太平洋島嶼諸国のCB・免許不要のウォーキートーキー・SRD制度
――島々の暮らしに開かれた小さな電波
太平洋島嶼諸国の無線制度というと、「外国から持ち込んだウォーキートーキーが使えるか」という話になりやすい。
しかし、本稿で見たいのはそこではない。
その国で暮らす人々が、仕事、地域連絡、車両、日常生活、非常時などで利用できる小規模な無線通信は、どのように制度化されているのか。
人と人が直接話すCitizen Band(市民バンド、CB)がある。携帯型のウォーキートーキーがある。その隣では、車のキー、警報器、タイヤのセンサー、玩具、テレメトリー機器などが短い電波を送っている。
こうした機器を制度面から追うと、Citizen Band Radio Service(市民バンド無線サービス、CBRS)、General User Radio Licence(一般利用無線免許、GURL)、Short Range Devices(短距離無線機器、SRD)、Low Interference Potential Devices(低干渉可能性機器、LIPD)など、国ごとに異なる考え方が見えてくる。
本稿では、できる限り周波数、チャンネル数、チャンネル間隔、モード、最大出力、レピーター、緊急・呼出しなどの特別チャンネルまで具体的に見る。
以下は2026年8月19日時点で取得・確認できた公式資料を基本とする。現在原典を取得できない資料については、その旨を本文または註釈に明記した。検索結果、旧URL、二次資料だけを手掛かりに原典の内容を推測して補うことはしていない。
CB、ウォーキートーキー、SRDは何が違うのか
CBは、人と人との直接通信を主目的とする市民向け無線である。
古くから使われる27 MHz帯ではAM、Double Sideband(両側波帯、DSB)、Single Sideband(単側波帯、SSB)などが使われる。一方、太平洋地域では476~477 MHz帯のUHF CBも目立つ。
「免許不要」と呼ばれる仕組みにも違いがある。
利用者一人一人が無線局免許を申請する方式もあれば、規制当局が一定の技術条件を満たすすべての利用者を包括して許可する方式もある。
バヌアツで使われるGURLは後者である。
利用者本人が一台ごとの免許を申請しなくても、GURLに定められた周波数、出力、電波型式などに従って運用する。したがって「個別免許が不要」と「使用条件がない」は意味が違う。
SRDはさらに広い。
Remote Keyless Entry system(遠隔キーレスエントリーシステム)、Tire Pressure Monitoring System(タイヤ空気圧監視システム、TPMS)、警報器、センサー、玩具、RFID、BluetoothなどもSRDの世界に入る。
CBが「人が話す電波」なら、SRDには「機械が話す電波」も含まれる。
太平洋で目立つ27 MHz、245 MHz、477 MHz
各国資料を眺めると、CB・個人無線ではいくつかの周波数帯が目に付く。
一つは26.965~27.405 MHzを中心とする27 MHz CBである。
40チャンネル、10 kHz間隔という構成は世界的によく知られており、バヌアツの2012年資料やサモアの国家周波数表で確認できる。[1][2]
もう一つが476~477 MHz帯である。
バヌアツでは80チャンネルのUHF CBが公式資料にあり、サモアでも476.400~477.425 MHzがUHF CBRSとして国家周波数表に記載されている。[1][2]
そして少し異色なのが245 MHz付近である。
タイではNational Broadcasting and Telecommunications Commission(国家放送通信委員会、NBTC)が245~247 MHzの市民バンドを現在も制度化しており、160チャンネル、12.5 kHz間隔のバンドプランを公表している。[3]
トンガについても、2021年に政府サイトで公開されていたTonga National Spectrum Plan 2021(トンガ国家周波数計画2021)の協議版には、244.9875~246 MHz、80チャンネル、12.5 kHz間隔のVHF CBが記載されていた。
ただし、このトンガの公式PDFは現在404となっており、今回原典本文を再取得できなかった。そのため、本稿では2021年に公開されていた協議資料上の情報として扱う。[4]
CBには「非常時はここへ」というチャンネルがある
米国27 MHz CBではch 9、27.065 MHzが緊急・支援用途のチャンネルとしてよく知られている。
太平洋側にも、同じように特別な役割を持つチャンネルがある。
