平素よりオセアニアってる課長|ショートショート
幹帝商事の営業誤課…失礼、営業五課の人員は揃いも揃って誤字だらけで、クライアントからのクレームや失笑が絶えなかった。
「このままでは、会社全体の信用失墜につながってしまう。何か手立てはないものか…」
社長・幹帝が頭を抱えていたそのとき、舞黒ソフトというシステム会社の営業マンが訪ねてきた。
「社長。こちら、私どもが開発したAutoLookというメールソフトです」
「Outlookは今使っているが、Autolookなのか?」
「ええ。性能はほぼOutlookと同じではありますが、一つだけ異なる点があります。それは、誤字をした人は自動的に、その誤字の姿になります。誤字の抑止力は抜群ですよ?」
「なるほど…」
「誤字の抑止力」、これこそが幹帝が求めていたものだ。特に、あいつらの…。
「わかった。ではうちの営業五課から、試験導入してくれ」
*
「チワッス」
営業五課の部屋に入ってきたのは、スカジャンを羽織った、俳優のように端正な顔立ちをした若い男だった。
「君、どうしたのかね…その格好は…営業にふさわしくないではないか」
課長が咎めようとするが、彼は得意気だった。
「俺、返信不要を変身不要って書いちゃって。どうやら仮面ライダーに変身不要な程のイケメンになったみたいですねっ」
彼はウィンクした。課長はため息をつく。元々はこんな姿ではなく、もっと真面目な男だったのに…。
「そういう課長の方が、変ですよ?格好」
彼にそう言われて驚いた。自分の手や顔が、灰色の毛でびっしり埋め尽くされているではないか。
鏡を見て、課長は戦慄した。なんと、自分の姿がコアラになっている。
「課長〜なんて誤字っちゃったんですか〜?」
「うるさい。今から調べる」
自らの送信履歴を確認して、課長は呻いた。
「平素よりお世話になっております」と書くべきところを「平素よりオセアニアっております」と書いてしまっていたのだ。
オセアニアってる課長がコアラの頭を抱えていると、近くでカタカタ、と鳴る音がした。音のする方を見ると、なんと角煮の乗った皿が揺れている。
「あなたたちはまだいいじゃないですか〜私なんて、角煮ですよ!角煮!」
皿の上から、あの新卒女子の声が聞こえた。
「君は、なんの誤字だったんだ?」
「あ〜んもう!確認お願いします…って送ろうとして、間違えて角煮お願いしますって書いちゃったんですよ〜」
「そんなことだろうと思った」
オセアニアってる課長は頷いた。
しかし、こんなことでは仕事にならないだろう。
「よし、今日は早めに仕事を切り上げて、飲みに行くか。誤字…いや、5時にいつもの居酒屋に集合だ」
「わ…私、間違えて食べられないですよね?」
「それもそうだな…角煮は頼まないようにしておこう」
変身不要のイケメンがはしゃいだ。
「飲みたいですね〜終末ですし!」
その瞬間、空には暗雲が立ちこめた。
…オフィスにいる三人(?)には知る由もないことだが。
(了)
田原にかさんの「 #毎週ショートショートnote 」に参加しました。今回のお題は「 #誤字集合 」でした。
誤字に関するショートショートは前も作ってました。
また、オフィスを舞台にしたお仕事小説書いてます
改めまして、読んでいただきありがとうございました!
コンゴ…いや、今後ともよろしくお願いいたします。
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