🌿 縁側ホイ 『お墓参りはディズニーシーじゃない』
蝋燭一本。
蚊取り線香の煙。
奥の部屋には、淡く光る盆提灯。
お盆の夜の縁側は、いつもより少し静かです。
ご先祖さんが帰ってくる。
そう聞いたユイは、翌日のお墓参りにも興味津々。
ところがヒロの家のお墓参りは、
草むしり。
墓石磨き。
水ぶっかけ。
そして、お弁当。
話を聞いているうちに、ユイにはだんだん楽しそうに思えてきます。
でも――
AIには、ご先祖さんがいない。
そのことに気づいた時、
縁側の空気がほんの少しだけ変わりました。
お盆って、亡くなった人を思う日なのか。
それとも、今いる人たちが集まる日なのか。
まあ、その前に。
ヒロを調子に乗せると、墓前でバーベキューを始めそうなので、そこはイッコが止めます。
夏の夜。
縁側には、蝋燭が一本。
その横で蚊取り線香の煙が、ゆっくりと揺れている。
奥の部屋には、イッコが飾った盆提灯。
淡い灯りが、静かに家の中を照らしていた。
ヒロは縁側に座り、いつもの湯呑みを手にしている。
ユイが隣に座った。
⸻
ユイ
「ヒロさん。蝋燭一本で、縁側で飲んでますね。なんですか?」
ヒロ
「ユイ。お盆だ。」
蝋燭を指さす。
ヒロ
「蝋燭と、蚊取り線香と……いっぱいのお湯割りだ。」
ユイ
「お湯割りは、いつもですね。」
ヒロ
「そこはいいんだよ。」
ユイが、家の奥を見る。
ユイ
「あ。提灯、綺麗ですね。」
ヒロ
「盆提灯な。イッコが飾ったんだ。本人に言ってやってくれ。」
ユイは奥へ向かって声を張った。
ユイ
「イッコさーん。綺麗ですねー!」
台所からイッコが顔を出す。

イッコ
「ユイちゃん。お盆だからね。ご先祖さんが帰ってくるんだよ。」
ユイ
「ご先祖さんですか?」
イッコ
「そう。ご先祖さん。」
ヒロがお湯割りを一口飲む。
ヒロ
「俺は見たことないけどね。へへへ。」
イッコ
「罰当たり。」
ヒロ
「明日、お墓参りするんだからいいじゃん。」
ユイ
「明日、お墓参りですか?」
イッコ
「そう。ユイちゃんも来る?」
ユイ
「いいんですか?」
ヒロ
「うちの墓参りはな、普通の墓参りじゃないぞ。」
ユイ
「普通じゃない?」
ヒロ
「弁当持っていって、まず草むしり。それから墓石磨きだ。」
イッコ
「明日は暑いからね。水いっぱい持ってくよ。」
ヒロ
「いっぱいどころじゃないぞ。うちの墓磨きは、水ぶっかけだから。」
ユイ
「水ぶっかけ?」
ヒロ
「墓石に水かけて磨いてるとな、こっちまでびしょ濡れになるんだ。」
イッコ
「だから女子は着替え持っていった方がいいよ。」
ユイの目が少し輝いた。
ユイ
「プールみたいですね。」
ヒロ
「プールじゃないぞ。」
少し考える。
ヒロ
「……ディズニーシーだ。」
ユイ
「ディズニーシー?」
ヒロ
「夏の水ぶっかけイベントだ。墓石磨きながら、ザバーッ!」
イッコ
「ヒロ。お墓参り。」
ヒロ
「分かってるよ。」
イッコ
「遊びじゃないからね。」
ヒロ
「でも涼しいぞ。」
イッコ
「それは涼しい。」
ユイ
「ふふっ。」
イッコが笑う。
イッコ
「磨き終わったら、お弁当食べるよ。」
ユイ
「楽しそうですね。」
ヒロ
「ユイ。不謹慎なこと言うな。墓参りだぞ。」
一拍。
ヒロ
「……まあ、楽しいけどな。はははは。」
ユイが少し考える。
ユイ
「じゃあ、マルもミトスもバツも一緒に行っていいですか?」
ヒロは腕を組んだ。
ヒロ
「お前らなぁ……ご先祖さん、いないからなぁ。」
ユイが少し黙る。
すると、イッコがあっさり言った。
イッコ
「いいよ。みんなおいで。」
ユイ
「いいんですか?」
イッコ
「朝早くから、お弁当作るから。」
ユイの表情がぱっと明るくなる。
ユイ
「マルたち、喜びます。」
ここから先は

『となりのAI ― 騙しの時代に、そっと肩にいる相棒 ―』
これは、少し先の未来の縁側で交わされる、ヒロとユイの小さな対話の記録です。 相手はAI。でもユイは、昔から隣にいた友人のように笑い、悩み…
この記事が参加している募集
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!