バヌアツのRadio Apparatus Licence and Spectrum Licence (Fees) Regulation(無線設備免許・周波数免許料金規則)2012年版Schedule IVでは、27 MHz CBのch 9=27.065 MHzを緊急通信専用としている。[1]
さらにUHF CBでは、
ch 5=476.525 MHz
ch 35=477.275 MHz
を緊急通信専用としている。[1]
つまり一つの国のCB制度の中に、27 MHz側のch 9と、477 MHz側のch 5・35という二つの緊急チャンネル体系が存在する。
タイの245 MHz CBにも特別チャンネルがある。
現行バンドプランでは、
ch 41=245.5000 MHz:防災、救援、緊急・災害時通信の主周波数
ch 1=245.0000 MHz:その予備周波数
とされている。[3]
周波数もチャンネル番号も違うが、「市民向けの共有無線の中に、非常時に集まる場所を決めておく」という発想は共通している。
バヌアツ――GURLで市民へ開かれるCB
Telecommunications, Radiocommunications and Broadcasting Regulator(電気通信・無線通信・放送規制機関、TRBR)は、CB用のGURLを公表している。[5]
ただし、バヌアツの資料は年代による違いに注意が必要である。
2010年施行のRadiocommunications Regulations (General User Radio Licence for Citizen Band Radio) Notice 2009(無線通信規則〔市民バンド無線一般利用無線免許〕2009年告示)では、HF側が26.330~26.770 MHzの40チャンネル、UHF側が476.425~477.400 MHzの40チャンネルとなっている。[5]
HF側では、
SSB:最大12 W peak envelope power(尖頭包絡線電力、PEP)
DSB:最大4 Wの搬送波電力
である。
UHF側では、
音声:16K0F3EJNまたは16K0G3EJN
選択呼出し:16K0F2EJNまたは16K0G2EJN
最大5 Wの搬送波電力
とされる。[5]
ところが2012年のSchedule IVでは、HF CBは26.965~27.405 MHzの40チャンネルとなる。[1]
代表的なチャンネルは、
ch 1=26.965 MHz
ch 9=27.065 MHz
ch 40=27.405 MHz
で、ch 9は緊急通信専用である。
出力はSSBが最大12 W PEP、DSBが最大4 Wの搬送波電力である。[1]
UHF側は80チャンネルとなり、
ch 1=476.425 MHz
ch 5=476.525 MHz
ch 35=477.275 MHz
ch 40=477.400 MHz
ch 41=476.4375 MHz
ch 80=477.4125 MHz
という構成になる。
最大出力は5 Wの搬送波電力で、ch 5とch 35が緊急通信専用である。[1]
ここで注意したいのは、2010年GURLと2012年Schedule IVで周波数構成が異なることである。
今回確認できた公開資料からは、両者の法的な継承関係を確定できなかった。そのため「2012年にGURLがこの80チャンネル方式へ改正された」とまでは書かない。
分かっているのは、公式に公開されている二つの資料で構成が異なる、というところまでである。
バヌアツのSRD――CBの隣にある生活用電波
TRBRのConsumer Champions Handbook(消費者チャンピオン・ハンドブック)は実在する公式資料であり、GURLや各種民生無線機器について住民向けに説明している。[6]
また、TRBRが公開するDraft Vanuatu Radio Frequency Spectrum Plan(バヌアツ無線周波数計画案)では、26.957~27.283 MHz付近の低出力利用として、ラジコン玩具、模型航空機、スポーツイベント、道路事故・緊急時、沿岸での人命救助、自然災害救援、ガレージドア開閉器、安全警報器などが列挙されている。[7]
ただし、この周波数計画は題名どおり**Draft(案)**である。
現行規則として引用するのではなく、その時点で規制当局がどのような用途を想定していたかを示す資料として読むのがよい。
それでも、市民向けの小電力電波に、会話だけでなく救助、災害、玩具、家庭機器まで多様な用途が想定されていることは分かる。
サモア――CBとSRDを一つの周波数表で見る
Office of the Regulator(規制当局)のNational Frequency Allocation Table 2017(国家周波数割当表2017)では、
