとはすぐに仲良くなった。
紗羅(仮名)は、常に学年トップの成績で、しかも容姿も整っている完璧さなのに、どこか天然なところもある愛らしい子だった。もう一人の友達、夏希(仮名)はおっとりとしていて、ピアノがすごく上手な子だ。夏希は1年生の時から、休み時間に綺麗な音色を響かせていたので気になっていた。
「今度、京大のオープンキャンパス行かへん?」
それは紗羅の提案だった。沙羅の成績なら京大も狙えるけれども、私は定期テストの成績がいいだけの凡人だ。それでも京都へ行く、という提案を聞いて、私は去年のことを思い出した。
「オープンキャンパスの後、行きたいところがあんねんけど……」
それこそが、鈴虫寺だった。あの願いの叶い方を見ると、どうしてもご利益を考えざるを得ない。私は二人に去年あったことを話した。
「ここで合格祈願したら、絶対受かるって!」
私は二人と連れ立って、1年ぶりの鈴虫寺に訪れた。夏の鈴虫寺は、蝉の鳴き声と共鳴しあって、前に来た時より迫力があった。
今年は、メンバーは違えど、談笑しながら並べていることを嬉しく思えた。
やがて私たちの番が来た。
お地蔵様は、相変わらず小柄で、微笑んでいた。私はまた、手を合わせて目を閉じた。
(去年は、お陰様で友達ができました、ありがとうございました……今回は、京大に、行きたいです! 住所は、大阪府…..)
お地蔵様の微笑みが、苦笑いに見えた。
オープンキャンパスに行って学食の「とろろ冷やし茶そば」を食した私は、無謀にも京大を目指したくなったのだ。去年の願いを華麗に叶えてくれたお地蔵様なら、この願いも聞き入れてくれそうな気がした。
しかし、この私の欲深さが最悪の結果を生むことになる。
京大は、受からなかった。というか、受けなかった。同じく京大を目指していた紗羅と、仲違いしてしまったからである。
きっかけは嫉妬だった。お互いが受験に向けて勉強している姿は、最初の頃は刺激されていたものの、自分がうまく行かない局面になると、途端に焦りに変わった。言葉が刺々しくなって、間に入る夏希を困らせた。勉強をしていると紗羅の顔が浮かんでしまう。彼女と同じ大学を目指すことにも嫌気が差すようになった。
結局、三年になると紗羅とも、夏希ともクラスが離れて、それっきりの友人関係になってしまった。
私は鈴虫寺のお地蔵様に過ぎたお願いをしてしまった。
そのせいで、希望する進路も、友達も失ってしまったのだ。
*
「そんなの、受けてないなら受からないのは当たり前じゃないですか」
10年も前になる高校生の時のエピソードを話したところ、上司は笑ってそう言った。
「そりゃそうですけど……」
「でも、別の大学に受かってここにいる。それってベネフィットじゃないですか?」
「出た! ベネフィット!」
「ベネフィット」という言葉は、私たちの仕事で頻繁に使われていた。住宅業界、その中でもマンションを紹介する、営業に近い仕事をしていた。好きな場所に建てられないマンションで、顧客の要望を完全に叶えるのは難しい。重要なのは、要望の「奥」だ。
顧客は、本当の要望を自ら言うことはできない。
例えば、広さ65平米以上、〇〇駅から徒歩5分、予算4000万円以内、という要望があったとする。でも、その奥には、「たびたび人が泊まりに来るから」「朝はゆっくり過ごしたい」「旅行資金をとっておきたい」など理想の生活があり、それは顧客の人となりによって変わってくるのだ。
その、顧客の要望の「奥」を叶えるのが「ベネフィット」だ。
部屋自体は65平米以下だけど、ゲストルームが備え付けてある物件、駅から15分歩くけれど、頻繁に来るバスで会社の目の前まで行ける物件、などベネフィットを叶えれば当初の要望と異なっていても、満足することができる。
だからこそ、顧客の要望の「奥」を知るために、丁寧にヒアリングをしなければならない。
度々開かれる研修で、そのように教わっていた。
「じゃあ……お地蔵様は、私の京大にいきたい……という要望の奥を探って、一番幸せになる方法を探してくれたってことですか……?」
「お地蔵様は、トップセールスなんですよ」
そう言って上司はまた笑った。上司は私の2つ年下で、同じ大学の後輩だった。私が転職して会社に入ったので、私が彼の部下だった。お互いに敬語を外すタイミングを失っていたが、それなりに親しく話していた。
「じゃあ行ってみましょうよ、鈴虫寺」
いやいや、何も上司と二人きりだったわけではない。普段福岡のオフィスで働いていた私たちは、大阪で開かれる営業部会に参加していた。大阪にいる上司の同期数人ともに、次の日を休みにして、京都散策をする計画を立てていたのである。
「やっぱり、元彼との復縁ですか?」
「うるさいなー黙っといて!」
私は、その1ヶ月前に彼氏に振られており、傷心だった。元彼は上司の友達でもあったので、付き合った報告も別れた報告もしていて、その度にカラっと笑っていた。私は別れたことをようやく受け入れられるようになりつつあったものの、ショックから立ち直るのには時間がかかりそうだった。
上司は……もし、上司じゃなくて大学の同級生だったら、きっと別世界の人だっただろう。運動神経が抜群で、話し上手で、友達が多い。悪く言えば、チャラい。でも、以前顧客とトラブルがあった時に電話をする前、自分が言うべき点を全て書き起こしていたのを目撃した……その時、なんともいえない彼の真摯さを感じた。あんまり書くと好きみたいだけど、そんなんじゃない。人として尊敬していた。それに歴代の彼女を写真で見せてもらったことがあるが、まるで芸能人並みの美女ばかりだった。私のような者が出てきていいわけがない。
……って好きとかそんなんじゃないから! ほんとだってば!
