【9】アラスカでオーロラ見るだけで人生変わったらどうしてくれるんだ
●でっかい熊の剥製見ながら食べる朝食はビューだね。ビュー。
アンカレッジでの最初で最後の朝は、とにかく
美しく素晴らしいもので、不思議と強めに
印象に残っている。
朝の8時前に起床し、宿の朝食サービスに
ありつくために一階に降りる。
比較的コンパクトなロビーの正面玄関には、
狛犬代わりなのだろうか、左右にシロクマと
ヒグマ(グリズリー・ベア)の剥製がでんと
構える。
どちらも後ろ足2本で立ち上がった状態で
あり、狛犬というよりかは阿吽の金剛力士像の
ようで圧倒される。
周りの壁にはムース(ヘラジカ:北アメリカの
ヘラジカのことをムースと呼ぶ)や
カリブー(ざっくりいうと北米のトナカイを
こう呼ぶ)の胸像がかかり、
正面玄関をくぐったうえには、黒クマが
うつ伏せでぺちゃんこになっているような
絨毯がかけられている。
天井からはムースの角を組み合わせて作った
シャンデリアが吊るされている。

昨晩のせわしない防寒具のやりとりであまり
じっくり見られなかったが、とてもアラスカ的
なロビーだ。
セルフサービススタイルの朝食は、トースト、
肉々しいソーセージ、大量のスクランブル
エッグ、ケチャップはいくら使ってもヨシ、
カップケーキ、インスタントのオートミール、
Yoplaitのヨーグルト、ゼリー、コーヒーも
飲み放題。
ざっとこのような定番のメニューだ。
せっかくなので少しづつ試してみる。
無性に美味い。
そしてなんだかブラックコーヒーを飲みたく
なる気分にさせられる。
旅先の宿で朝のコーヒーを嗜みたくなる
のはあるあるだろうか?

ひとつだけ空いていた窓際の席につき、
2人でコーヒーをズズズズと啜る。
朝の8時、窓から見る外の景色は真っ暗である。
12月末のアンカレッジの日の出は午前11時ごろ、
やっと太陽が出たと思って外に出ても、
午後3時ごろには夕方の雰囲気になり、
そこから長い夜が始まる。

旅先の食堂で過ごす朝が好きだ。
昨晩ぐっすり眠れようが、眠れまいが、
どちらにせよ頭がポーとなっている状態で
朝食を無意識に近い状態で口に運び、咀嚼し、
嚥下する。
この時だいたい旅を共にする仲間も口数は
少ないのが定石だ。食事をしたことにより
血糖値が上がり、さらにポーーとなっている
状態で辺りを見渡す。
同じように口数少なめにしている若者の
グループ、初々しいカップル、朝から元気
いっぱいでお母さんを困らせる子供と、
我関せずのお父さん、
普段の早起きがここで活きているおじいさん、
その隣でお茶を飲むおばあさん…
国内の旅行で何度となく見た光景だ。
それはアンカレッジのウィンゲートバイ
ウィンダムの小さな食事スペースでも変わらず
同じだった。
なぜか少し、救われれるような気持ちになった。
非日常を旅に求めているはずなのに、旅先で
日常を感じたことが案外記憶に残ったりする
のは、なんだか不思議だが、なんとなく
腑に落ちる気もする。
旅先にもなんの変哲もない日常があることを
想像するのはそんなに難しくない。
ただ、自分の足で旅をして、自分の目でその
日常を見ることにより、想像は色がついた
現実になり、経験になる。
旅先でいつも不思議な気持ちになっていた。
例えば、都内からお手軽に行ける熱海でも、
僕が普段感じている、なんの変哲もない
"普通"があり、僕が居ても、居なくても、
当然それは変わらない。
でも、なぜかその"普通"が強く印象に残る。
小さな時からその感覚があり、今風で言うと
エモい感覚になっていた。
大きくなってから、それはきっと"場所"が
違うからなんだろうと考えたことがある。
旅先という、いつもとは違う"場所"で、
いつも通りの"普通"を感じるとそこに
ギャップが生まれ"普通"がより際立つ。
そして僕はいつもそれに愛着のような感情すら
抱く。
東京から電車で1時間の熱海でも、飛行機で
13時間のアンカレッジでも日常は日常で、
人々の営みが変わらずある。
東京で満員電車に揺られている時も、上司に
詰められている時も、きっとどこかに同じ
ような人もいるし、
どこ吹く風、友人とおしゃべりしながら
お酒と食事を楽しむ人もいるだろう。
ひっくるめてどれも日常だ。
「世界のどこでも普通の日常があるんだな」を
たくさん自分の中に持っていれば、それが心の
安定剤になる気がする。
そしてそれは普段の自分の生きている世界から
遠ければ遠いほどパワーがあると思う。
裏を返せば、「どこか遠くへ行きたい」と思う
気持ちは、心が不安定だったり、なにか閉塞感の
ようなものを抱えている自分からのメッセージ
なのでは?とか小難しく考えてみる。
まあ、素人がちょろっと思いついただけで
裏付けも何もないけど。
そういえば10年くらい前から、とにかく、
どこかうんと遠くに行ってみたかった。
次回 ●わァ...ァ。空が綺麗…
