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サイテーな一日

 今日は最低な1日だった。
 学校で席替えをしたんだけど、なんと前々回と同じ席! 本当は違う席になるはずだったのに、後ろの山田さんが目が悪くて黒板が見えないから、私が替わってあげることになったのだ。1番前の席の子と替わればいいのに、なんで2列目の私になるのさ。先生は「AIで決めた」って言ってた。AIのバカバカ! くじ引きにすれば良いのに。
 一番嫌なのが、近くに騒がしい男の子たちのグループがあること。保育園が同じだった子同士で固まってて、本当にうるさい。2年生まではこんなに騒がしいグループはクラスに居なかったのに。
 この前、仲良しの莉菜ちゃんと並んで廊下を歩いていたら、その中の一人――私が一番苦手な子にいきなり怒鳴られた。
「邪魔なんだよ!」
 すごく怖かった。
 別の日には、同じクラスのこのみちゃん――身体が大きい女の子が、男子に「デブ!」って言われて少し泣いちゃった。「先生に言う?」って聞いたら、このみちゃんは、
「大丈夫。おおごとにしたくないから」
 と言って涙を拭いていた。男子って本当にサイテー。

 私は、お父さんとママと暮らしている一人っ子だ。
 お父さんとは、ほぼ毎日おしゃべりしながら一緒に登校してる。ママは朝が苦手で、昔一緒に登校したらママの支度が遅くて学校に遅刻したことがあった。朝の会が丁度始まるタイミングで、焦ってランドセルを仕舞いながらちょっぴり泣いちゃった。それ以来ママとは一緒に登校しないって決めてる。お父さんとはお休みの日にイオンに出かけてママには内緒でガチャガチャを回したり、公園で一緒に遊んだりするのが好き。
 ママは、お父さんみたいに一緒に遊んではくれないけれど、学校の悩み相談をしたり、寝る前や泣いちゃったときにぎゅうっと強く抱きしめてもらうのは、やっぱりママがいい。

 男子の「邪魔!」が怖かったときも、ママに相談した。
 ママは私の話を聞いて、
「それは怖かったね。嫌になっちゃうよね」
 と言ってから、こう教えてくれた。
「もしかしたらその男の子たち、お家とかで日常的に乱暴な言葉の中で暮らしているんじゃない? あなたは一人っ子だし、我が家はお父さんも穏やかな人だから、乱暴な言葉にほとんど免疫がないんだよ。だからびっくりしちゃうのも無理ないね。でもね、そういう男子ってママが子供の頃から決まっているのよ〜。あとあれ、授業中におしゃべりばかりする男子とかね。ほんとやーよね。ママも嫌いだった」
 ママにそう言われたら、私の心が少しだけ軽くなった。
 その後、学校の個人面談のとき、ママは先生にそのことを相談してくれたらしい。そしたら先生は、
「本人にとっては、『そこどいて〜』と言うのと同じような感覚で『邪魔!』と言ってるだけなんでしょうね」
 そんな風に言ったんだってさ。気にすることないって。
 さらにママはこんなことも言ってた。
「かっちゃんみたいなもんだと考えたら、気にならないかもよ?」
 私はそっかー! と思った。
 かっちゃんは、ヒロアカに出てくるすごく乱暴な男の子だけど、なんか、良いんだ。ママはかっちゃん推し。ちなみに私は緑谷(デク)と梅雨ちゃんが好き。確かに男子の「邪魔!」は、かっちゃんぽくはある。

 ……と、ここまでは前のお話。今日が最低だったお話の続きに戻る。

 放課後は、莉菜ちゃんと公園で遊ぶ約束をした。なのに、莉菜ちゃんが全然来ない。
 しょうがないから公園で1人鉄棒の練習をしたり、莉菜ちゃんのマンションの前まで行って待ってみたりした。それでも来ない。
 半分あきらめて、公園の近くの上林商店で算数ノートの買い物をした。お店を出たところで、莉菜ちゃんとバッタリ会った。
「遅いよ。どうしたの」
「ごめん、お姉ちゃんとケンカしてて遅くなっちゃったの」
「ケンカ? なんでさ」
「学校から帰ってすぐに出かけようとしたら、お姉ちゃんに『すずりと筆を洗ってから行きなさい』って言われてさ。『帰ってから洗う!』『ダメ、先に洗いなさい!』って、30分ずっと言い合いしてた」
「長くない!?」
「姉妹喧嘩ってそういうものだよ」
 ただでさえ今日は6時間授業で遊べる時間が短いのに、私たちはほとんど遊べずにバイバイすることになってしまった。最悪。

