【アマノ文筆クラブ】華のないふたり
もう長いこと一緒に暮らしているのに、彼は一向に私にプロポーズしてくれない。口には出さないけど私だって女。いつでもプロポーズを待ってる。
それは、夜景の見える高級レストラン。オーナーシェフが彼の友人なので、久しぶりに二人で食事に出かけたときのことだった。
突然店内のライトが消え、一組の若いカップルにスポットライトが当たった。
男性が花束をささげて女性にプロポーズ。
店中の注目の的。女性も嬉しそうにプロポーズを受けた。
店内が割れるような拍手に包まれる。
うらやましい。私も、あんなふうにプロポーズされたら……。
ところが、うちの奴ときたら他人事のような顔をしてやがる。
そんなプロポーズの余韻も冷めやらぬうちに、オーナーが私たちの席へ挨拶に来た。
当然、私はさっきのプロポーズ大作戦の話題を持ち出した。
なんでも、あの男性が事前にオーナーのところへ相談に来たそうだ。「最高のプロポーズにしたいから、協力してほしい」と。
なんてロマンチックなのかしら。
私はつい、オーナーに愚痴をこぼしてしまった。
「いいなあ。この人ったら、全然プロポーズしてくれないんですよ」
「えっ、それはいかんなあ」
オーナーは笑いながら、私の味方をした。
そのやり取りを聞きつけた周りの客がざわつき始め、
オーナーがそれを面白がって煽った。
「こちらの方もプロポーズをされるそうです!」
「おい、何言ってるんだ!」
彼は慌てて口を挟もうとするが、オーナーは無視した。
「皆さん、沢山の声援をお願い致します。声援が多いほど踊り子、もとい、求婚者はハッスルいたします!」
んっ?、さっきのカップルとはちょっと演出が違うような……。
手を叩く人、囃し立てる人。店内は大騒ぎ。
関係ない客まで巻き込んで、もはやお祭り騒ぎだった。
「プロポーズ! プロポーズ!」
「おい、聞いてくれ――」
彼は大声で何か言っているが、騒ぎの渦にかき消されて聞こえない。多勢に無勢である。
ついに観念した彼は、ゆっくりと私の前に立った。
瞬間、店内の喧騒が嘘のように静まり返る。緊張した面持ちの彼が言った。
「け、結婚してください」
「もうしてます」
どっと上がる笑い声。
「だから言いたくなかったんだよ」
「だって結婚するのにプロポーズなかったから」
「見合いで結婚したのに、今さらプロポーズって何だよ」
ここは、さらに突っ込む。
「花束は? 」
「花束は……ない! 華のないふたりだけに」
「うまい!」
「っていうか、ある訳なかろう。急にプロポーズさせたくせに」
そう言いながらも、夫は銀婚式の前祝だと言って、後日大きなバラの花束をくれた。
おしまい
こちらの企画に参加させていただきました。ありがとうございました。
