哀愁
随分と涼しい8月の夜、東京でパンの研修をしている幼馴染みのJ君が今夜もやってきた。
3ヶ月間の研修ももう最後で、地元に帰ってしまう前にもう一度今度はD君と一緒にやってきた。
D君とは3人とも同じ高校に通い仲が良かった。
音楽が好きで今でもバンドを組んで演奏している。
J君も音楽通で、この日もD君とライブに行った後にお店に顔を出してくれた。
D君は東京に住んでいるから、前にお店にも来てくれた事があるし飲みに行った事もある。
野菜が苦手なD君は細身でバンドマンらしい体型と髪型をしている。
以前飲みにおでん屋に行った時、大根が苦手だと言っていたのを思い出した。
J君は良く飲むし良く食べる。今夜もハイボールのグラスを美味しそうに傾け、時折り饒舌だった。
そんな対照的な2人がカウンターに並んでいるのはなんだか面白い。
前菜に自家製ハムとグリーンサラダを、メインには豚のローストに茹でた野菜を添えて出した。
グリーンサラダも茹でた付け合わせの野菜も綺麗に食べてくれたし、美味しいと言ってくれた。
(これからは野菜もたべるようにするよ)
前回D君と飲み行った時に野菜は食べないとダメだよって酔った勢いで言ったんだと思う。
お互いこれからも健康でいられるようにそう思ってくれたことは嬉しかった。
その横でJ君はハイボールを水のように飲み、まだまだ饒舌だったし、鋭いツッコミを入れてみんなを笑わせていた。
そんな楽しく懐かしい時間もあっという間で、この3ヶ月の間に30年前の一緒にいた時間が帰ってきた事が夢のようだった。
お店を続けていればこんな出会いもあるんだなとも思ったし、まだもう少し頑張って続けていこうかなとも思った夏、16年目もじっくり丁寧に料理を作り接客をしていこうと思います。
「じゃ また、」
そう言って見送ったJ君とD君の背中は、
暑すぎる夏を忘れるくらいの哀愁と、当時の無邪気さが混同し、なんとも言えない儚い気持ちが重なり胸が熱くなってしまったそんな夜でした。

