見出し画像

第198話 『#寧々密会写真展』〜AV女優が京都の大学生アルバイトの面接をしてみた②


なぜ京都の大学生にバイトをしてもらうのか

 2025年9月14日、朝10時。『#寧々密会写真展』アルバイト面接1日目。前話でも書いた通り、場所は写真展会場である京都・海宝寺。住職の荒木さんが、特別に場所を提供してくれた。

 面接1人目。
 京都の某大学の女子大生4年。彼女の緊張が伝わってくる。なんだか不思議な気分。私も10年前は彼女側にいたのだ。それがまさかAV女優になって、学生を面接することになるとは。爪の先ほども予想していなかった。
 それにしてもAV女優・吉高寧々の写真展のバイト面接の1人目が、女性だなんて嬉しい。正直、男子学生しか募集してこないんじゃないかと思っていた。募集人数ゼロの可能性も予想していた。それが蓋を開けると、応募は200人超え。女子の募集割合は4割。
 未来は明るい。
 なんとなくそう感じた。いや、これまでが暗かったわけでもないけど、さらにどんどん明るくなる。そんな気がした。
「なんでこのバイトに応募してくれたんですか?」
 私の隣に座っているエイトマン社長が聞く。
「神社仏閣に興味があって。お寺で写真展なんて聞いたことなかったので、どんなのか知りたいなと思って応募しました」
 前代未聞の写真展をやらせてくれる、海宝寺の荒木住職、本当にありがとうございます。

 1人目の面接が終わり、一息ついていると、社長が言った。
「後の面接はやっておいて。写真展の打ち合わせが色々入ってるねん。面接の会話の感じは、他のことしながらでも聞いておくから」
 ギョッとした。AV女優になって、大学生の面接を単独ですることになるとは。産毛の先ほども予想していなかった。

 2人目は男子学生だった。履歴書アンケートには「34歳、大学院生」と書いてある。しかし見た目はどう見ても20代。
「大学院では何の研究してるんですか?」
 聞くと、彼はキョトンとした。
「僕、まだ学部3回生です」
 あちゃー。早速トラブル発生。
 どうやら、彼の履歴書をまとめる際に、私が違う人の学歴をコピペしてしまったらしい。
「そういうこと、よくあるんです。僕は運が良くないんです」
 彼は力なく言った。そんな悲しいこと言わないで。これは完全に私のミスです。ごめんなさい。
 面接の最後に、彼は「なぜ、大学生のアルバイトを募集しているんですか?」と良い質問をくれた。読者のみなさんも気になっていた所だろう。

『#寧々密会写真展』の写真家は笠井爾示

 2025年1月、まだ『#寧々密会写真展』をするかどうか検討していた時のこと。エイトマン社長が、幻冬舎編集者の箕輪厚介さんと話す機会があり、そこで「京都の写真展、どうやったら盛り上がるか」を聞いたのだ。そこで箕輪さんはこう言った。
「文化人を巻き込むと良いですね」
 京都といえば文化の街。京都のお寺という会場だからこそ、文化人との親和性も高い、という提案だった。それから色々と話は膨らんだ。
「やっぱりここでも百田尚樹さんに来てもらうか」
「5月の『はだかの白鳥展』に来てくれた千原せいじさんは、お坊さんだし良いのでは」
「京都大学の山中教授はどうだ」
「じゃあ、STAP細胞の小保方さんはどう」
「えー、それならオレは、DJソーダとかが良いな(笠井爾示の発言)」
 最終的に「京都といえば学生の街。そうだ、大学生を呼び込もう!」という結論に着地した。
 
「僕は運が良くない」と言った学生さん。良い質問を引き当てる時点で、運を持っていますよ。ありがとう。

左:笠井爾示さん、右:箕輪厚介さん

柔道家にボディーガードをしてもらおう

 面接3人目、法学部4年、体の大きな男子学生。大学では柔道部に入っているらしい。柔道部らしい寡黙な感じ。でもお目目はつぶらで少し可愛い。
「4年ということは、もう就職は決まりましたか?」
 無表情だった彼の顔が、感情で揺らいだ。
「就職するはずだったんですが、留年しちゃったんです」
 照れ臭そうに、でも少し不安そうに笑う彼。私はきっとその様子を、微笑ましく見つめていただろう。
 大丈夫、急いで就職しなくても。必死に就活して、張り切って企業に入っても、AV女優になちゃったりするんだから。