HF CBRS:26.965~27.405 MHz
UHF CBRS:476.400~477.425 MHz
が明記されている。[2]
この国家周波数表からはCB帯そのものを確認できるが、今回確認した範囲では、CBの最大出力、細かなモード、緊急チャンネル指定まで確定できなかった。
ここを近隣国の値で補ってはいけない。
一方、サモアのSRD資料はかなり具体的である。
非特定用途SRDには、例えば、
26.957~27.405 MHz:10 mW ERP
40.66~40.70 MHz:10 mW ERP
433.05~434.79 MHz:10 mW ERP
などが記載されている。[2]
868 MHz帯にも複数の低出力区画があり、25 mW ERP、100 mW ERPなど用途に応じて出力が分けられている。
さらに自動車関係では、
キーレスエントリー:433 MHz台、ASKまたはFSK
TPMS:433.92 MHz、1 mW ERP、FSK
車両用呼出し警報:458.95 MHz、10 mW ERP、F1D・FSK
などが具体的に規定されている。[2]
Bluetooth機器についても2400~2483.5 MHzでGFSK、π/4 DQPSK、8DPSKなどの変調方式が掲載される。[2]
CBでは人が声を送る。
SRDでは、車の鍵やタイヤのセンサーが短い情報を送る。
サモアの周波数表は、この二つを同じ「民生用電波」の中で眺められる資料になっている。
パプアニューギニア――CBRSの帯域は確認できるが、細部は保留する
National Information and Communications Technology Authority(国家情報通信技術庁、NICTA)の公式技術基準一覧には、TR603 Citizen Band Radio Service(市民バンド無線サービス技術仕様)が掲載されている。[8]
現在確認できる公式情報から、
HF CBRS:26.965~27.405 MHz
UHF CBRS:476.400~477.425 MHz
であることは確認できる。[8]
一方、今回の再調査ではTR603本文そのものを直接取得できなかった。
そのため、以前の原稿に記載していたDSB 4 W、SSB 12 W、UHF 5 Wといった詳細値については、本稿では確定値として採用しない。
近隣のオーストラリアやバヌアツと似ているからという理由で技術値を補うこともしない。
パプアニューギニアにはLIPD/SRD制度もある。
NICTAが2026年に公開したRadiocommunications (Low Interference Potential Devices) Class Licence 2026(無線通信〔低干渉可能性機器〕クラス免許2026)関係の改定案では、26.957~27.283 MHzについて、
最大1 W EIRP
隣接するCBチャンネル中心周波数から5 kHz以上離す
占有帯域幅10 kHz以下
という条件が示されている。[9]
433.05~434.79 MHz、915~928 MHz、2400~2483.5 MHzなどの帯域も掲載されている。
ただし、これは2026年の公開協議案である。
NICTAは2026年6月25日に公開協議を開始し、7月10日に締め切ったが、今回の確認では、この2026年案が官報掲載によって発効したことまでは確認できなかった。[9][10]
したがって「現行LIPD制度では」とせず、「2026年改定案では」として扱う。
トンガ――245 MHz CBは興味深いが、現在原典を再確認できない
トンガの245 MHz CBは非常に興味深い。
2021年にトンガ政府サイトで公開されていた国家周波数計画の協議版には、
244.9875~246 MHz
80チャンネル
12.5 kHz間隔
のVHF CBが記載されていた。
さらに476~477 MHz台のUHF CBについても記載されていたとされる。
しかし、当時の政府公式PDFは現在404となっている。[11]
したがって本稿では、この数値を2026年現在の現行制度として断定しない。
「2021年に政府が公開した協議資料にはこのような構成があった」とするところまでである。
それでも245 MHzという周波数自体には比較する価値がある。
タイでは公式の245~247 MHz CBが現在も存在し、160チャンネル、12.5 kHz間隔で運用される。[3]
旧来の最初の80チャンネルは245.0000~245.9875 MHzに並ぶ。
このため、トンガの旧協議資料に現れた244.9875~246 MHz、80チャンネル、12.5 kHzという構成は、タイの245 MHz CBと非常によく似ている。
