ミラノは欧州屈指のウォーカブル都市になっている
case | 事例
ミラノはファッションと金融の都市として知られてきたが、過去10年にわたる都市計画の転換により、欧州屈指のウォーカブル都市として静かに頭角を現している。中心市街地は安全性・視覚的な魅力・徒歩圏内の施設密度において高い評価を受けており、都市モビリティの研究者たちは、歴史的中心部への自動車アクセス制限、駐車規制、環状線での低排出・交通規制ゾーンの設定が通過交通を着実に減少させてきたと指摘する。こうした取り組みは、ウォーカビリティを生活の質の指標かつ観光資産と捉える欧州全体の潮流とも連動しており、改善された公共空間・低速道路・交通量の削減が都市競争力を高めるという認識が広まりつつある。
歩行者空間の骨格をなすのは、ミラノの地理的中心である大聖堂広場から歴史的なアーケード(ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世のガッレリア)を抜けてミラノ東の玄関口と言われるサンバビラ広場へと続く東西軸だ。市の整備計画では、この軸線上の車線を削減・迂回させ、自転車レーンと緑化を組み合わせた歩行者優先ルートを整備しつつある。さらには城塞であり美術館としても機能しているスフォルツェスコ城まで続く北西方向の回廊でも再整備が進んでおり、大聖堂から城塞まで車とほぼ交差せずに歩ける連続したプロムナードが完成しつつある。旧見本市会場跡の複合再開発CityLifeでは地下道路整備による地上の完全カーフリー化が実現しており、ナヴィリオ運河地区では運河沿いのカフェ・バー、工房・小規模商店が歩行者回遊を促すスロー・ツーリズムの拠点となっている。
2020年にコロナ禍の緊急措置として始まった道路再編計画(Strade Aperte)が政策の大きな転換点だった。暫定的な自転車レーン設置と歩道の拡幅が数百キロ規模の恒久整備へと発展し、その後、同政策の対象となっていなかった交差点を広場へと転換するプログラムなどの取り組みが進んできている。また市内の大半のエリアで時速30kmゾーン化を目指す方針が示されており、車道の狭小化・隆起した横断歩道・シケイン設置などの物理的速度抑制策と組み合わせて実施される予定だ。現在最も注目されているのが、中心部北東の主要交通ハブ(Piazzale Loreto)再整備コンペで、選ばれた「アーバン・リビングルーム」構想は地上から車を排除し、樹木・ベンチ・地下鉄直結の大規模公共広場を創出することで、周辺住宅地から都心への歩行・自転車移動を明示的な目標として掲げている。
insight | 知見
ミラノのウォーカブル政策がコロナ禍の緊急実験→恒久化→プログラム化という段階的プロセスで都心全体の移動文化を変えてきたことは注目に値すると思います。日本の多くの都市では歩行者空間整備が観光地やイベント時の特例に留まっている中で、日常の移動全体を変えようとするミラノのアプローチは参考になります。
福岡市の天神・博多・ウォーターフロントをつなぐ都心軸は、現状でも多くは歩けるスケールのまちなみなので、ミラノが実行している自動車迂回・時速制限・物理的速度抑制、緑化、地下道整備、カフェ・バー・工房配置といった施策も試行して歩行者回遊を促すといいのではないでしょうか。
