【アマノ文筆クラブ】ショートショート『かわいいライトを買ったよ~』
早田進――かつて科学特捜隊の隊員として、時には銀色の巨人となって地球を守った男は、今や一人の好々爺として穏やかな余生を過ごしていた。 怪獣の咆哮が止んで久しい平和な日本。早田の生きがいは、中学生になった孫娘の「ひかり」だ。
「見ておじいちゃん!かわいいライトを買ったよ~」
ひかりは今度のライブに持っていく最新式のペンライトをおじいちゃんに見せびらかした。リビングで自慢げに振り回すそれは、ピンク色のリボンがあしらわれた可愛らしいデザインだった。
「ほう、綺麗だね」
早田は目を細めながら、ふと神棚に置かれた古びたベータカプセルを思った。ペンライトによく似た、銀色の筒。それは平和の象徴として、もう何十年も眠りについていた。
そんなある日、ひかりがライブに行く準備をしていた。 ふと、彼女の目が神棚に止まった。そこにあるのは、見慣れた銀色の筒。
「おじいちゃんのこれ、宇宙のすごい金属でしょ? 高級感半端ないし、ライブで目立てるかも!」
ひかりは自分の予備の古いペンライトを神棚に供え、黙ってベータカプセルをバッグに詰め込んだ。
数時間後、平和を切り裂くサイレンが鳴り響いた。数十年の沈黙を破り、大怪獣が市街地に出現したのだ。
「……ついに、この時が来たか」
早田は毅然とした表情で神棚に向かい、「銀色の筒」を握りしめ、現場へと急行した。燃え盛る市街地。早田は物陰に隠れ、お決まりのポーズで「ペンライト」を天に掲げた。
カチッ。
変身の衝撃波が走るはずが、先端がポワリとピンク色に光った。
「……ん?」
もう一度押す。次は青色。三回目は黄色。四回目は紫色。
「な、なぜだ……。カラータイマーより色数が多いじゃないか!」
必死にスイッチを連打するが、早田の体は一向に巨大化しない。ただ、戦場に虚しく七色の光が点滅するだけだった。
「なんだ、これは!」
怪獣が早田に気づき、その巨大な足が振り下ろされようとした、その時――。
その頃、ライブ会場。
「さあ、みんなー! 推しに光を届けてー!」
ステージ上のアイドルの掛け声に合わせ、ひかりはベータカプセルの点火ボタンを親指で力強く押し込んだ。
ライブ会場に、超新星爆発と見まがうほどの閃光が炸裂した。
「100万ワットの輝きだ」と称えられたフラッシュビーム。それがベータカプセルに数十年間、たまりにたまった太陽エネルギーが、一度に放出されたから堪らない。ひかりの体に眠る「M78星雲」の因子と共鳴したのだ。
「ぐんぐんカット」が再現し、彼女は一瞬にして身長40メートルの銀色の巨人に変身した。
「……え、私、大きくない!?」
天井を突き破り、ライブ会場に突如として現れた銀色の美少女巨人。
彼女のウルトラ聴力は、数キロ先で「なんだ、これは!」と困惑する祖父の声を捉えた。
「おじいちゃんがピンチ!? 待ってて、今行くから!」
ひかりは、巨大化してあまりに小さくなった「推し」のタオルを、宝物のようにぎゅっと握りしめ、マッハ5の衝撃波を撒き散らしながら現場へと飛び去った。後に残されたのは、無自覚に破壊され瓦礫と化したライブ会場と、目を回した数万人の観客だけだった。
一方、戦場。 「頼む、変身してくれ!」 七色のライトを連打する早田の頭上に、飛来した「孫娘」が豪快なドロップキックで怪獣に体当たり、一撃で怪獣は吹き飛んだ。
戦闘開始からわずか三分。カラータイマーが激しく点滅し始めると、ひかりの巨大な体は光に包まれ、元の女子中学生の姿で地面に降り立った。
駆け寄る早田の顔は、かつてないほど輝いている。
「ひかり! お前、なんという素晴らしい戦いぶりだ。M78星雲の血は、確かに受け継がれていたんだな。これで後継者問題も解決だ、地球の平和は安泰だぞ!」
早田は感動のあまり、ひかりの手を握りしめた。しかし、ひかりは膨れっ面でベータカプセルを突き返した。
「もうっ、おじいちゃん! なにが『後継者』よ! 全然可愛くないじゃない!」
「かわ……? 何を言っているんだ。成田さんがデザインしたあの銀色の流線型、シンプルかつ機能的な美しさこそがウルトラの真髄……」
「おじいちゃん、分かってない! 今どきの変身はね、もっとフリルとかリボンとかが舞って、キラキラしたドレスに着替えるの! あんな地味なタイツ姿、友達に見られたら恥ずかしくて学校行けないよ!」
「た、タイツ……。あれは皮膚なんだが……」
早田の困惑をよそに、ひかりはベータカプセルを指さして駄々をこねる。
「変身アイテムだってそうだよ! こんなシンプルな棒じゃなくて、もっとハートとか星がついたコンパクトにしてよ! あと、変身中は『ぐんぐんカット』じゃなくて、ポップな曲が流れてオシャレに変身させてくれないと、次は絶対に戦わないからね!」
「無茶を言うな! これは光の国の超科学で……」
「魔法少女系の変身じゃないと嫌だ! 絶対に嫌だー!」
夕暮れの街に、かつての英雄の困り果てた声と、新時代の(自称)魔法少女のわがままが響き渡る。 地球の平和を守る道は、怪獣退治よりも遥かに険しそうであった。
了
こちらの企画に参加させていただきました。好き勝手に書かせていただきました。ありがとうございます。
