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【骨折煉獄記 #18】躍動せよ、ローテーターカフ。目指せ110°!!

骨折から39日。

リハビリ前診察

週6日のリハビリ通いが始まった、水曜日。今日はリハビリの前に「リハビリ前診察」という、「その日のリハビリを安全に行えるか、医師が事前に体の状態を確認する検診」を受けるよう指示されていました。
僕は予約票を持って受付に向かいます。

「では、あそこの機械で血圧を測ってお待ちください。」
受付を担当されている方は数人いるのですが、おそらくもう全員と絡んだと思います。その中でも今日は、ちょっと不愛想で、予約番号が書かれた用紙を入れたクリアファイルも手渡しではなく目の前にバサッと無造作に投げるように置く、ぶっちゃけハズレ(失礼)の人でした(笑)。
僕はおみくじで凶を引いたような気分になりながら、血圧計の前の椅子に座って左腕を筒の中に通しました。

さて、と。
左腕を通したということは、体の左側を前方に押し出す体勢になったということです。そして血圧測定を開始するスタートボタンは、この筒の真横にあります。
ただでさえ装具に包まれて自力で動かすことができず、しかも左側を前に出したことにより逆にボタンから遠ざかった右側にいる右手でボタンを押すのは、どう考えても物理的に不可能です。そんなの、腕を通す前から気づいてたに決まっているじゃありませんか、いやだなぁ、まったく。
困った僕は、アゴでだったらなんとか押せそうか、なんて考えがよぎりましたが、それを実行する前に辺りを見回しました。

すると、ちょうどそこに看護師さんが歩いてきて、運よく看護師さんと目を合わせることに成功した僕はニッコリと微笑みました。僕の笑顔の意図をくみ取ってくれた看護師さんが小走りでやってきてボタンを押してくれます。
「腕、折れちゃったんですか?」
二言三言、言葉を交わし、出てきた計測結果の紙をビリッと破いた看護師さんは、僕の受付番号を確認するとそのまま結果の紙を持って戻っていきました。
あ、いくつだったか自分で見るの忘れた。

僕の番号が呼ばれます。ノックをして診察室へ。そこにいたのは、初めましての先生です。
「調子はどうですか?」
先生は入室したばかりの僕に問いかけます。
「あ、まあ、全く動かなくて困ってます。」
僕は装具の中の手をヒラヒラと振りながら答え、椅子に座ろうとしました。
「分かりました。では、今日もリハビリ頑張ってください。」

…え?

椅子に座ることもなく終了です。まさかの10秒です。
僕は釈然としませんでしたが、先生にお礼を言い、診察室を出てリハビリ室に向かいました。

リハビリが日課という生活

1回2単位の40分とはいえ、何度もリハビリをしてもらって積もった時間は数時間です。僕はすっかり担当の理学療法士さんと仲良くなりました。
僕は当然、さっきのリハビリ前診察のことを話しました。彼は「患者さんに意味がないってよく言われます」と苦笑いです。形だけ、という実態は否めないようです。

さあ、今日もリハビリ開始です。
まず、開始前に「関節角度計」で仰向けになった僕の、腕を前に上げる屈曲の動きの可動域の角度を測ります。関節角度計は、簡単に言えば測りやすいようガイドが付いている分度器です。
ジャスト90°、リハビリ初回から進歩なし。あと1週間でこれを110°にするのが今の目標です。

マッサージを受けながら、僕たちは友達のように雑談を始めると、映画の話になりました。映画というと、僕にはとっておきのネタがあります。ちょっと離れた街から通う彼に僕は語ります。
「この辺りはよく映画とかドラマの撮影に使われるんですよね。で、あの映画でも使われたんですけど、僕の家が別の県の街並みとして映って、しかもCGで大変なことになってたんですよ。」
最悪じゃないですかー、と無事に笑いをとることができました。続いて家つながりの話題に移ります。
「僕、今、家を建ててるんですよ。」
まだ20代半ばの彼からすごいセリフが飛び出してきました。しかも、土地の取得も含めての建築だそうです。さすがに驚きました。
まだ内装の調整は利くということで、AIで照明の種類や壁紙なんかを色々とシミュレーションしながら迷っているそうです。うーん、現代っ子。