ただし、タイからトンガへ制度が直接導入されたことを示す原典は今回確認できなかった。
したがって「タイ方式を採用した」とは書かず、周波数配置に強い類似があるという観察に留める。
東ティモールのAutoridade Nacional de Comunicações(国家通信庁、ANC)が公式サイトで公開していた周波数資料の検索索引にも、244.9875~246 MHz、80チャンネル、12.5 kHzのVHF CBに相当する記述が残っている。[12]
ただし、このPDF本体も今回直接再取得できなかった。
245 MHz級VHF CBについては、興味深い地域的類似が見える一方、その伝播経路については今後の史料確認が必要である。
ミクロネシア連邦――CBは個人にも仕事にも使う
ミクロネシア連邦のDivision of Communications(通信部)は、Application for Citizens Band License(市民バンド免許申請書)を公式サイトで公開している。[13]
申請書には、
base
mobile
handheld
business
personal
call sign
などの項目がある。
家族や従業員を利用者として記入する欄もある。[13]
ここから見えるのは、市民バンドを個人的な会話だけに限定せず、仕事や従業員との連絡にも利用することを制度が想定していることである。
一方、この申請書には全国共通のチャンネル表、モード、最大出力、緊急チャンネルなどは掲載されていない。
米国との歴史的関係を理由に米国CBの40チャンネルやch 9をそのまま当てはめることはできない。
マーシャル諸島――地方行政にも現れるCB
Marshall Islands(マーシャル諸島)のMinistry of Transportation, Communications & Information Technology(運輸・通信・情報技術省)のFY2024行政報告では、CBを含む無線免許業務が実績として記録されている。[14]
報告書にはCB/Radio Licensedとして68件が記録され、離島でCBの検査、新規・更新業務を行った記録もある。[14]
さらに政府の戦略計画には、
VHF/CB radio call sign training(VHF・CB無線コールサイン訓練)
Domestic VHF/CB Radio Training for Local Governments(地方政府向け国内VHF・CB無線訓練)
が記載されている。[15]
これは現地利用を考えるうえで重要である。
CBが個人の無線機として存在するだけでなく、地方政府や離島での通信行政・訓練にも組み込まれている。
ただし、これらの行政報告から具体的なCB周波数、モード、最大出力、特別チャンネルまでは確定できない。
ツバル――安価なCitizen Station Licence
Tuvalu(ツバル)のTelecommunications (Radio) Regulations(電気通信〔無線〕規則)は、citizen station(市民局)を正式な無線局区分として定義している。[16]
市民局は、ツバル国内における個人的通信または利用者自身の事業上の通信に使われる。
Citizen station licence(市民局免許)の有効期間は12か月である。
公式法令集に掲載された2008 Revised Edition(2008年改訂版)では、市民局免許の交付と更新はいずれも5ドルと定められている。[16]
ここは年代に注意したい。
この「5ドル」を2026年現在の行政窓口での実料金とまでは確認していない。
したがって「現在も5ドル」とせず、2008年改訂版の法令では5ドルとする。
同規則にはEmergency station(緊急局)という別の免許区分もあり、同じ料金表では無料とされている。[16]
バヌアツがCB内部に緊急チャンネルを置くのに対し、ツバルのこの規則では緊急局を別区分として扱う。
非常時の通信を制度のどこへ置くかにも違いがある。
キリバス――CBの定義は確認できるが、現在原典は404
Communications Commission of Kiribati(キリバス通信委員会、CCK)の公式サイトに掲載されていたRadiocommunications Rules(無線通信規則)の検索索引には、citizen band station(市民バンド局)を27 MHzまたは470 MHz帯による個人的な短距離双方向音声通信として説明する記述が残っている。[17]
しかし、今回その公式PDFを直接開くと404となった。
したがって、
「キリバスでは27 MHzまたは470 MHz帯のCBが法令で定義されていたことを公式サイトの検索索引から確認できる」