 家に帰ると、ママに「どうしたの? 不機嫌な顔して」と言われた。
 莉菜ちゃんの姉妹喧嘩の話をしたら、ママは大笑いした。
「長っ!その30分の間に、絶対余裕で筆洗えたよねえ」
 ママは続けて、保育園のときのお話をした。
「あなたと莉菜ちゃんが年長さんのときね、莉菜ちゃんのお姉ちゃんが、当時小学3年生だっかな?保育園にボランティアに来てて。お姉ちゃんが小さな子たちと一緒に遊んであげてたらね、莉菜ちゃん、『私のお姉ちゃんが取られちゃう!』って大泣きしたらしいよ。かわいいね」
「ふうん」
 兄弟姉妹って、なんだか大変そうだ。私はやっぱり一人っ子がいい。
 ママも昔、一人っ子に憧れてたから、私は一人っ子なんだって。

 またまた今日の悪い話に戻る。
 そんなこんなでもう時計は17時を過ぎていて、宿題が全然終わっていない。本当に最悪。
「先にご飯にするよ。テーブルの上片付けて」
 台所からママの声がした。テーブルに運ばれてきたお皿を見て、がっかり。
「今日もカレー? もう嫌だ。ねえ、なんでカレーのときっていつもたくさん作るの?」
「ママが大好きだからだよ、カレー」
「私はそんなに好きじゃない」
「私は大好きなの。好きなものは大量に作るの」
 ママは一歩も引かない。私はさらに口を尖らせる。
「だからって2日連続はおかしいよね。もしも学校の給食で2日連続同じメニューが出たらおかしいでしょ?ママだって怒るでしょ?」
「別に。カレーなら構わない」
「なんでよ! もうカレー作らないでよね。私そんなに好きじゃないんだから!」
「それ以上やんや言うなら怒るよ」
 ママの目が本気になったので、私は黙って食べ始めた。

 夕飯の後も、やっぱり宿題が残っていてイライラする。席替えのことを思い出しては、プンプンしてくる。
 私はリビングのソファの上にひっくり返って、道端でひっくり返った虫の真似をして、手足をジタバタさせて暴れた。
「まあ、そういう日もあるよ」
 スマホを見ながら、ママがのんびりと言う。
「ついてない日ってさ、とことんついてないよねえ」
 ジタバタするのをやめて、ソファからママを見上げる。
「ママ、ぎゅうして」
 私が両手を広げると、ママは若干めんどくさそうにしながらも、ぎゅうっと強めに抱きしめてくれた。ママの匂いがした。ほっぺを両手で包み込んで「まんまるですねぇ〜」と言いながら、もにもにされる。イライラが少しだけ小さくなる。

 なのに、最後にお風呂の時間でまた大爆発した。
 ママが、
「今日はお股から血が出る日だから」
 と言って、私は1人でお風呂に入らなきゃいけなくなった。私はお風呂場の前で憤慨した。やっぱり、とことんついてない日だ。
「もう1人で入れるじゃん」
 ママは言うけれど、そういう問題じゃない。私は一緒に入りたいのだ。
「何年生まで一緒に入るつもりなんだい?」
 あきれた顔のママ。
「そんなのわかんないよ!!」
 今日一番の大きな声で怒って、脱衣場のドアを乱暴に閉めた。
 温かいお湯に浸かりながら、1人で壁のタイルを見つめる。
 席替えAIのばか。乱暴な男子たちも、莉菜ちゃんの姉妹喧嘩も、2日目のカレーも、お股から血が出るママも、みんなみんな、ばか。
 お風呂から上がると、帰宅したお父さんがリビングでカレーを食べながらテレビを見ていた。
 お父さんの食べてる横で、ママに歯の仕上げ磨きをしてもらい、明日の時間割の確認をしてからお父さんにおやすみを言って、自分の部屋に行った。
 ベッドの上にいつもの3人、トトロとアラ山(ラスカル)とペガブタ(豚みたいは顔のペガサス)を並べて、ママにトントンしてもらいながら眠りについた。

最低な1日が、やっと終わった。

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