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サイドストーリー【文子の章】第2話(小さな世界の片隅で。)

前回巻末:文子がラジオを聞き、息子の春樹が登場した所から

”なんで、こんな事になったんだ…、一体いつから…。”
春樹は、ナンバーを偽造した黒いバンを走らせながら、思い返していた。

春樹には、一時期、命に代えてでも守りたいものがあった。
本気でそう思っていた。

”教祖…、いや、おやじさん…。”

”頼むから、生きていてくれよ…。”

”必ず…、必ず…、今度は、俺が助けるから。”

バンの後部座席には、同じく教団幹部の佐々木、岡部、石川が乗っている。

4人が乗った黒いバンは、幹線道路を走り、住宅街へ入る細い路地に入っていった。

第2話

バンを運転している(木下)春樹は、すらっとした出たちで、メーカー品のシンプルな黒いシャツに細身のジーンズ、靴は(いつでも全速力で逃げ出せるよう)スニーカー風のランニングシューズを履いている。

年齢は、30代前半だ。外見は、街で見かける若者のようであり、外見からは、とても宗教団体の“信者”であるようには見えない。

後部座席に座っている岡部、佐々木、石川も、春樹と同年代の30代だが、3列目に座っている石川は、3人と比べると、少しだけ年齢が若い。

岡部は、量販店で揃えた上下。佐々木は、メーカー品の上下。石川はアウトドアメーカーとメーカー品の組み合わせの上下等、それぞれ好みのものを着用しているが、足元の靴は全員が春樹同様、(メーカーは異なるが)ランニングシューズを履いている。

この日の為に、全員。走り込みの練習を重ねてきた。
400~800M位の距離なら、想定される追手の信者達なら、全員振り切れる自信があった。

”おい…、もう戻れないからな…。”

春樹は後部座席にむけて言った。
誰に向けられるでもないその言葉は、しばらく車内に漂った。

その反応のない時間の長さが、少し前に自分達が起こした行動の重さを物語っていた。

車内は、地方のローカルラジオ番組が、ちょうど聞き取れない位の小さな音量でBGMとしてかかり、その無音では耐え切れない緊張を、少しだけ和らげている。

”…。”

しばらくして、後部座席に座っている岡部が、その言葉を拾った。

”分かってるよ。俺たちだって、もう覚悟できてるよ。”

”なぁ、そうだろ…?”

岡部は、隣に座っている佐々木に聞く。

”あぁ…。出来てるよ。いつだったか…、皆で話をして、これを実行するって決めた時にな…。少なくとも俺はさ…、あの日に、腹を括ったよ…。”

佐々木が静かに言った。

”石川…、お前はどうだよ?”
”覚悟、出来てるか?”

佐々木は、3列目に座っている石川に向かって聞いた。

”で…、出来てますよ…。もちろん。"
”じゃなかったら、今日、ここに来てませんよ。”

”そりゃ…、本音を言えば、怖いですよ。俺だって…。”

”(警察に)捕まるのは怖いし、あいつらに捕まるのはもっと…。”

”でも…、”

“あの時、悩んだけど…、もし、おやじさん(教祖)がここにいたら…、きっとこうするに違いないって思ったんですよ。俺も…。”

”…。”

”そうか…、そうだよな…。”
再び岡部が、言葉を拾った。

4人の脳裏には、同じ光景が浮かんでいた。

春樹達は、自分達が知りえる教団内の、”ある情報”を、所轄の、ある信頼のおける刑事を通じて、リークし、近日、地元の警察が、本部に踏み込むであろう事を知っていた。

”ある情報”の奥には、もっと大きな”別の情報”もあるのだが、それについては、刑事に話してはいない。4人の中で現状、分かりうる所まで共有しておく所までに留めてある。確かでない部分もあるし、なにより、”別の情報”に、こちらが気づいている事を、教団に感づかれたくなかった。

今朝、教団の情報網から、本部に連絡が入り、当直の信者が、多数の警察車両が教団の本部に向かっていると、大声で伝えていた。
現場は一気に混乱した。
須崎が陣頭に立ち、証拠隠滅の指揮がとられる中、警察車両が到着した。
注意がその車両へ向けられている間に、4人は裏口から逃走、近くの月ぎめ駐車場に用意していたバンに乗り、その場を後にした。

“木下(春樹)…、お前こそ、ビビってる…。いや、後悔してるんじゃないじゃないのか?”