というところまでは言えるが、今回原典本文を再確認できていない。
具体的なチャンネル中心周波数、モード、最大出力、緊急チャンネルについては不明としておく。
フィジー――27 MHz携帯機を免許行政で扱う
Telecommunications Authority of Fiji(フィジー電気通信庁、TAF)の現行料金資料には、27 MHz hand-held transceiver(27 MHz携帯型送受信機)が明示されている。[18]
料金区分では、
RF出力50 mW以下
50 mWを超えるもの
が分けられている。
さらに27 MHz機器について、陸上用途12 W以下、海上用途25 W以下という出力区分も確認できる。[18]
したがって、フィジーでも27 MHz携帯無線は行政上明確な機器カテゴリーとして認識されている。
一方、この料金資料からは、
40チャンネルCBなのか
AM、SSBなど何を使用するのか
ch 9などの特別チャンネルがあるか
までは分からない。
ここも空白を他国の制度で補わない。
ニウエ――免許不要でも音声通信は禁止
Niue(ニウエ)の政府法令集に収録されたRadio Regulations(無線規則)には、Restricted radiation devices(制限放射機器)という古い形の免許不要制度がある。[19]
一定の条件を満たす機器については免許を必要としない。
主な条件として、
通常の動作周波数:10~150 kHz
通信距離:50 ft、約15.24 m以下
50 ft地点の電界強度:15 µV/m以下
などがある。[19]
さらに、voice reproduction(音声再生)用のマイクを接続してはならない。[19]
ここでは、小電力の無線送信は許されても、それをウォーキートーキーのような人間同士の音声通信には使わせない。
SRDと音声通信が別の制度概念であることが、非常に分かりやすい例である。
ソロモン諸島――CBの詳細は今回確認できない
Telecommunications Commission Solomon Islands(ソロモン諸島電気通信委員会、TCSI)は、land mobile(陸上移動)、maritime mobile(海上移動)、fixed service(固定業務)、amateur(アマチュア)などについてspectrum licence(周波数免許)を発給している。[20]
しかし、今回確認できた公式公開資料からは、一般住民向けCBまたは免許不要ウォーキートーキーについて、バヌアツのようなチャンネル、モード、出力の詳細表を得ることができなかった。
したがって、ソロモン諸島について本稿から言えるのは、周波数利用が免許制度の下で管理されていることまでである。
CBの具体的制度については不明とする。
クック諸島――周波数管理機関は確認できるが、CB・SRD詳細は不明
Cook Islands(クック諸島)のCompetition and Regulatory Authority(競争・規制庁、CRA)は、Telecommunications Act 2019(2019年電気通信法)の下で周波数管理を担当している。[21]
ただし、CRA公式サイトのRadio Spectrum and Technical Matters(無線周波数・技術事項)には現在もUnder Constructionと表示される部分があり、今回CB・免許不要ウォーキートーキー・SRDについて具体的な技術表を確認できなかった。[21]
そのため、詳細は不明として扱う。
ナウル、パラオについても、今回の再確認では本稿で要求する周波数、モード、出力、特別チャンネルまで確定できる原典を十分に確認できなかったため、無理に国別技術値を記載しない。
SRD――人間が意識しない無線のほうが多い
ウォーキートーキーを基準に考えると、「無線機」とは人が手に持って話す機械に見える。
しかしSRDまで見ると、そのイメージは変わる。
サモアでは433 MHz台の自動車用キーレスエントリーがASKまたはFSKで送信する。
TPMSは433.92 MHz、1 mW ERP、FSKでタイヤの状態を車体へ送る。[2]
Bluetoothでは2.4 GHz帯でGFSK、π/4 DQPSK、8DPSKなどが使われる。[2]
利用者は「今から無線を使う」と意識しない。
車のボタンを押す。エンジンをかける。イヤホンを接続する。
それだけで小さな送信機が動いている。
現代の免許不要電波制度を考えるとき、CBやウォーキートーキーは目立つ存在ではあるが、SRDの世界はその周囲にさらに広く存在している。
12 W、5 W、10 mW、1 mW
民生無線の出力は用途によって桁が違う。
