優先席に座る60代はシニアであってシニアでない
■ 優先席、もう遠慮しません宣言
定年退職してからというもの、私は優先席(シルバーシート)に堂々と座っている。もう完全に開き直った!
会社に行けば、「まだ若いですね」なんておだててくれる。だが年寄りだということは自覚している。
60歳の還暦ときは、優先席に座ることは、まだモジモジしていた。「まだ早いかな」「周りの目が」なんて気にしていた。でも今は違う。「定年退職=優先席フリーパス」だと勝手に思い込むことにした。座ったもん勝ちである。
「あれ、俺いつの間にか、ここに堂々と座れる人間になってたのか」とふと我に返る瞬間はある。でも見渡してみれば、車内で私より年上の人などほぼいない。つまり実質、最年少シルバー世代。むしろ胸を張っていい。
ただし心の中ではまったく「老人チーム」に入った自覚がない。好奇心も、物欲も、新しいものへの興味も、まだギラギラしている。「シニア」だの「高齢者」だのという言葉は、なぜかいつも「隣のクラスの話」みたいに聞こえるのだ。
この感覚、自分だけかと思って調べてみたら――まったく違った。世の60代、みんな同じことを思っていた。

Data1.「自分はシニアじゃない」と言い張る60代、まさかの9割
博報堂などの調査によれば、「自分をシニアだと思うか」という問いに、60代の約9割が「そう思わない」と答えているという。
9割。ほぼ全員が「いや、自分は違う」と言っている。誰もシニアを名乗りたがらない、謎の椅子取りゲーム状態である。
世間は気軽に「シニア向け」「高齢者に人気」と言うけれど、当の本人たちはそうくくられることを、心の中で全力で拒否している。
しかもマーケティング業界まで「"シニア"は調査上の便宜的な呼び方です」とわざわざ言い訳するレポートを出しているというから面白い。呼ぶ側も「すみません、あくまで便宜上です」と気を使うレベルで、実態と呼び名がズレまくっているのだ。
外見はしっかり年をとった。でも中身がまったく追いついてこない。このギャップを抱えたまま、みんな謎の元気で突っ走っている。それが今の60代の正体らしい。
Data2.60代の4人に1人が、こっそり「推し」に課金している
60代の4人に1人が「推し」を持っているという。アイドルでも俳優でもアニメキャラでも構わない。とにかく誰か・何かを全力で応援している人が、思ったよりゴロゴロいるということだ。
「推し活」なんて若者の専売特許だと思っていた。少なくとも私はそう思っていた。ところが蓋を開けてみれば、世代の壁などとっくに突破していたらしい。神社仏閣推し活というのもあるそうだ。
思えば私にとっての韓国ドラマも、立派な推し活である。キム・ハヌルの出演作を片っ端から追いかけ、「次は何を観ようか」とニヤニヤしながら物色する日々。自分では「趣味」のつもりでいたが、呼び方を変えれば私も堂々の「4人に1人」側の人間だったわけだ。
推すにはお金も時間もかかる。そして60代は、そこにしっかり投資している。財布のヒモは、思ったよりゆるい。
Data3.「まだまだ動けます」アピール、全世代トップ
「最近、新しく何かを始めた」と答えた割合が、全世代の中で一番高かったのが60代(約40%)だという。20代も30代も飛び越えて、堂々の1位である。
これは統計というより、我が身を振り返って「たしかに」と膝を打った。
私は退職後、60を過ぎてからテニスを始めた。もちろん上手くならない。上達の兆しゼロ。翌日に痛むのは筋肉ではなく関節という、なかなか渋いオチつきである。転倒したら、おそらく車いす生活になるリスクと隣り合わせだ。
それでも続けているのは、結局「まだまだ老けてませんけど?」というアピールだ。新しいことを始めるというのは、いわば「自分、まだ現役で動いてます」の生存証明なのだ。
もちろん、動くにもお金もかかる。しかし問題はお金ではなく、残された健康寿命なのだ。
Data4.自分へのご褒美、太っ腹すぎる60代
「自分へのご褒美に30万円以上使ったことがある」という60代が約18%いるという。20代はわずか5%ほどだから、この差は結構すごい。
この太っ腹っぷりの背景には、二つの心理が影響している。
ひとつは、健康寿命の逆算。自由に動けて、好きなことにお金を使える時間は、あと10年くらい。60代にとって「いつかやろう」はリスキーな選択なのだ。だったら、動けるうちにやってしまえ、という勢い。
もうひとつは退職金効果。まとまったお金が口座にドンと入ると。当然ながら大きくなる。「これくらい、まあいいか」の感覚だ。冷静に考えれば老後資金の一部なのに、その冷静さがどこかへ旅立ってしまうのである。
老後は、はじける
さて、どうだ?こんなデータを眺めてみると、私の感覚は正常だ。
今の60代は「老後をどう守るか」より、「これからどう暴れるか」を考えている世代。推しに全力投球し、新しいことに次々手を出し、自分にご褒美をドカンと出す。健康寿命を逆算しながら、けっこうしたたかに、そして能天気に前を向いている。
優先席にはちゃっかり座ることも、年甲斐もなく動きすぎて、ただ疲れているからなのだ。
気にしたら負けである。これでいいのだ。
筆者プロフィール
化粧品の研究員として入社し、気づけば40年。現場の仕事も、組織を動かす仕事も両方を経験した。昨年、63歳で定年退職。このシリーズは、その40年分の視点から感じるひとりごとである。