耳障りのいい、ローテーターカフ

「ちょっと待っててくださいね。」
彼は受付の奥の本棚から分厚い図鑑のような本を持ってきます。彼が小脇に抱えるその本を指さし、僕は自身満々に言います。
「解剖学アトラスですね。」
さすがです、と彼が答えます。この、僕が家で身につけてきた知識を確認するというやりとりも定番となりました。

解剖学アトラスとは、人体の構造(骨、筋肉、血管、神経など)を詳細に図に起こされた、医療系の学生さんが買わされる…いえ、お勉強の強力なお供になるバイブルです。学生割もあるようですが、かなりお高いです。
余談ですが、心理学にも「ヒルガードの心理学」というその界隈では有名なバイブルがあるのですが、普通に2万円以上します。ちなみに、僕は買ったはいいけどちんぷんかんぷんです。なぜ買ったのか(笑)。

そんな難しい専門書を、彼は雑誌を扱うような手つきでパラパラとめくって目的のページを開きます。そこは肩周りの筋肉のページでした。あまりにリアルなその図解に、僕は「今日も夕飯は食べられないな」とみるみる食欲を失っていきます。
そこに並ぶ筋肉の名称を指さしながら、彼が言います。
「この、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋っていう、4つの筋肉を総称して…」
「ローテーターカフですね。」
僕は気持ち悪さを抑えながら言いました。

「勉強のペース早すぎません?でも、そうやって知識を持ってくれているとすごくありがたいです。やっぱり見えない部分のことなので、患者さんにイメージを伝えるのが難しくて。たまに分からないって怒り出す患者さんもいるんですよ(笑)。」
ただでさえ怪我でストレスが溜まっている患者さんを相手に、大変なお仕事です。
この病院ではローテーターカフではなく、日本語で「腱板」(正式には、「回旋筋腱板」)と呼んでいるそうなので、僕もそれに合わせることにします。

いつもこんな感じで、僕の予習レベルを確認した後は、彼がその一歩先の説明をしてくれます。今回は、そんな腱板の4つの筋肉の動きについてでした。
腕を上げる動きは、こっちの筋肉が引っ張って、逆にこっちの筋肉が伸びて…。
所詮は単語を覚えることしかできない僕の頭はショート寸前です。それでも、イメージだけはなんとか掴んで、家に帰って復習することにします。

リハビリを終えて、関節角度計で屈曲の角度を測ります。ちょっと無理やり感はありましたが、数秒しか我慢できないくらいの負荷をかけてグーッと伸ばし、なんとか95°を記録することができました。

たった5°。でも、僕たちにとっては大きな5°です。
もう二度と上がらないかもしれないとさえ思った僕の肩が、ゆっくりと復活の道を歩み始めました。

次回の予定と衝撃の費用

「明日は僕、休暇なので別の者が担当しますね。」
彼は当然、週5日勤務が基本です。しかも日曜と祝日は、外来は休みですが入院患者さんがいるので理学療法士さんは土日祝日も関係なく毎週出勤の曜日が変わります。
そして僕は、日曜祝日以外の月曜から土曜までの週6日のリハビリ通いなので、彼と合わない日も出てきます。
明日の担当さんもハードなのかな。僕は背中にヒヤリとするものを感じました。

お会計は、リハビリ前診察があったのでいつものリハビリだけの定額より少し多く請求されました。その差額は、340円です。
この金額は3割負担だから10割に直すと、えーと、1,133円。

ほう、なるほどなるほど。
…あ、血圧測定はタダじゃないもんね。

~~ つづく ~~


この記事を読んで、怪我で不自由にしている方を見かけたらそっと手を差し伸べてあげようと思う人が増えてくれたらと思います。
そして何より、僕と同じような境遇の方の参考になり、不安を少しでも解消するのに役立ってくれたら嬉しいです。




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