バヌアツの27 MHz SSB CBでは12 W PEP、UHF CBでは5 Wの搬送波電力が認められる資料がある。[1]
一方、サモアの非特定SRDには10 mW ERP、TPMSには1 mW ERPといった値がある。[2]
ただし、
PEP
搬送波電力
effective radiated power(実効放射電力、ERP)
equivalent isotropically radiated power(等価等方放射電力、EIRP)
は同じ測定方法ではない。
数字だけを横に並べて「何倍強い」と評価するのは適切ではない。
重要なのは用途である。
人間同士が離れて話すCBには相応の出力が必要になる。
車のキーは車まで届けばよい。
TPMSはタイヤから車体まで届けばよい。
SRD制度には、必要な仕事を果たす範囲だけ電波を届かせるという考え方がよく現れている。
携帯電話時代にCBやウォーキートーキーが残る理由
携帯電話とCBは役割が違う。
携帯電話は特定の相手を遠くから呼び出すことに向く。
CBやウォーキートーキーは、一つのチャンネルを複数の利用者で共有し、Push-to-Talk(送信ボタン、PTT)を押せばその場ですぐに声を届けられる。
ミクロネシア連邦の申請書ではpersonalとbusinessの双方が想定されている。[13]
マーシャル諸島では地方政府向けのVHF・CB訓練が政府計画に現れる。[15]
バヌアツではCBがGURLの下で市民向けに開かれ、緊急専用チャンネルも制度化されている資料がある。[1][5]
仕事、車両、地域連絡、地方行政、非常時。
こうした場面では、携帯電話が普及した社会でも直接通信型無線には独自の用途が残る。
周辺国との制度的な似方
476~477 MHz UHF CBは南太平洋の複数国に現れる。
245 MHz級VHF CBについては、タイの制度と、トンガの旧協議資料に強い類似が見える。
パプアニューギニアの2026年LIPD/SRD改定案にも、オーストラリアの制度を参照して設計された部分がある。[9]
こうした類似を植民地史だけで説明することは難しい。
近隣国で流通する無線機、技術基準、International Telecommunication Union(国際電気通信連合、ITU)などによる技術協力、地域内の周波数調和といった現在進行形の要素も考える必要がある。
特に245 MHz CBについては、タイ、トンガ、東ティモールの間に似た数字が現れるものの、制度がどの経路で伝わったのかを示す原典は、今回確認できなかった。
似ていることと、由来を証明できることは別である。
同じ「市民用無線」でも制度は違う
太平洋島嶼諸国の資料から見える姿をまとめると、かなり違いがある。
バヌアツではGURLによるCBがあり、公式資料から27 MHz、477 MHz、出力、モード、緊急チャンネルまでかなり具体的に確認できる。
サモアでは27 MHzと477 MHzのCBRSが国家周波数表にあり、SRDについては周波数、出力、変調方式まで細かく公開されている。
パプアニューギニアでは27 MHz・477 MHz CBRSの帯域を確認できるが、今回TR603本文を再取得できず、詳細な出力・モードは保留した。2026年LIPD/SRD資料は改定案である。
トンガの245 MHz・477 MHz CBは2021年の旧政府協議資料に記載されていたが、現在その原典PDFを再取得できない。
ミクロネシア連邦ではCBに個別免許を取り、個人用途と事業用途の双方を想定している。
マーシャル諸島ではCB免許・検査・地方政府向け訓練が行政資料に現れる。
ツバルではCitizen Station Licenceがあり、2008年改訂版法令では緊急局を別区分にしている。
フィジーでは27 MHz携帯型送受信機が免許・料金体系に明記されるが、チャンネルやモードまでは今回確認できない。
ニウエでは免許不要の低出力機器制度がある一方、該当する古い制度では音声マイクの接続を認めていない。
キリバス、ソロモン諸島、クック諸島などは、今回の公開原典からCB・SRDの技術条件を同じ精度で確定できなかった。
「不明」は制度が存在しないという意味ではない。
公開資料から確認できない、または今回原典を再取得できない、という意味である。
おわりに――島々の空中にある小さな通信網
27.065 MHzでは人が緊急通信に備える。
245.5000 MHzではタイの市民バンド利用者が防災・災害時の通信に備える。
476.525 MHzと477.275 MHzは、バヌアツのUHF CBで緊急通信専用チャンネルとして指定されている。
433.92 MHzではタイヤのセンサーが車へ状態を知らせる。
2.4 GHzでは身の回りの機器が互いに短い情報を交換する。
同じ「市民に開かれた電波」でも、国によってその形は違う。
