色彩を変えた面影
失ったものなら、幾つも思い出せる
指の隙間からこぼれ落ちたもの
季節の向こうへ消えたもの
もう二度と、同じ名では呼べないもの
そして、剥がれ落ちてしまった色
それでも、人は不思議なほど生き延びてしまう
乾いた風に慣れ、痛みの置き場所にも慣れ
いつしか、胸の震え方さえ忘れたつもりでいた
けれど、忘れたのではなく
ただ静かにしまい込んでいただけだったのだろう
あの日の午後の柔らかな光は、やけに静かで
世界は何事もなかったように流れていた
白い素肌に、水色のワンピース
肩まで伸びた黒い髪
ただ、それだけだった
なのに、目の奥で何かがそっとほどけた
誰かの記憶が扉を叩いたのか
あるいは、眠っていた季節が目を覚ましたのか
過去の忘れえぬ面影が
色も形も変えて、戻ってきたのかもしれない
けれど、その瞬間に気づいたのは
失ったものが完全に消えたわけではないということだった
そこには匂いを乗せた風が吹き
確かに鮮やかに色付いていた
痛みは薄れ、名残は輪郭を変え
それでもなお、心のどこかで生き続けていた
だから、立ち止まったのは
あの人ではなく、私の方だった
遠い昔から抱え続けた
傷つけたくないという願い
傷つきたくないという弱さ
優しさの意味がわからなくても
そのどちらも、もう否定しなくていいのだと
ようやく思えた
手を伸ばそうとは思わない
引き留めようとも思わない
失われたものは失われたまま
戻らないものは戻らないまま
それでも、残された光を見つめることはできる
風は風のまま
光は光のまま
ただ通り過ぎていく
その流れの中で、私は初めて
失ったものの重さではなく
今ここにある静けさを、受け取っていた
そして、世界が少しだけ美しく見えた
色彩を帯びた麗しき世界
それは、何かを取り戻したからではなく
失ったままでも、なお見つめられると知ったからだった
それだけで、十分だった
白い素肌に、水色のワンピース
真っ白なキャンバスに
色彩を添える微笑み