”何もかも…、全部失うんだぞ…。”
”教団も…、残りの人生も…。”

後部座席から、岡部が声をかけた。

“まさか…。今更、何言ってんだよ。
後悔なんてしてるわけないだろ。”

“ここで、俺らが止めなきゃ、あいつを…。
もう、教団だけの話じゃない…。とんでもない事になるだろ。”

”…。”

”その前に、あいつ…、”須崎”を止めるんだ。”

““須崎”を、とめられるのは、もう俺たちくらいしかいないだろ…。”

“今の…、須崎の周りにいる連中は、もう教団じゃなく“須崎の信者”ばかりだ。”

“そうだな…。”須崎の信者”というより、もう兵隊に近いな…。あいつに意見する奴なんてのは、もういないんじゃないのか…。”

後部座席の佐々木が言った。

”あいつ(須崎)自身も、気づいてはないだろうが、自分の言葉に相当縛られてそうだよな…。”

隣の岡部も遠い目をしながら言った。

”…。”

“もう、あいつの耳には、(一緒に教団を大きくして来た)、俺たちの声位しか届かないだろうし(もう届かないかもしれないけど)、あいつの考えも、思いも、この教団の全体像を把握してるのも、もう俺たちくらいしかいないと思う。”

“まぁな…。”

”…。”

“まだ、あいつに届くのか…?俺らの声は…?”

“さぁな…。”

“でも、多分…、”

“試されてるんだ…。俺たちは。”

”…。”

”覚えているだろ…、ここに入ったばかりの頃をさ。”

”おやじさん(教祖)も、まだ元気だったよな。”

”あぁ…、若かったな。皆…。”

”俺も、お前らも、須崎も…。”

”…。“

田園が拡がる民家の縁側で、汗と泥にまみれ、心地よい疲労を感じながら、おやじさんと、バカ話をして食事をしていたあの頃の様子が目に浮かんだ。

“守るぞ…。”須崎“を。”

“おやじさん(教祖)の事も…。”

“俺たちで、絶対に守ろう。”

”あぁ…。”

”須崎の事だ…、(多分)今朝の家宅捜索で、何かボロがでる事はないだろう。”

”問題は、その後だ…。”

”やけになったあいつは、”あれ”を引き起こしかねない。”

”…。”

”本気でやるつもりなのか…?、須崎は、”あれ”を?”

”分からない…。”

”俺たちも全部を把握しているわけじゃないが、もう準備は整っているだろう…。”

”その気になれば、須崎の一言で、すぐにでも、実行できる体制はとられているはずだ。”

”その前に、(”ある情報”の立証で)警察に須崎の身柄を拘束してもらう。”

”須崎が拘束されれば、とりあえず、”あれ”は回避できるはずだ…。”

”別の情報”については、後で対応してもらえばいい。”

”…。”

”今から行く所々に、”あの情報”を立証できる証拠になるものを保管してある。”

”それを回収した後は、俺ら、4人で分担して保管し、時期をみて、証言の証拠として警察(月島さん)に提出する。”

”それ、前も聞こうと思ってたんですけど…、なんで4人、別々に持つ必要があるんですか?”

3列目のシートから、石川が声をかけた。

”何かあった時の為だ…。俺らが居ない事に気づいた後で、須崎は追手を放つだろう。”

”人も物も1か所に集めるのはリスクがある。最悪の事を考えて、分散させといたほうがいい。万が一、俺らの誰かが教団の連中につかまっても、誰か一人生きていれば、事はすすめられる。”

”家宅捜索で、何か見つかるといいが、おそらく何も出てこないだろう。”

”警察(月島さん)には悪いが、最初から、それは期待していない。”

”俺たちが、外へ出るための手段として使わせてもらった。”

”家宅捜索で証拠が挙がらなければ、それ以上、警察(月島さん)は動けない。”

”最初は、俺が動くから、お前らは、指定の場所で待機していてくれ。”

”後は、また何かあれば、指示をだす。”

”もし、俺に何かあったら、後は、岡部、佐々木、石川の順に、所轄の刑事の月島さんに連絡し、連携をとってくれ。”

”須崎が勾留されて、安全が確保されたら、月島さんから連絡が入って、指定の場所へ迎えをよこしてもらう手筈になっている。”

”それまでは、皆、絶対に動かないでくれ。”

”…了解。”

”あと…、お互いの位置はこれで確認しよう。”

春樹は、助手席のバッグから、スマホと、アルミホイルにくるまれた3錠のカプセルを4人分取り出した。

”このカプセル、小型のGPSが入っているんだ。飲み込めば、排泄されるまで(24時間位)は体内に留まっているらしい。”

”今、飲み込めるかい?”
春樹は、後部座席に向かっていった。

”おう。”
後ろの岡部が、助手席の春樹の荷物を受けとり、佐々木、石川に渡した。

”ゴクッ…。”

4人は水なしで無理やりカプセルを飲み込んだ。

”そしたら、スマホ起動してさ、画面をね、大きく(X、X、O、X、O)って指でなぞってみてよ。”

アプリが沢山入ったスマホの画面が立ち上がった。
その上を言われた通りなぞってみると、顔認証の画面が立ち上がり、ロックが解除。4人の居場所がスマホのマップ上に表示された。

”すごいな…、これ…。”

岡部が言った。

”カプセルはさっきの排泄の時間に合わせて24時間で電源が落ちる様になってる。電源が落ちたら、次のカプセル飲んでね。”

”おう…。”

(次号へ続く)
第3話

※本日もお疲れ様でした。
社会の片隅から、徒歩より。

第1話。

※サイドストーリーの本編はこちらから。


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