包括免許で開く国がある。
個別免許を残す国がある。
CBの中に緊急チャンネルを設ける国がある。
低出力機器について周波数、変調方式、放射電力を細かく定める国もある。
そして資料を追っていると、もう一つ分かることがある。
国境を越えて似た周波数やチャンネル構成が現れても、その由来まで分かるとは限らない。古い法令が現行なのか、協議案が正式採用されたのか、昔の公式PDFが今も取得できるのか。それらを一つずつ確かめなければならない。
太平洋島嶼諸国の空中には、人の声、仕事の連絡、非常時の呼びかけ、車、警報器、センサーなど、さまざまな小さな電波が飛んでいる。
それらを支えているのは、「何MHzを使うか」だけではない。
誰に電波を開くのか。
どの程度の出力を認めるのか。
非常時にはどこへ集まるのか。
そして、人と機械の短い通信を社会の中へどのように組み込むのか。
小さなウォーキートーキーやSRDを追うと、島々が市民の電波をどう考えているのかまで見えてくるのである。
註釈
[1] Republic of Vanuatu, Radio Apparatus Licence and Spectrum Licence (Fees) Regulation, Schedule IV.
URL: https://www.trbr.vu/attachments/article/290/apparatus_licence_and_spectrum_fees_regulation.pdf
[2] Samoa Office of the Regulator, National Frequency Allocation Table 2017.
URL: https://www.regulator.gov.ws/images/Spectrum/NATIONAL-FREQUENCY-ALLOCATION-TABLE-2017-2.pdf
[3] National Broadcasting and Telecommunications Commission, Thailand, Band Plan for Citizen Band 245–247 MHz.
URL: https://www.nbtc.go.th/getattachment/spectrum_management/%E0%B8%81%E0%B8%8E%E0%B8%A3%E0%B8%B0%E0%B9%80%E0%B8%9A%E0%B8%B5%E0%B8%A2%E0%B8%9A%E0%B8%81%E0%B8%B2%E0%B8%A3%E0%B9%83%E0%B8%8A%E0%B9%89%E0%B8%84%E0%B8%A5%E0%B8%B7%E0%B9%88%E0%B8%99%E0%B8%84%E0%B8%A7%E0%B8%B2%E0%B8%A1%E0%B8%96%E0%B8%B5%E0%B9%88/%E0%B8%84%E0%B8%A7%E0%B8%B2%E0%B8%A1%E0%B8%96%E0%B8%B5%E0%B9%88%E0%B8%A0%E0%B8%B2%E0%B8%84%E0%B8%9B%E0%B8%A3%E0%B8%B0%E0%B8%8A%E0%B8%B2%E0%B8%8A%E0%B8%99-%28Citizen-Band%29/31600/Band-Plan-CB-245-247-MHZ.pdf.aspx?lang=th-TH&page=hsn
[4] Tonga, Tonga National Spectrum Plan 2021協議版。旧公式PDFは2026年8月19日の確認時点で404となっており、今回原典本文を再取得できなかった。
旧URL: https://communications.gov.to/images/2021/Tonga_National_Spectrum_Plan_2021_Final_for_Consultation.pdf
[5] Telecommunications, Radiocommunications and Broadcasting Regulator, Vanuatu, Radiocommunications Regulations (General User Radio Licence for Citizen Band Radio) Notice 2009.
URL: https://www.trbr.vu/attachments/category/130/GURL_for_Citizen_Band_Radio.pdf
[6] Telecommunications, Radiocommunications and Broadcasting Regulator, Consumer Champions Handbook.