とにかく、上司と、その同期たちと数人で鈴虫寺に向かった。
薫風が前髪を揺らす。相変わらず、前髪は作るタイプだ。前髪があった方が若く見られるから……理由が切実になってきた。鈴虫寺を訪れるのが三回目である私は、「お地蔵さんの願いを言う前に、和尚さんのありがたいお話があります。」と説明した。
「俺はいいかな、ありがたい話とかいらないから願い事したい」
私はもどかしさを覚えた。
「そう言わず、聞いてみてくださいよ。面白いんですから」
相変わらず和尚さんの「説法」は面白かった。私は説法を聞くのが十年ぶり三度目なのだが、柔らかい語り口のユーモアに、「そうそう……この感じ」と懐かしく思った。上司の顔をみると夢中で聞き入っている様子だった。
説法が終わり、お地蔵様に向かう行列の中で、上司は言う。
「いやー……間違ってました。ありがたい話、すごい面白かったです。」
「ほら私の言うとおりですよ」
やがて私たちの番が来た。
10年ぶりのお地蔵様は、心なしか小さくなっているように見えた。私はまた、手を合わせて目を閉じた。
(お地蔵様…..おかげさまで、今なんとか働けてます……ありがとうございます……今回は、この前別れてしまった元彼と、復縁したいです!……住所は、福岡県……)
そして目を開けた。
周りを見回して私は驚いた。
元彼との復縁のために、結構長く目を閉じていたはずだが、上司はそれよりもずっと長く目を閉じて願い事をしていた。固く目を閉じており、願い事というより、祈りのようだった。
何を願い、祈っているのだろう。
はたと、思いあたった。
上司の、ご家族が病気を患っていること。
その話をするとき、顔が少し曇ること。
「大丈夫ですから」って、自分に言い聞かせるように、言うこと。
もしかしたら、そのことではないかもしれない。
けれども、私は、たまらなく恥ずかしくなった。
何が……元彼だ。
もう一度手を合わせる。
(すみません、お地蔵様、変更いいですか……?)
お地蔵様が、戸惑った顔をしていた。多分気のせいだと思うけど。
(わたしの願い事は、やっぱり結構です。上司の願い事、叶えてください。住所は……上司に聞いてください。)
そんな変更が効くのかわからないけど、とにかくもう一度心の中で唱えた。
あんなにこだわっていた元彼のことが、急にどうでもよくなってしまった。
やがて私はその職場を離れた。
上司がどんな願い事をしたのか、その後、願いは叶ったのか。
ベネフィットがあったのか、私にはわからない。
Facebookで確認したら、新しい事業を立ち上げている上司の姿があった。相変わらず、チャラいな。苦笑いして画面を閉じた。
私は全然別の人と結婚して、今子供がいる。「元彼との復縁」との要望の奥にある、「パートナーを見つける」というベネフィットは、叶ったのではないだろうか。
でも、今考えると、お地蔵様は本当に即効で願いを叶えてくれた。
あの時、元彼と、本当は復縁なんてしたくなかった。
ただ、別れが辛かった。
本当は、どうでも良くなりたかった。忘れたかった。
それが、祈る上司の姿を見て、一瞬で忘れた。
お地蔵様はきっと、トップセールスに違いない。
*
チャンスの女神様には前髪しかない、と言われる。
いやどんな髪型やねん。
それは置いといて。前髪を掴め!……というのは、すなわち「チャンスだと思ったら早めに動け」という意味らしい。
でも、いくらチャンスの前髪でも、掴みすぎるとちぎれてしまう。
力みすぎてはいけない。
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