「ママーがいい」と泣いた朝、数時間後に家族が4人になった日
昨日の夜、娘は泣いていた。
「ママーがいい…」
そう言いながら、ママの枕を抱きしめている。
いつも元気ないーちゃんが、声を震わせながら涙を流していた。
おとうちゃんは隣にいる。
抱っこもしている。
頭もなでている。
でも今欲しいのは、おとうちゃんじゃない。
ママなんだ。
その姿を見て胸が苦しくなった。
出産のため入院している妻。
普段当たり前にいた人がいないだけで、子どもの世界は大きく変わる。
「もう少ししたら赤ちゃん産まれるからな」
そう声をかけても、
「ママがいい…」
と小さな声で返ってきた。
結局、いーちゃんはママの枕をぎゅっと抱きしめながら眠った。
その姿を見ながら、僕もなかなか寝付けなかった。
そして翌朝。
7時30分起床。
朝ご飯を食べて、いつも通り保育園へ向かう。
昨日泣いていたのが嘘みたいに元気になっていた。
子どもの切り替えの早さにはいつも驚かされる。
「いってきまーす!」
そう言って教室へ走っていく背中を見送った。
でも僕の心は落ち着かなかった。
今日は何かが起きる。
そんな予感がしていた。
10時20分。
妻から連絡が入る。
「陣痛始まったよ」
ついに来た。
スマホを握る手に力が入る。
落ち着こうとしても無理だった。
仕事の大事なプレゼン前とも違う。
昇進試験とも違う。
人生で何度も経験できることじゃないからだ。
時計ばかり見てしまう。
何をしていても集中できない。
ソワソワする。
ただひたすらソワソワする。
そして11時20分。
病院から電話。
「来てください」
その一言で一気に現実になった。
急いで病院へ向かう。
車を運転しながらも心臓はバクバクしていた。
12時。
病院到着。
でもすぐには生まれない。
進んではいるけど停滞気味らしい。
ただ待つ。
ひたすら待つ。
この時間が長い。
本当に長い。
そして何より妻が苦しそうだ。
僕は隣にいるだけ。
手を握ることしかできない。
「大丈夫?」
なんて聞いても意味がない。
大丈夫じゃないに決まっている。
それでも妻は頑張っていた。
改めて思う。
出産って本当にすごい。
男には絶対に経験できない。
実は1人目の時はコロナ禍だった。
病院に入ることすらできなかった。
立ち会いもできない。
生まれた瞬間も見られない。
だから今回が人生初の立ち会い出産だった。
42歳にして初めて見る光景。
嬉しい。
でも怖い。
感動する。
でも緊張する。
いろんな感情がぐちゃぐちゃだった。
そして15時。
その瞬間は突然やってきた。
赤ちゃんの泣き声が響く。
妻が安心したような顔をする。
僕はただ呆然としていた。
生まれた。
本当に生まれた。
そして顔を見た瞬間。
僕と妻は顔を見合わせた。
数秒後。
夫婦で大爆笑。
「いーちゃんやん(笑)」
「いや、完全にいーちゃんやん(笑)」
信じられないくらいそっくりだった。
目元も。
口元も。
表情も。
まるで5年前にタイムスリップしたみたいだった。
感動して泣くと思っていた。
でも先に笑いが出た。
それくらい似ていた。
赤ちゃんは小さい。
本当に小さい。
腕も足も細い。
でもちゃんと生きている。
一生懸命泣いている。
その姿が可愛すぎた。
何度も顔を見た。
何度も手を握った。
何度も写真を撮った。
見れば見るほど可愛い。
完全に親バカだ。
でも世の中のお父さん、お母さんはみんなそうだと思う。
家族が4人になった瞬間だった。
感動に浸りたい。
でも現実はそんなに甘くない。
次のミッションがある。
保育園のお迎えだ。
病院を後にして、いーちゃんを迎えに行く。
車の中で伝えた。
「赤ちゃん産まれたよ」
すると、
「ほんと!?」
目をキラキラさせていた。
病院へ着き、いよいよ初対面。
赤ちゃんを見た瞬間、
「かわいいーーー!!」
病室中に響く大きな声。
そして続けて、
「お世話するー!」
「ミルクあげるー!」
「抱っこしたいー!」
完全にお姉ちゃんモードだった。
昨日の夜。
ママの枕を抱いて泣いていた子と同じ子とは思えない。
たった一日。
でも確実に成長していた。
子どもってすごい。
親が思っている以上に強い。
そして育休に入って思う。
もし今も仕事優先の生活だったら、この景色は見られなかったかもしれない。
20年以上、会社中心で生きてきた。
朝から晩まで仕事。
家族との時間より仕事を優先した日もあった。
でも今日感じた。
人生で本当に大切なものは何だろう。
もちろんお金は大事だ。
資産形成も続ける。
FIREも目指している。
だけど、今日この瞬間だけははっきり言える。
どんな昇進よりも。
どんな評価よりも。
今日見た景色の方が価値があった。
もちろん綺麗ごとじゃない。
これから寝不足になる。
夜泣きもある。
赤ちゃん返りもあるかもしれない。
お金もかかる。
不安もたくさんある。
でも、それも含めて家族なんだと思う。
42歳。
人生の折り返し地点。
そんな年齢で、また新しい人生が始まった。
昨日まで3人家族。
今日から4人家族。
きっと大変だ。
でもきっと面白い。
そう思えた、人生で忘れられない一日だった。
