第214話 三浦奈々のデビュー前夜〜6リットルの水を抱えて現場に向かった理由
2026年4月にAVデビューする三浦奈々は、初めての撮影を終えた時、6リットルの水を飲み干していた。
しかもただの水じゃない。自分の体に合う銘柄を選び、わざわざ大阪から持参した。
━━なぜ、そこまでやるのか。
その理由を、デビュー作の撮影直後の夜、神保町の焼肉屋で聞いた。
6リットルの準備
夜の20時。店のテーブルには肉の煙が立ちのぼり、向かいには事務所の社長とマネージャー。隣に座る彼女は、つい数時間前までカメラの前にいたとは思えないほど、静かに笑っていた。
「緊張もありましたけど、それよりプレッシャーの方が大きかったです」
現場には想像以上に多くの人がいた。
━━その全員の期待に応えなければいけない。
そう思った瞬間から、眠れなくなったという。前日の夜は、1時間ごとに目が覚めた。
そして当日、彼女は“万全”を持ち込んだ。
「撮影当日の朝、迎えに行ったら、むっちゃでっかいキャリーケース持ってたんですよ」
マネージャーの山中さんが、やや興奮した様子で話す。
「その中身、何やと思います?」
お気に入りのぬいぐるみ、とかかな・・・・・・
「水ですよ! ほぼ全部、水!」
なんと、2リットルの水が3本も入っていたらしい。
「私、潮を吹きやすいんです。吹いた後、ぐったりしちゃって。だから水を飲んでおかないと、動けなくなることもあって」
彼女は言う。
現場に水も食べ物もあることは、事前に伝えてなかったなぁ、と山中さんは腕を組む。
でも彼女が水を持参したのは理由があった。お腹を壊さないよう、自分に合う銘柄を選んできたからだ。段取りと準備。彼女はすでに仕事人の顔をしていた。
ここまでしてでも成立させようとする。
この準備量は、単なる心配性ではない。
デビュー作を失敗させないための決意だ。

一冊の本が、人生を動かした
ある一冊の本が、三浦奈々の人生を動かした。
彼女がAV女優になった理由には、私が少し関係している。
『はだかの白鳥』だ。
「18歳の頃、一度AV女優になろうと思ったんです。でも面接を受ける勇気がなくて」
迷っているうちに、色々なライフイベントが進んでしまい、女優になる夢は諦めた。それでもAV女優になりたい気持ちは消えず━━
「ある時、人生の分岐点になることが起きたんです。それでもう一度、AV女優の夢に挑戦できないかなって考え始めるようになって」
それからAVに関する情報を集めた。現役女優のSNSをたくさん見た。そのうちに藤かんなのSNSに辿り着いた。すると彼女は本を出している。それが『はだかの白鳥』だった。
「AVと関係ない経歴の人が書いた本って、どんなものなんだろうって思って、すぐ読みました」
読み進めるうちに気づいた。 藤かんなは自分と同世代だ。
━━年齢の近い彼女も挑戦している。
━━だったら、私もいけるはずだ。
「正直、専属女優は無理かなって諦めかけてました。でも、ゼロじゃないって思えたんです。最後の一押しをくれたのが『はだかの白鳥』でした」
私の書いた本が一人の人生を動かした。
そしてその結果が、一本の作品として世に出ようとしている。
画面の向こうにいた人たちと、会った夜
三浦奈々のデビュー作の監督は、豆沢豆太郎監督だった。私のデビュー作と同じだ。
「監督、思っていたより若かったです」
彼女は笑った。
しまった、と思った。『はだかの白鳥』に彼の年齢と容姿を書き損ねていた。豆沢監督は38、9歳に見えるが、実年齢は不明だ。
「もっと人生への絶望感をまとったおじいちゃんかと思ったら、めっちゃ活き活きしてました」
監督は、たまに男子中学生みたいな顔を見せる。そんな人。
男優は貞松大輔さんで、これも私と同じだった。
「感動しました」
彼女は言う。
画面の中でずっと見てきた人が、今、目の前にいる。
絡みが始まる直前、抑えきれず貞松さんに言った。
「いつも観てます!」
彼はやや動揺した。
「僕、何してました?」
「セックスしてました」
━━そらそうやろ。
あ、これは私の心の声。
貞松さんは特別嬉しそうな様子はなかったそうだが、きっと心の中では喜んでいたと思う。私のデビューの時には、マイケルジャクソンみたいにターンした人だから。
「もう後戻りはできない」
「あと、撮影中のインタビューで、泣きそうになりました」
彼女の表情が少しだけ変わった。カメラが近づき、監督の声が聞こえた瞬間、思ったという。
「あ、これ、いつも見てたやつだって」
彼女は普段からAVを見ていた。画面の向こうだった世界に、自分が入り込んでいる。 その現実に、感情が追いつかなかった。
そして、もうひとつ。
「もう後戻りはできないんだなって思いました」

その一言は、軽くはない。
これからの未来、得るものはあっても、失うものもあるだろう。いつかこの選択を後悔する瞬間が来るかもしれない。この道が正解だという確証はどこにもない・・・・・・
ただこれは諦めきれなかった私の夢。夢に向かって踏み出す今に、未来の不安なんて必要ない。
だから彼女は、立ち止まらなかった。
「ここで泣いたら現場に迷惑をかけるって思ったら、スーンと冷静になりました」
彼女は、ふふふ、と柔らかい笑みを浮かべていたが、平気ではなかっただろう。期待も、感動も、不安も、後悔も、すべて飲み込んだ上で、前に進むと決めた。AVデビュー作というのは、人生に1度しかない大きな大きな一歩なのだ。彼女にとっても、どの女優にとっても。
三浦奈々という名前
彼女の名前は、三浦奈々。
私と同じ事務所エイトマンに所属し、メーカー『マドンナ』の専属女優になった。
「奈々」の由来は、事務所・エイトマンの「8」を名乗るには、自分にはまだ何かが足りないと考えたからだ。だから8の手前の「7」を選んだ。
足りないと自覚したまま、それでも進む。
だからこそ、このデビュー作には観る価値がある。
『はだかの白鳥』に背中を押され、「8」へ羽ばたこうとする。6リットルの水を抱えて現場に入り、 泣きそうになりながらカメラの前に立った彼女が、どんな一作を残したのか。
━━その答えは、観れば分かる。
※作品は配信中。発売は2026年4月14日。「三浦奈々 デビュー作」で検索してみてほしい。

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