【アマノ文筆クラブ】ショートショート『お人好しじゃない』(3)
「おじいさん、おばあさん、今まで育ててもらい、ありがとうございます」
陣羽織に身を包んだ桃太郎が、育ての親に丁寧にお辞儀をした。その真っ直ぐな瞳には、純粋な正義感が満ちあふれている。
村人たちは総出でこの若き英雄を取り囲み、口々に声を張り上げていた。
「今まで鬼に搾取されてきたんだ。桃太郎、俺たちの財産を取り戻してくれ!」
桃から生まれた桃太郎。小さな時から怪力を発揮し、歩けるようになるころには、村に押し入ろうとした鬼の手下と思われる男を一撃で殴り殺したほどだ。それ以来、村へ無断で侵入しようとする者はいなくなる。
しかし、このまま放っておけば、鬼どもが仲間を集めて一気に村に押し寄せるかもしれない。生まれて数年、今や大人と背丈が変わらなくなった桃太郎は、鬼ヶ島に攻め込むと言い出したのだ。
いよいよ出発のとき、桃太郎は村人たちを振り返って拳を突き上げた。
「今こそ鬼に恨みをはらすぞ! 僕たちは『お人好しじゃない!』」
歓声が上がり、皆が立ち上がる。見送るおばあさんは、ニコニコと慈愛に満ちた笑みを絶やさない。
桃太郎の背中が小さくなっていくのを見計らい、村人がおじいさんに囁いた。
「おい、じいさん、本当に一人で行かせちまって良かったのかい」
「いや、頃合いだ。共倒れになって鬼が一匹でも減れば、モモタロウプロジェクトは大成功よ」
「まったく、正義を気取った鬼一族のやつら、俺たちの仲間を捕まえたり、奪ったお宝を持ち主に返したり、忌々しい限りだ」
おばあさんは、桃太郎に向けて、笑いながら手を振る。
「ホントに、桃太郎は救いがたいほど『お人好しじゃない?』」
それを聞いたおじいさんが、呆れたように肩をすくめた。
「いや、人じゃねーし、鬼ヶ島からさらってきた鬼の子だし。これ以上成長したら、桃太郎の頭にツノが生えてくるから、今が潮時さ」
村の住人たちは、悪党独特の卑しげな顔を見合わせて、ゲラゲラと笑い合った。
了
こちらの企画に参加させていただきました。ありがとうございました。
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