【掌編小説】|猫の美術館へようこそ

「たま子。今日は一家で美術館へ行くでやんす」
猫は言った。
「美術館でやんすか」
「そうでやんす。猫にも教養が大切でやんす。画家の先生と向こうで待ち合わせをしているでやんす」
「画家の先生でやんすか」
「作品を案内してくれるそうでやんす」
猫一家は、猫町にある美術館へと向かった。

猫の美術館へと到着すると、入口の前でベレー帽をかぶった猫が待っていた。

「お待ちしていたでごんす」
「たま子。紹介するでやんす。画家の猫画太郎先生でやんす」
「猫画太郎でごんす」
「たま子でやんす。よろしくお願いしますでやんす」
「ささ、行くでごんす」
猫画太郎の案内で、美術館の中へ入った。
猫画太郎は得意げに胸を張って、一家の前を歩いた。
「まずは、こちらを見てほしいでごんす」
猫画太郎は『モニャ・リザ』の前で立ち止まった。

世界中の猫を魅了する名画。なぜ微笑んでいるのかは今も謎のまま。
「この謎めいた笑顔が、世界中の猫を魅了しているでごんす」
「なぜ笑っているでやんすか?」
「秋刀魚を一匹多くもらったから、という説が有力でごんす」
「初めて聞いたでやんす」
「胸毛の毛並みが素敵でやんす」
次に向かったのは、ミケニャンジャロの『ニャダムの創造』だった。

二匹の猫の前足が触れ合う、その一瞬を描いた名作。「この瞬間、世界で初めて『にゃあ』という言葉が生まれた」という説が、猫町では有力である。
二匹の猫が前足を伸ばし、今にも触れそうになっている。
「二匹の前足が触れた瞬間、新しい命が生まれるでごんす」
「まだ触れていないでやんすね」
「その直前を描いたところが芸術でごんす」
続いて、フィンセント・ニャンゴッホの『種まく猫』の前へ進んだ。

カリカリの木が生えると信じて、今日も種をまく猫。まだ一度も実ったことはないが、本人はまったく気にしていない。
「今まいた種が、いつか大きな実を結ぶ。未来への希望を描いた作品でごんす」
「何の種でやんすか?」
「カリカリの木の種でごんす」
「そんな種があるでやんすね」
「タッチが力強いでやんすね」
クロード・モニャの『睡蓮と昼寝する猫』を見ると、猫画太郎は深くうなずいた。

水面に映る静かな景色と、穏やかな寝息。猫にとって最高の贅沢とは、何もしない時間なのかもしれない。
「猫には、何もしない時間が必要だと教えているでごんす」
「確かにそうでやんすね」
「帰ったらこの子たちと昼寝でやんす」
最後は、エドヴァルド・ムニャクの『叫ぶ猫』だった。

猫画太郎は、空っぽの餌バチを指した。
「餌バチに何も入っていない、猫の心の苦しみを表現した名作でごんす」
「確かにこれは苦しいでやんす」
「目の前の秋刀魚が突然なくなったら、こんな顔になるでやんす」
「さすが、作品に詳しいでやんすね」
たま子が感心すると、猫画太郎はさらに胸を張った。
「画太郎先生、ありがとうでやんす」
「ありがとうでやんす」
「どういたしましてでごんす」
「芸術はいいでやんす。勉強になったでやんす」
猫は満足そうに言った。
「今度、個人絵画展を開くでごんす。よければ来て欲しいでごんす」

「もちろん行くでやんす」
「ありがとうでごんす」
猫画太郎は深々と頭を下げた。
その時だった。
ベビーキャットカーの中から、「にゃー!」という元気な声が響いた。
三匹の子猫は、もらったパンフレットを仲良くかじっていた。
「あっ、それは作品集でごんす!」
猫画太郎は慌てて駆け寄った。
「芸術は、食べるものではないでごんす」
「子猫には、まだ早かったでやんすね」
猫は笑いながら言った。
たま子も、猫画太郎も、みんな声をあげて笑った。
これまでのお隣の猫シリーズはこちら😺

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