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長距離恋愛販売中〜伝説のマーケター〜

T村の奥地にある単線鉄道は、赤字が続いていた。
今までにも、地元のTV広告、T村PR、ゆるキャラ「TT姉妹」、「TT煎餅(紅茶味)」…さまざまな施策を打ってきた。

だが、施策は一時的に話題になるもの、すぐに下火になってしまう。
鉄道は、村人の足だ。
廃業させるわけにはいかない。
背に腹は変えられぬ。
なけなしの予算を投入して顧問として迎えたのが、テーマパークの業績をV字回復させ「伝説のマーケター」と呼ばれた有岡氏であった。

有岡氏は、鉄道社の社員を集め、こう言った。
「モノじゃない、コト、つまり体験を売るんです。」

そして、有岡氏はいきなり手を振り出した。
「たとえば、さよ〜なら〜…の提供、なんてどうですか?」

社員が戸惑う中、有岡氏は続けた。
「古い映画とかでよくある…カップルの片方が遠くに行っちゃう時、走って追いかけるシーン!それを、カップルや夫婦に『体験』として提供するんです。」

その案はすぐに採用、【長距離恋愛体験サービス】として1日1組限定、30万円で販売された。

高額だが、倦怠期のカップルや夫婦、婚活中の男女に利用された。
離れてしまう苦しみを体験し、パートナーへの愛情を再確認できる、と話題になり、予約は3ヶ月先まで埋まった。

そして、この【サービス】によって鉄道はV字回復。
T村は「カップルの聖地」としてホテルや結婚式場が建ち、村全体が活性化した。


有岡氏の顧問契約最終日。
彼は、社員一同から渡された花束を抱えて、一人で帰っていた。
一面の田畑にはおよそ似つかわしくない、紺色のスーツ姿。

その背中に、私は声をかけた。

「有岡さん…この【サービス】使って、帰りませんか?」

(了)


この作品は、田原にかさんの「 #毎週ショートショートnote 」に参加して書いたものです。お題は#長距離恋愛販売中でした。


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