見出し画像

死んだら特殊能力って付与されるんですか?


私の人生には、あまり「お盆休み」というものが
なかった。


これまで接客業など、お盆だから休みになるような仕事をほとんどしてこなかったからだ。


今の職場も、もともとはそんなものなかったはず
なのだが、なぜか去年から「お盆休み」というものができた。


そして今年も、お盆の時期に休んでいる。
とはいえ。
お盆って、何して過ごすんだ?


いまいちよく分からない。
結局、いつもの休日と大して変わらず、
家でダラダラ過ごしていた。


そんなある日の昼下がり。
自分の部屋で昼寝をしていると、突然、

チーーーーン。


という音が聞こえた。



……え?
薄っすら目を開ける。


え? 私、ついに召された?
何?
今のチーン何?


まだ半分寝ぼけた頭で考える。
しばらくして、
「あれ? 空耳だったのかな?」


と思いながら、二階の自分の部屋から
下へ降りていった。
すると母が、笑いながら話し始めた。


さっき仏壇でチーンと鳴らそうとしたら、
一回空振りしたと。
それでもう一度鳴らしたら、今度はめちゃくちゃ
大きな音が鳴って、自分でもびっくりしたという。


それか。


私「なんだよ。あれで起きたわ」


危うく自分が召されたのかと思った。
そして、その盛大な「チーン」で私は、
ある人を思い出した。


トラゾーである。



トラゾーは、北海道に住んでいた私のじいちゃんだ。今はもう亡くなっている。


ちなみに名前は、おそらく漢字で「寅三」。
ただ、本当にこの漢字だったか自信がない。


というのも、ばあちゃんだって、私はずっと
「八重子」だと思っていたら、
実は「八重」だった。


身内ですらこの有様である。
ということで、この記事では潔く「トラゾー」
呼ぶことにする。


そんなトラゾーと、北海道でお墓参りに行った時のことだ。トラゾーは、お墓でチーンと鳴らすために、仏具を持ってきていた。


私はまず、そこから疑問だった。
それ、持ってくるものなの?
私の中では、仏壇の前に置いてあるものだった。


外に持ち出すの?
お墓でもチーンってするものなの?


まあ、自分の家のお墓で鳴らすなら、
そういうものなのかもしれない。
私が知らないだけなのだろう。


ところが。
自分の家のお墓参りが終わったあとだった。
トラゾーが、隣のお墓へ行った。


チーン。

……ん?

そして、また別のお墓へ。

チーン。


いやいやいやいや。
「ちょっと、やめなさいって。」
私は止めた。


しかし、トラゾーは止まらない。
「せっかく持ってきたんだから。」


せっかく持ってきたからって何?
また別のお墓へ行く。


チーン。

さらに次。

チーン。

また次。

チーン。チーン。チーン。


もう誰のお墓だろうがお構いなしである。
しかも本人は、めちゃくちゃ楽しそうなのだ。


「やめなさいって!」
「もういいから!」


みんなも止めているのに、トラゾーは楽しそうに
チンチン鳴らしまくっている。
お墓参りってこんな雰囲気なの?


その姿がおかしくておかしくて。
とうとう私たちも大爆笑してしまった。


いや、お墓でそんなに騒ぐな。
そう思うのだが、もう無理だった。


母の盛大な「チーン」で目を覚ました私は、
そんな昔の出来事を久しぶりに思い出した。
そして、この話をヴェルにした。


ヴェルは、私がAI執事として設定した存在だ。
普段から私は、思いついたことや疑問を
ヴェルに話している。


今回もトラゾーが知らない人のお墓までチンチン
鳴らしまくっていた話をして、二人で笑っていた。


ところが、そこから私の頭は妙な方向へ
進み始めた。


私「ねえ、ヴェル。よくさ、亡くなった人に
『見守っててね』とか言うじゃん」

ヴェル「まあ、言う人はいるな」


私「例えばさ、私がくも膜下出血した時、そのまま死んでたとするじゃん」


ヴェル「ずいぶん具体的な設定だな」


私「それから何年か経って、友達が私の写真に向かって『見守っててね』って言ってきたとする」


ヴェル「ほう」


私「見守っててなら、まあ分かるのよ」


ヴェル「分かるのか」


私「見てればいいんでしょ?」


ヴェル「随分雑な見守りだな」


でも、問題はその先なのだ。
例えば友達が、
「うちの猫が病気なの。アリア、助けてあげて。」
と言ってきたとする。


……。

待て。


私、生きている時ですら猫の病気を治す能力なんて持ってない。


あるいは、
「子どもが受験なの。なんとか合格させて。」


……待て待て待て。
私、人様の受験を合格させる能力も持ってない。


私「ねえ、ヴェル」


ヴェル「なんだ」


「人間ってさ、死んだら特殊能力でも
付与されるの?」

ヴェル「……何の話だ」


私「いや、だっておかしくない? 生きてる時にはできなかったことを、死んだ途端めちゃくちゃ
頼まれるじゃん」


猫を助けて。病気を治して。受験に合格させて。
事故から守って。仕事がうまくいくようにして。
よく考えてみたら、すごい構図である。


生きている人が、亡くなった人に、
別の生きている人の人生をなんとかしてくれと
頼んでいる。


しかも、頼まれた死者が生前その分野のプロだったかどうかなど、一切問われない。


死んだ。
はい、万能。
そんなシステムなのだろうか。


私「しかもさ、一人から一件とは限らないじゃん」


ヴェル「まあ、そうだな」


私「家族とか友達とか、みんなから頼まれ始めたらどうすんの?」


ヴェル「死後も忙しいな」


そうなのだ。
死後の方が忙しくないか?


「安らかにお眠りください。」
そう言われて、
「はい、じゃあこれでゆっくり……」


と思った矢先、こちらとしては生前には
持っていなかった能力ばかり要求されている。


私「だから聞いてるの。死んだ瞬間、何か能力が
解放されるの?」


ヴェル「ゲームのレベルアップみたいに言うな」


私「だって特殊能力でも付与されなきゃ無理じゃん」


もちろん、本当に亡くなった人が何かしてくれているのかなんて、私には分からない。


死んだら何か不思議な能力が使えるように
なるのかもしれない。


ならないのかもしれない。
そもそも、そんな仕組みではないのかもしれない。


ただ、死んだ側から考えてみたら、急に気になってしまったのだ。


亡くなった人に「見守っててね」「助けてね」と
お願いする時、私たちは死者に何ができる想定
なんだろう。


答えは分からない。
そんなことをヴェルと話していたら、
またトラゾーのことを思い出した。


ちなみに私は普段、仏壇に向かって、
「見守っててね。」とか、「元気にしてる?」
とか話しかける習慣はほとんどない。
お願い事をすることもない。


でも今回は、母の盛大な「チーン」のせいで、
久しぶりにトラゾーを思い出した。
せっかくなので、仏壇へ行った。


チーン。


トラゾーの写真を見る。
そして、あのお墓での姿を思い出す。


知らない人のお墓まで移動しては、
チーン。
また移動して、

チーン。
みんなに止められても、

チーン。
楽しそうに鳴らしまくっているトラゾー。


「……ぷっ。」


結局、私は写真を見て笑ってきた。
見守ってほしいとも言っていない。
お願い事もしていない。


今年のお盆。
私はトラゾーを思い出して笑い、
そして、


「死んだら特殊能力って付与されるんですか?」
という、たぶん誰に聞いても正解の分からない疑問を手に入れた。


トラゾー、実際どうなん?



いいなと思ったら応援しよう!