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【恋愛小説】LOVE SONG#10『LOVE LOVE LOVE/DREAMS COME TRUE』1995年・12月

12月の街は、イルミネーションがやけに眩しかった。
どこもかしこもクリスマスムードで、カップルも家族連れも、誰もが笑っていた。

だけど、僕には――彼女しか見えていなかった。

「メリークリスマス、なんて柄じゃないけど」

笑って渡してきたのは、智恵美がコンビニで買った赤いマフラーだった。

「ほら、首、冷えてるでしょ。風邪ひくと会えなくなるから」

助手席でそう言って笑う彼女の顔を、僕はまっすぐに見られなかった。

12月に入ってから、ポケベルの“OK”は毎日のように届いた。

ルールなんて、あってないようなものになっていた。

「今日だけね」

「ほんの少しだけ」

そんな言い訳を繰り返して、僕たちはどんどん深く沈んでいった。


その夜は、彼女の車に乗り込み、僕たちは人気のない海辺へ向かった。

真っ暗な防波堤に車を停め、ドアを開けると潮の香りが混じった冬の風が吹き抜ける。

ふたり、車のボンネットにもたれて、缶コーヒーを開けた。

「・・・浩人、来年も、こうして会えるかな」

「会えるよ。俺が会いに行く。何があっても」

「・・・そうだね。信じる。信じてる」

言葉にしてしまえば、すべてが壊れてしまいそうで。

だから、手だけをそっと握り合った。

彼女の手は冷たくて、だけど震えてはいなかった。


翌日、職場で彼女が少し遅刻してきた。

「上の子、熱出しちゃってさ」

疲れた顔なのに、僕を見るといつものように笑ってくれる。

その笑顔を見るたび、僕は彼女を守りたくなる。

けれど――彼女には“家庭”がある。

子どもがいる。

旦那がいる。

「・・・全部捨てて、俺と来てよ」

そんなことを、何度も喉元まで出かけて、でも言えなかった。


12月25日。

彼女が作ってくれた手料理を、ふたりで車の中で食べた。

保温バッグに入っていたお弁当。卵焼きと、煮物と、唐揚げ。

「クリスマスディナーって呼べないけど、ちょっとはマシでしょ?」

「・・・うん。最高だよ」

僕は、彼女の作ってくれたすべてが愛おしかった。


「浩人、私ね・・・ほんとは、逃げたかったんだと思う。
家庭とか、責任とか、全部から。・・・でも、逃げ場所って、なかった。
だけど、浩人がいてくれて、やっと呼吸できる場所ができたの」

助手席でそう言った彼女の横顔を、今でも思い出せる。

強くて、でもどこか壊れそうな、あの眼差し。


ふたりは気づいていた。

この関係は、ずっとは続かない。

誰かに見つかる日が来る。

終わりの時が、いつかやって来る。

それでも――僕たちは止まれなかった。

年末の夜、海辺の駐車場で流れたラジオからは、奥田民生の「愛のために」が聴こえてきた。

『愛のために、何ができるか考えている』
そのフレーズが、胸に深く突き刺さった。


来年の春には、きっとなにかが変わる。
でも今はただ、この瞬間を信じていたかった。
ふたりのCRAZYな『愛』は、すでに始まっていた。
もう、引き返せないところまで。

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