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”きのせい”

-そして少年は、”いのち”と向き合い始める-



「着いたよー!」
母のキンキン声を聞いて、僕は眠たい目をこする。
ガタガタ車に揺られること、かれこれ6時間。僕は今日、キャンプに連行されたみたいだ。

「よし、父さんと母さんはさっそくBBQの準備をするぞ!」
なぜか息子以上にはしゃいでいる父。「まずは荷物運びでしょう」と楽しそうに笑う母。

で、それを冷めた目で見ているのが、子供の僕。
何故かって?こんなWIFIも無い掘っ立て小屋で1日、シティーボーイが何をするって言うのさ。焼き肉なんて、東京でも食えるだろうに。

車から外に出ると、ジメッとした空気が鼻を包む。
雨なのか霧なのか、山はたいてい天気が悪い。一緒に薪割りやるかぁ、と父が言うのを無視して、僕はキャビンに入った。

くうん、とクヌギの匂いがする。家なのに匂うなんて、なんか嫌だなぁと思う。だが、外よりはまし。
一面だだっ広い床をぎしぎし鳴らして歩くと、奥に布団が三枚敷かれている。寝転んでみると、床の硬さが伝わってきて、家のベッドとは大違いだ。

ゲームも無い。
スマホも使えない。

何もやることが無いから、
ぼうっと、薄茶色の天井を眺めるしかない。

相変わらず外からは、
天気と場違いな威勢のいい声が聞こえてくる。

はぁ。 僕はおおきくため息をついて、目を閉じた。

 
ねぇねぇ おーい 

なんだ、
もう起こしに来たのかよ。

「うるさいなぁ」と言って起きあがると、ひんやりとした空気に触れた。
あれ!?
見渡してみれば、
辺り一面、雑木林じゃないか。

木々の間を通る風が、ささやくように揺れている。
両目をじっと凝らして辺りを見ていると、ふいに背後から、「やっほう。」と声をかけられた。

振り向くと、
そこには
同学年ぐらいの女の子が一人。
勝気そうな顔で、肌が少し焼けているけれど、目はくりくりしていて、
まぁクラスにいたらかわいいほうだろう、と僕は勝手に思う。
よく見ると、女の子の後ろで、
ちびっこたちが、二、三十人くらいの輪になっていた。

さっきから脳内でパンクしている、
「ここはどこ?」
「君はだれ?」
を尋ねようとすると、

「私たちはここで暮らしていたのよ」
と、女の子が微笑んで言った。

へえ、そうなんだ…
ん?暮らして”いた”??

「そうよ。これからみんな、ばらばらになって、お引越ししないといけないの。もう今から、出るところだわ」
確かに、向こうのほうで喋っている子供たちは、どこかしんみりとしている。泣いてる子も数人。
僕は、先月クラスに転校してきた男の子を思い出した。確か、オトナのジジョウって、先生が言ってたっけ。

「君は、どこにお引越しするんだい?」ときいてみる。
すると女の子は、パッと嬉しそうな顔になって
「私はね… 秘密よ! みんなが楽しくなれる、すごいところにお引越しするの!!」 と、興奮した表情で教えてくれた。

そっかあ、それならよかった。
きっと楽しい引っ越しになるだろう。

「くぬちゃ~ん、そろそろ行くよ~!」
誰かに呼ばれて、「もうすぐ行くよぅ」と返したあの子は、
「もう行かなくちゃ。そうだわ、あなたとせっかく会ったのだから、私のお引越し先への招待状をあげる!きっと来てね!」
そう言って、僕の手に何かを握らせた。


「・・ちゃん? お母さんが通るわよ~」
聞きなれた声に、ハッと目が覚めた。

「あら、しょうちゃんが持っていたのね。よかったわぁ。」
あっ、と僕は右手を見る。
その手は、カギを握りしめていた。

起き上がって、辺りを見渡してみる。
ここはもちろん、キャビンの中だ。

さっきの出来事は、何だったんだろう。

「ねえお母さん、僕が寝ている間に、誰かキャビンに入ったかなあ?」
じゃなきゃ、あれは夢?

「誰も入ってないわよ!しょうちゃんがカギを閉めちゃうもんで、お母さん、マスターキーをもらって入ってきたんだから。」

そっかあ。僕はあらためて、自分の握っているカギを見る。
”くぬぎ”と書いてある。

「この名前、何?」と訊くと、
「それは、このキャビンの名前よ。」と教えてくれた。
「このキャンプ場のキャビンは、それぞれ木の名前がつくのよね~」

くぬぎ、か。
あぁ、なるほどなぁ。
あの夢の正体が、少しわかった気がして、
僕は嬉しくなった。

さっきまで寝転がっていた床を見る。
模様をじっとみつめると、なんだか人の顔のように思えてきて、僕はそっとそれをなぞる。しっとりとした手触りの奥で、僕は確かに、「命」を感じていた。
「お母さん、やっぱり… 僕、さっきまで誰かと話していた気がするよ。」
「もう、しょうちゃんたら、寝ぼけちゃって。気のせいなんじゃない?」

外から、薪を割る音が聞こえてくる。きっと薪も、もとは大きな木だったんだ。ここもかつては雑木林、いや、くぬちゃん達一人一人の住処だった。
彼らの命が、形を変えて、キャビンに、薪に、繋がってる。

扉に向かう途中、思わず、フッとわらって。

「そうだね、きっと、”きのせい”だね!」

BBQのお肉も、火を燃やす薪も、キャビンも。
たくさんの命が、僕を囲んでいる。
キャンプが楽しくなってきた。きっと扉の向こうにも、たくさんの命がある。
「お父さん、僕も薪割り手伝うよ!」
僕は、命の大地へと飛び出していった。


雲一つない青空が、少年を見つめていた。

実は全体でほぼ二千字です。
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