10点満点でいうと何点ですか?~NRS(数値的評価尺度)を超える問診~
うなぎ先生です。
ところで、これをお読みの方の
「今日のご機嫌は、10点満点で何点ですか?」
この質問「10点満点で何点?」は、
医療従事者の皆さんであればご存知の
NRS(Numerical Rating Scale)
VAS (Visual Analogue Scale)
で使われる質問ですよね。
僕も臨床でよく使います。
「今の痛みは0から10の間で言うといくつですか?」
という質問ですね。
僕も新人の頃は
「今の痛みは0から10の間で言うといくつですか?」
といきなり、教科書通りの聞き方をしてました。
すんなり答えてもらえる時もあるのですが、
こちらの意図が伝わってないと、
ズレや誤解が生まれたり、患者さんを戸惑わせてしまいます。
「ゼロって痛みが無いこと?」
「普段から常に痛いからなぁ。それと比べたら今は2~3かな?」
「突き指も痛かったし、虫歯も痛かったし、何と比べて?」
みたいに問診がスムーズにいきませんでした。
そんな時に先輩の先生(問診の達人だった)から
とアドバイスを受けました。
「うなぎくん、好きな食べ物なに?」
「牛丼です」
「牛丼は10点満点で何点?」
「え?」
(まず、そんなこと考えたことないし)
「じゃあ、どこの牛丼が好き?」
「すき家です!」
「じゃあ、すき家の牛丼を10点としたら、吉野家の牛丼は何点?」
「う~ん、難しいっすね。
すき家はトッピングが豊富だし、吉野家は老舗の味の深さがあるし…」
「そんな細かいことは要らない」
「えっと、すき家を10点としたら、吉野家は僕の好みでは8~9点ですかね」
「…っていう風に、患者さんに基準をつくってあげなきゃ」
人の脳は絶対的判断よりも、相対的判断が得意です。
「〇〇と比べて」という基準を作ると答えやすい。
だから問診の時も
「前フリ」をしてあげると、
患者さんは数字を出しやすくなります。
「10は、今まで経験した痛みの中で
一番強かったものだと思ってください」
「以前、動けないほど痛かった時を10としましょう」
「虫歯のズキズキした痛みを10としたら…」
こんな風に、
基準をこちらから手渡してあげると、
患者さんは「正解を探す」状態から抜け出せます。
NRS、VASを使った
「10点満点で何点?」
の質問は、ほとんどの治療家の方が使っていると思います。
痛みの評価としても、
回復の目安としても、
NRS(数値評価尺度)としても、
これはもう“定番中の定番”でしょう。
患者さんも答えやすいし、
こちらも経過が追いやすい。
とても便利な質問です。
ただ、僕はずっと
頭の中にモヤモヤしたものがあったんです。
「これだけじゃ単なる情報収集にしかならない」
「もっと治療に生かす工夫の余地はないか?」
それで、色々考えて、試行錯誤を繰り返しました。
その結果、
たったひと言追加するだけで、
劇的に「臨床が変わる方法」をみつけたんです。
患者さんが数字を答えた、その“次”に、
もうひとことだけ足せばいいだけ。
やっていること自体は、
本当にシンプルです。
新しい検査も、
難しい理論も、
特別な心理テクニックも使いません。
でも、このひと言を入れるようになってから、
問診の空気が変わりました。
治療の進み方も変わりました。
そして何より、
患者さんの立ち位置が変わったんです。
それまでの
「評価される側」「診てもらう側」だった患者さんが、
少しだけ前に出てくる。
治療家が一方的に
「良くなってますね」「まだですね」と判断する構図から、
「次はどこを目指しましょうか?」
という“共同作業”の構図に変わる。
NRSやVASを
単なる言葉のやり取りで終わらせない。
治療の“素材”として使い切る。
そのための、
たったひと言。
それは…
「10点満点で言えば何点?」と聞いて、
患者さんが
「〇点です」と答えた後に、
「じゃあ、合格点は何点ですか?」
と聞くだけ。
すると、今まで見えてなかったものが
見えてきます。
合格点を聞くと、何が分かるのか?
たとえば、
「今の状態は、10点満点で何点ですか?」
と聞いて、患者さんが
「6点ですね」
と答えたとします。
この「6点」を
どう判断します?
大学や専門学校のテストだと「60点」だと赤点にはならないけれど、
その患者さんの「6点」は
合格でしょうか? 不合格でしょうか??
患者さんは、今の状態に
満足している? それとも満足できていない?
「合格点」を追加で聞くことで、
患者さんが、今の状態を
どう考えているのかが分かる。
もしも、患者さんの考えが、
「今の状態は6点、合格点は4点」だとしたら、
満点は10点だとしても、
患者さんは現状に満足している可能性が高い。
「今の状態は6点、合格点は9点」だとすると、
患者さんは現状を「まだまだ」と思っている。
そういう患者さんの頭の中にある
「解釈モデルのピース」のひとつが見えてくるわけですね。
そしてもし、
「現状が合格点に足りてない」のであれば、
「何を足したら合格点になりそうですか?」
「合格するためには何が必要でしょうか?」
と、患者さんを巻き込んで
治療にさらに参加してもらうように出来るわけです。
治療家のゴールが患者さんのゴールじゃない
治療家って、
無意識にゴールを決めがちです。
痛みが0になる
可動域がここまで戻る
検査が陰性になる
もちろん、
それは専門家として大切な視点だと思います。
でも患者さんは、
必ずしもそこをゴールにしていないかもしれません。
「家事ができればいい」
「旅行に行ければいい」
「不安なく眠れればいい」
合格点を聞くことで、
患者さんの“現実的な目的”が見えてくる。
そしてここから、
治療は一気に「一緒に作るもの」になります。
合格点を聞くと、治療がラクになる
合格点を聞かないままだと、
治療家のゴール
患者さんのゴール
この2つが、
ズレたまま走り続けることになりがちです。
すると、
「ちゃんとやってるのに、満足されない」
「なぜか次につながらない」
という、地味にしんどい状況が生まれる。
合格点を聞く、というのは
評価のためではありません。
ゴールを共有するための質問なんですね。
「やってあげる治療」から「一緒に進む治療」へ
「今は何点ですか?」
は、現在地を知る質問です。
「合格点は何点ですか?」
は、行き先を決める質問になります。
この2つがそろって、
はじめて“行き先”を見て治療が始まります。
治療家が前を歩いて、
患者さんが後ろからついてくる構図ではなく、
横に並んで、同じ方向を見る。
そのための、
とてもシンプルな一言です。
【問診力】を上げてみたい方は、こちらのシリーズを読み進めてみてください。