 彼が去った後、会場設営の打ち合わせをしていた社長と、会場運営を担当する『tokyoarts gallery(株)』の古村さんが、海宝寺の庭から戻ってきた。
「あの子、吉高寧々のボディガードに良いんちゃう?」
 社長は言った。
 学生の彼が吉高寧々に照れてしまいそうだけど、適任です。
「彼、お寺から出る時も一礼して出て行きましたよ」
 古村さんが言った。
 性格イケメンで、勉強もスポーツも頑張れて、でも就職留年するお茶目さもあるなんて。母性をくすぐるずるい人ですね。

 4人目。法科研究科の大学院2年の男子学生。彼の履歴書アンケートを読んで、気になるところがあった。「今までで一番感動したことは何ですか?」という質問に対する回答がこうだった。
「夏目漱石の『こころ』を読んだとき」
 20代前半の男性が『こころ』の何に感動したのだろう。文系脳はやはり感度が良いのかな。ちなみに私は、『こころ』の内容はさっぱり覚えていない。読んだか読んでないかも覚えていない。
「『こころ』のどこに感動したんですか?」
 メガネの奥から、問題用紙を見るような視線を投げてくる彼に聞いた。将来は弁護士になるらしい。
「あの本は、話の後半が『先生』から『私』に宛てた遺書なんですけど、僕も似た境遇で、驚いたんです」
 中学の頃、国語の先生が『こころ』を紹介してくれた。しかし先生は、彼が大学生になった時、死んだ。彼はふと『こころ』を読み返した。『こころ』そのものが、国語の先生からの遺書に感じられて、ゾワっとしたらしい。
「心揺さぶられたんですね。『こころ』だけに」
 メガネの奥の黒目は微動だにしない。最適解を高速で模索しているのが感じ取れた。私はその目を見ながら、なぜこんな面白くもない一言を足してしまったのだろうと、心から後悔した。『こころ』だけに。
「そうなんです」
 少しの間の後、彼は額にかかるサラサラの前髪を軽くかき分け、ふんわりと笑ってくれた。きっとこの青年は誰も見捨てない、心ある弁護士になるだろう。『こころ』だけに。

『#寧々密会写真展』
会場の海宝寺には3m×6mの巨大写真

アフリカの研究者になりたいけど、それで生活できるか不安

 最後に面接に来た男子学生は、大学院2年。高校の頃にロボットコンテストで優勝し、今は研究室でアフリカ・ガーナの歴史を研究をしているらしい。この情報だけでも、自分の「好き」を追究できる人だと想像がつく。
「つい2週間前もガーナに行ってきました!」
 キラキラした目で彼が言う。
「だからお金がなくて、バイトに応募しました!」
 その潔さが、さらに眩しい。
「ガーナの研究をするきっかけは何だったんですか」
  私は聞いた。高校の自由研究で、アフリカの1つの国について調べてくる機会があり、それからガーナについて調べるようになったそうだ。そんな自由研究をする高校があるのか。そこに驚く。私は恥ずかしながら、高校で日本史すら学んでいない。理系だったので必須科目ではなく、センター試験にもいらなかったのだ。という言い訳でしかないが。
「将来はアフリカの研究者になりたいです。ただそれで生計を立てようと思ったら、教授にならないといけない。でもアフリカのことを教える場が少ないので、教授になるのは難しくて・・・・・・」
 さっきまでキラキラしていた彼の目が、少し曇った。将来の立場や、生計という常識が、夢に邁進しようとする足元に、不安の影を落とす。この心境はよく分かる。
 きっと彼は真面目で、勉強も真剣に頑張ってきたのだろう。そういう人はなかなかバカになれない。常識に固められた理性がブレーキをかけて、自分の限界を突破できない。バカになった奴が勝つことも分かっているのに。自分の敵は自分。ライバルは真面目で賢い優等生ではなく、破天荒でバカな問題児。でもそんなことも全て分かっていて、分かっているのに、壁を突き破れない自分が悔しい。
 少々私と重ね合わせすぎた。
 ただ、彼と話しをしていて、彼は自分を突破できる人だと思った。今はまだ、将来に不安を抱えているかもしれない。だが「アフリカの研究者になりたい」と、夢を明確に言えている時点で、着実に進め気がする。それにきっと自分の「好き」を見失わないでいられる人だ。ロボットやアフリカのことを話す彼は、とても楽しそうだったし、輝いて見えたから。
 将来は「ロボットの起源はアフリカ〜ガーナ人が宇宙から伝承されていた」みたいな論文を発表して、ノーベル賞を勝ち取ってほしい。いや、それを超える新しい賞を自分で作ってほしい。

 面接1日目は20時に終了した。
 大学生は日本の宝。
 身をもって感じた。

いいなと思ったら応援しよう!

藤かんな サポートは私の励みになり、自信になります。 読んでくれて、ありがとうございます。