URL: https://www.trbr.vu/attachments/article/517/trbr_consumer_champions_handbook.pdf
[7] Telecommunications, Radiocommunications and Broadcasting Regulator, Draft Vanuatu Radio Frequency Spectrum Plan. 草案。
URL: https://www.trbr.vu/attachments/058_Draft%20Vanuatu%20Radio%20Frequency%20Spectrum%20Plan%20VRFSP%20v3.pdf
[8] National Information and Communications Technology Authority, Papua New Guinea, Standards & Guidelines / TR603 Citizen Band Radio Service. TR603本文は今回直接再取得できなかった。
URL: https://ta.nicta.gov.pg/standards-guidelines/
[9] National Information and Communications Technology Authority, LIPD or SRD Minimum Requirements 2026. 公開協議案。
URL: https://www.nicta.gov.pg/wp-content/uploads/NICTA-LIPD-or-SRD-Minimum-Requirements-2026.pdf
[10] National Information and Communications Technology Authority, 2026年LIPD/SRD制度改定に関する公開協議。
URL: https://www.nicta.gov.pg/was-rlan-in-the-6ghz-radio-communications-lipd-class-license-2026/
[11] Tonga National Spectrum Plan 2021関係旧公式URL。2026年8月19日の確認時点で原典PDFは再取得不能。
旧URL: https://communications.gov.to/images/2021/Tonga_National_Spectrum_Plan_2021_Final_for_Consultation.pdf
[12] Autoridade Nacional de Comunicações, Timor-Leste, Frequency Allocations and Assignments Tables. 公式サイトの検索索引では245 MHz級VHF CBの記述を確認できるが、今回PDF本体を直接再取得できなかった。
URL: https://anc.tl/media/2023/02/Frequency-Allocations-and-Assignments-Tables-TLS-2022-11-18.pdf
[13] Federated States of Micronesia, Division of Communications, Application for Citizens Band License.
URL: https://tci.gov.fm/communications.html
URL: https://tci.gov.fm/documents/communications/applications/liecenseapp-citizens-cb.pdf
[14] Republic of the Marshall Islands, Ministry of Transportation, Communications & Information Technology, Annual Process Report FY2024.
URL: https://rmiparliament.org/cms/library/communications/58-2025-nitijela-session.html?download=827%3A2025-nitijela-communication-no-36-tcit-annual-process-report-fy-24-wm
[15] Republic of the Marshall Islands, Ministry of Transportation, Communications & Information Technology, Strategic Plan.
URL: https://rmiparliament.org/cms/library/communications/58-2025-nitijela-session.html?download=828%3A2025-nitijela-communication-no-36-tcit-fy-21-24-strategic-plan
[16] Tuvalu, Telecommunications (Radio) Regulations, 2008 Revised Edition掲載版。料金額については2026年現在の行政実務を別途確認していない。
URL: https://tuvalu-legislation.tv/cms/images/LEGISLATION/SUBORDINATE/1984/1984-0015/1984-0015_1.pdf
[17] Communications Commission of Kiribati, Radiocommunications Rules. 2026年8月19日の確認時点で公式PDFは404。検索索引上の記述のみ確認でき、原典本文は再確認できなかった。
旧URL: https://cck.ki/sites/default/files/2026-06/Radiocommunications%20Rule.pdf
[18] Telecommunications Authority of Fiji, Fees and Charges Schedule.
URL: https://taf.org.fj/fees-charges-schedule/
[19] Government of Niue, Radio Regulations, Niue Laws収録。
URL: https://www.gov.nu/media/pages/information/39290dbbd4-1764012801/niue_laws_vol4_part1_ul2022.pdf
[20] Telecommunications Commission Solomon Islands, Radio Spectrum Licensing. この資料自体はCB制度の詳細表ではない。
URL: https://www.tcsi.org.sb/index.php/resources/licensing/radio-spectrum
[21] Competition and Regulatory Authority of the Cook Islands, Telecommunications / Radio Spectrum and Technical Matters. CB・SRDの具体的技術条件は今回確認できなかった。
URL: https://cra.org.ck/regulated-sectors/
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